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追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第三章 魔王城編

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期限

勇者の力を前に、

王と軍が下した判断。


そして聖女に託された、

ひとつの“期限”。

戦場の余燼が、まだ丘の上を漂っていた。


風に運ばれてくるのは、焦げた土と血の匂い。

王と将校たちは、

簡易的に張られた天幕の下で円を作っていた。


長卓の上に広げられているのは、

たった一つの事実を示す資料だけだった。


円形に削り取られた大地の魔術図。

異常な振れ幅を示す魔力濃度の波形。

そして、簡潔すぎる被害報告。


沈黙が続く。


最初に口を開いたのは、賢者クライだった。


「……あの力は、勇者の範疇を超えています」


喉を鳴らし、続ける。


「敵味方の区別がなく、指向性もない。

 あれは――発生現象です」


神官長が低く頷いた。


「創成時代の禁録に、類似例がある。

 勇者の核と、魔王の瘴気。

 両者が同一の魂に宿った事例だ」


クライは卓を指で叩きながら、淡々と言う。


「その場合、個体は意思と無関係に“破壊の因子”となる」


神官長が、声を落とした。


「……止めに入った魔王ですら、

 逆に瘴気を吸われております」


誰も否定しなかった。


あの力は、我々を討つために放たれたものではない。

周囲にある命と魔力を、巻き取るように発現した。


奪う意志はなくとも、

止まらなかった。


王は静かに口を開く。


「最悪の場合、王都が消える可能性は?」


「否定できません」


即答だった。


短い沈黙。


やがて王は、丘の下――

まだ戦場の中心に立つ一人の勇者がいる方向へ、

視線を落とした。


「……聖女リディアには、彼との対話を任せる」


クライが顔を上げる。


「それは猶予ですか?」


「期限だ」


王は淡々と告げた。


「鎮静、制御、もしくは撤退。

 それが叶わなかった場合――」


神官長が続きを引き取る。


「勇者レイジを、

 神殿に封印する。今度は青の宝玉でな」


誰も反論しなかった。


「聖女リディアに聖印より通達を行います」


丘の上には、まだあの戦いの痕跡が残っていた。


◇   ◇


吹き飛んだ土。黒く焦げ色の草。

その中央に、野島は座り込んでいた。


膝に、小さな体を抱きしめるように。

ルルカは気を失っている。

胸は弱く上下しているが、痛々しい呼吸だ。


野島はただ、呆れたほど静かだった。

涙はもう出ない。泣きすぎて、枯れてしまっていた。


「……俺、またやってもうたんやな。」


誰に向けた言葉でもない。


その背にそっと風が吹いた。

草さえ揺れないこの丘で、ただ一つ、風が通る。


足音は軽い。気配は祈りのように静かだ。


「レイジ様。」


振り向かなくても、分かる声だった。


リディアは、戦装を脱ぎ、

外套一枚だけを羽織っていた。


野島は答えない。

代わりに、静かに訊いた。


「……お前が呼び戻してくれたんか。」


「はい。」


「見ていたんか?俺が、全部吹っ飛ばしたとこも」


「ええ。」


「ルルカが……俺のせいで……倒れたとこも?」


リディアは歩み寄る。

少しだけ距離を空けて、しゃがむ。


そして、野島の頬を打った。


「しっかりなさって下さい」


その言葉は、責めでも慰めでもなく

“事実の受け止め”だった。


野島は唇を噛む。


「止めるつもりやったんや

……ただ、それだけやったんや……

 誰も死んでほしくなくて……でも俺が、一番……」


言葉が崩れ、喉が詰まる。


リディアはそっと首を振った。


「あなたは、世界にとって“危険”です。

 でも、それは

――あなたの心が壊れているからではありません。」


野島は顔を上げる。

リディアは真っ直ぐに見つめ返していた。


「あなたは、他の人よりも“感じすぎてしまう”のです。

 誰かが傷つくこと。失われること。

 置いていかれること。

 あなたは、それを自分の中に取り込みすぎる。」


「……だから、壊すんか。」


「違います。」


リディアは拳を握りしめた。

今、言葉をあやまれば、きっと泣いてしまうから。


「あなたは“守ろうとしたから”壊れたんです。」


野島の肩が震える。


「ルルカも……それを分かって、あなたの側に立った。

 でも、彼女はもう、あなたを止められない。」


ルルカの白い指が、野島の服を弱く握る。

苦しい夢を見ている子どものように。


「じゃあ、俺はどうすればええんや……

 戦えへんかったら、皆死ぬ。

 戦ったら……俺がみんな壊してしまう。」


「だから、わたしが来たのです。」


ようやく、リディアは手を重ねる。

野島の拳の上。弱く、けれど確かな温度で。


「レイジ様。

 あなた一人が立つ必要はありません。

 あなたは、背負いすぎているんです。」


最悪のタイミングで聖印が光る。

白金の紋章が、脈打つように淡く光っていた。


「……王命?」


誰に向けた言葉でもない呟き。


次の瞬間、

聖印の奥から、冷えた感触が伝わってくる。


言葉はない。

だが意味だけが、はっきりと流れ込んだ。


――期限を与える。

――鎮めよ。導け。撤退させよ。

――それが叶わなければ。


リディアの指が、わずかに震える。

聖印の光が、一段階だけ強くなる。


――勇者レイジを、聖女が封印すべし。


リディアは目を閉じ、深く息を吸った。


野島の喉から、声にならない声が漏れた。


リディアは、もう涙を隠さなかった。


「わたしはあなたを救いたい。

 ルルカも、あなたを失いたくない。


 ならば――わたしたちは協力しなければなりません。」


野島は、すべてを察してリディアを見た。


「……俺を、封印する気か。」


「それは最後です。」


「じゃあ、俺をどうする。」


「一緒に、生きてもらいます。」


即答だった。


野島の呼吸が止まる。

リディアも、震えていた。

それでも目を逸らさない。


「あなたは一人ではいられません。

 わたしたちも、あなたがいなければ生きられません。


 だから――行きましょう。

 ルルカも、あなたも、わたしも。

 戦うためではなく、終わらせるために。」


沈黙の丘で、三つの心が重なった。


遠く、稲穂の旗が揺れている。

新しい風が、今、吹き始めていた。

三人の「終わらせるための選択」が始まります。

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