聖女の呼びかけ ~丘陵に響く、最後の祈り~
ついに王都軍と魔王城軍が激突――!?
リディアが信じ続けたレイジ様が現れる。
王都には、各地から招集された軍が続々と集まりつつあった。
城壁の上では弓兵が弦を鳴らし、
城内では鎧の擦れる音が絶えない。
張りつめた空気の中、
国王は謁見室で賢者クライへ視線を向けた。
「賢者クライよ。偵察はどうであった?」
クライは一礼し、静かに口を開いた。
「勢力は三分の一まで落ちておりますが……確実に再建中です。
魔王城周辺の魔物も活性化し、異常な増殖を確認。
新たな魔王出現の可能性は高いかと」
国王は重く唸る。
「……そうか」
クライはさらに報告を続けた。
「以前の戦争で討たれた者たちが、瘴気によってアンデッド化しています。
ゴーストやスケルトンとなり、森の奥に湧き出している様子です」
室内にざわめきが広がる。
最も表情を曇らせていたのは――聖女リディアだった。
国王が低く言った。
「勇者まで魔王軍の中核にいるとなると、容易には攻め込めぬ」
リディアは反射的に声をあげた。
「陛下、レイジ様は囚われているだけです!
魔王の奸計に違いありません!」
だが、国王は首を横に振る。
「村にも偵察を出した。
勇者は盗賊討伐を放棄し、自ら魔王軍へ向かったと報告がある」
「そ、そんなはずありません……!」
「さらに、聖女も懐柔された恐れがあると神殿が――」
「そのようなことは、断じてございません!」
リディアは机に手をつき、必死に言葉を絞り出した。
国王は穏やかに頷く。
「わかっておる。
だが疑念がある以上、策は慎重を期す」
国王は地図を広げた。
「森での決戦は避ける。
手前の丘陵地帯に軍を配置する。
魔獣とアンデッドが跋扈する森に踏み込まずに済むなら、勝率は上がる」
クライが眉をひそめる。
「しかし、敵をどう誘き出すつもりで?」
「聖女が呼びかければよい。
勇者レイジは必ず現れる」
室内の空気が一気に重くなる。
リディアは胸に手を当て、震える声で答えた。
「……はい。
わたくしが、レイジ様を呼び戻してみせます」
決戦の幕が、静かに上がった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
霧が薄れはじめた王都を、
軍勢は静かに出立した。
鎧の軋みすら鼓動のようにそろう中、
リディアの胸だけは晴れぬ霧に包まれたままだった。
(レイジ様……本当に敵になってしまわれたのですか)
隣を歩くクライが言う。
「顔色が優れませんな。
ですが、覚悟を。
呼びかければ勇者は現れる。
ただし“味方として”とは限らぬ」
リディアは唇をきつく結んだ。
「それでも……信じています。
レイジ様の心は、闇に呑まれてなどいないと」
クライは溜息をつき、前方へ視線を戻した。
◆ ◆ ◆
丘陵地帯に到着した王国軍は、迅速に陣を整えた。
高地に弓兵、斜面に騎士団、中央に魔法隊。
国王自らが陣頭に立つ。
「これより――聖女の呼びかけを開始する!」
リディアは両手を胸元で組み、目を閉じた。
祈りの魔力が空へ満ち、微風が髪を揺らす。
彼女の声は澄み渡り、瘴気の森へと染み込む。
「レイジ様……どうか――応えてください……!」
その瞬間。
森の奥で、大地が震えた。
黒い瘴気が渦を巻き、
獣の咆哮とも人の悲鳴ともつかぬ声が響く。
騎士たちが一斉に武器を構えた。
クライが叫ぶ。
「来ますぞ!
魔王軍――いや、先陣は……勇者と魔王か!?」
木々の間から影が溢れ出す。
獰猛な魔獣の群れ。
漆黒の甲冑をまとった軍勢。
そして、その最前列には――
野島とルルカがいた。
風に金髪を靡かせた野島は、戦場に場違いな鍋を抱えていたが、
その瞳は深い懸念に沈んでいた。
「レイジ……様……?」
リディアの声が震える。
彼女がもう少し注意深ければ気付いたであろう。
王都軍の兵種が弓兵に偏っていたことを。
兵士達の内に秘めた殺気を。
野島は、ゆっくりと歩み出た。
そして――その口元に、血が滲んでいた。
応援よろしくお願いします。




