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追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第三章 魔王城編

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三人で、世界を降りる

戦いが終わったあとに残るものは、

勝利でも敗北でもなかった。

丘陵に吹きつける風は、あまりにも静かだった。


野島は崩れ落ちたルルカの側に座り込んでいた。

両腕で抱き寄せたその身体は、驚くほど軽い。


健気に魔王城に戻って、強さを装って、

前線にまで付いて来た少女の体は、


こんなにも華奢だったのかと、今さら気づく。


「……かんにんや」


声にならない声が漏れる。


ルルカの意識は深い場所に沈んでいる。

呼吸はある。脈もある。


野島を止めたとき、

彼女の体から微かな光が野島へ吸い込まれた。


それは「失われている」という感覚ではなく、

「奪ってしまっている」という実感だった。


今も体内でぐるぐる廻っている瘴気から勇者の力だけを

取り除いてルルカに戻す。


本当に出来たかはわからない。

だが、ルルカは目を覚ました。


「野島……もう一度お前の元に帰るのか?」


ルルカの指が、弱々しく動いた。

その手は布を掴むでも、宙を求めるでもない。


ただ、野島の胸元に触れようとしていた。


「……ここや」


聞き取れるかどうかの小さな呼びかけ。

また、ルルカが意識を手放さないようそっと囁く。


野島の喉が震えた。


「俺の中の瘴気を……聖剣が吸い取って、弾けた」


言葉は、幼さのようにこぼれた。


ルルカは静かに聞いている。

「スープが飲みたい…」


野島は額をルルカの肩に預ける。

頬を伝う涙が、服を濡らした。


「全部こぼてれてもうた。何もないー」


風が一度、丘陵を横切る。

遠くで兵士たちの呻き声が上がり、誰かの叫びが響く。

けれどここだけは、まるで世界が止まったようだった。


「村に帰ろう、なっ」


「ふふっ、おぬし、ひどい顔をしているな」


ルルカの呼吸は、ゆっくりと安定してきた。


野島はその背に手を回し、壊れないように抱きしめる。


守るためではない。


ただ、もう二度と離さないために。


◇ ◇ ◇


夕暮れの丘陵。焦げた草の匂いと、まだ大地に残る魔力の震え。


王軍と魔王軍は、互いに距離を置きながらも、

まだ武器を構えたまま立ち尽くしていた。


だが、誰一人として前に踏み出さない。


――あの力を再び見せられたら、軍がまるごと吹き飛ぶ。


その恐怖と実感が、両軍の兵士の背骨にまで染みついていた。


やがて、両軍の代表が野島の周囲に集まる。


ルルカに治療の魔術が淡く光を落とす。

その傍に座り込む野島の手は、まだ震えていた。


リディアはその二人の前に立ち、

軍の代表者たちへと振り返る。


「――ここから先は、

剣ではなく言葉で決められるべきです」


その声は、かつての聖女としての清廉さではなく、

何度も失敗し、何度も血を見て、

それでも立ち続けてきた人間の声だった。


「私達は、ここでこの戦を終えます」


ざわり、と陣の空気が揺れる。


賢者クライが言う。

「だが、野島は危険だ。暴走すれば――」


「それは、わらわも知っている」


ルルカが、弱々しく身体を起こしながら遮った。

血色の薄い唇に、それでも笑みを浮かべる。


「だが……何度も心を救われてきた。

勝手に『危険物』にするな。

こちらから攻めたことは一度もない」


「ルルカ様、騙されてはなりません!

この男はまたすぐに暴走する。魔王様も傷付つけ、

エギーユ様も重傷だ」


ずっと怒りを堪えてきた

魔王親衛隊のケリィが野島を殴りつけた。


だが、拳が折れたのはケリィだ。

野島はやるせないため息を付く。


王軍側の将が眉を寄せ、皮肉な笑みを浮かべた。

「お主の部下はまだ戦うつもりだぞ。

もう一戦交えるか……」


「悪いのはわかっとる。

 国とか、陣営とか、そんな話はせんでもええ!」


野島の声は、かすれていた。

泣いたままの目で、両軍を見渡す。


「争いは終わりや――それ以上でも以下でもない」


静寂が落ちた。


リディアは歩み出る。

白い外套に夕陽が差し、背に光輪の残滓が浮かぶ。


「レイジ様は、誰のものでもありません。

この先も、王軍でも、魔王軍の兵器でもない」


その言葉に、兵士たちがざわつく。


「だから、私たちは離れます」


「……なに?」


王軍・魔王軍、双方の代表が顔色を変えた。


「野島、ルルカ、そして私。三人で旅に出る。

あなた達が恐れるなら、それしかありません。


両軍に戻れば、同じことの繰り返しです」


それは、逃避ではなく――隔離でもない。

選択だった。


野島はゆっくりルルカの手を握る。

ルルカは力なく笑う。


「もう……歩けるか? 痛ないか?」

「歩くよ。二人に置いていかれたくないから」


リディアは二人を支え、丘を背に向ける。


「覚えておいてください。

あなたたちが再び戦争を始めるなら――」


振り返らずに、リディアは言った。


「私たちが止めに戻ります。

すべてを吹き飛ばさない保証はありませんが」


その宣言は、剣よりも重かった。


両軍は、それ以上踏み込むことができなかった。

恐怖ではなく――理解したからだ。


この三人は、もう「善悪」ではなく、

天災と同様の「現象」になってしまったのだ。


夕陽の中、三つの影は遠ざかっていく。

丘に吹く風だけが、その背を押していた。

傷ついたままでも、

危ういままでも、

それでも「一緒に生きる」と選ぶこと。

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