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追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第三章 魔王城編

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穏やかな瓦礫の朝と、迫る王都の影

魔王城で畑を開墾するルルカと、畑班の面々。

温度と食事が紡ぐ、ささやかな再生の物日々に不穏な影がちらつく。

瘴気の霧が、魔王城の瓦礫を撫で、

いつもの朝が始まった。


再建途上の黒石の塔が朝陽に黒く光り、

かつて戦場だった中央広場には、

不釣り合いなほど素朴な畑が広がっている。


ゴチの大きな手が鍬を振るい、地をゆっくり耕す。

隣ではコウが軽やかに種を蒔き、

チャックが水桶を抱えて畦を回る。


村から呼び寄せられた三人は、

今や魔王軍の「畑班」だった。


「早速、汚名返上のチャンスを貰えるとは……悪かねぇな」


チャックが汗をぬぐい笑う。

稲穂の紋章を刺繍した黒い袖は、泥でまだらに染まっていた。


ゴチは無言で頷き、鍬を深く沈める。


土は素直に割れ、ふかふかとした畝が形を成す。

ルルカは小さな手で苗を植えながら、そっとつぶやいた。


「ここに根が生えたら……他のみんなも呼ぶのじゃ」


幼い魔王は、生えかけの角を揺らしつつ土の匂いを確かめた。

瘴気の毒気が、ほんのわずかに和らいだ気がする。


その少し離れた瓦礫の上では、

野島が鍋を火にかけていた。


村から持ち込んだ野菜と、魔王城の瘴気草を合わせたスープ。

——味覚が戻って以来、欠かしたことのない朝の習慣だ。


「ほな、今日の具材はこれでええか。

 コウ、雑草の舞で刻んどってくれ」


コウが鎌をひらめかせると、野菜は歌うように細かく散った。


「レイジさん、相変わらずのんびりだな」


チャックは軽口を叩くが、その目はどこか穏やかだった。

逃げ続けてきた過去が、ようやくほどけ始めている。


野島は木べらを回しながら肩をすくめる。


「のんびりでええやろ。争いより、

 飯の温度のほうがよっぽど大事や」


湯気が立ちのぼり、

シシリスープの香りが瘴気を押すように広がった。


◇ ◇ ◇


昼下がり。

畑仕事の合間に、皆は囲炉裏を囲む。


ルルカがスープを椀によそい、ゴチへ差し出す。

巨体のボブゴブリンは、意外にも慎重にそれを受け取った。


「魔王サマ……おいし」


低い声が満足げに響く。

コウもチャックも、黙って頷きながら温かさを味わっていた。


野島はルルカの隣に座り、小さな背を見守るように声をかける。


「ルルカ。あの旗の意味、分かっとるか?

 壊すんやなく、守るためのもんや」


ルルカは椀を握りしめ、小さくうなずいた。


「うん……昔のわらわは、壊すことしか知らなかった。

 でも、おぬしから守ることも教わった。

 畑も…壊すつもりじゃなかった」


チャックが震える手で椀を置く。

胸の内が温かく、呼吸と共に少し締めつけられる。


◇ ◇ ◇


夕刻。

畑の端で、コウが鎌を磨きながら森の奥を見据える。


「……気配がする」


チャックは即座に立ち、ナイフを握る。

ゴチが鍬を構え、ルルカの指先には瘴気がわずかに集まった。


野島は鍋を火から下ろし、皆の後ろに立つ。

転生の記憶が胸をざわめかせる。


——死んでも戻る身体。

 せやけど、もう死にとうない。


森から現れたのは、一人の斥候。

王都の紋章をつけた軽装の人間騎士だった。


こっそり様子を見ていたが、

チャックの投げたナイフが木に突き刺さった音で動きを止める。


「誰だ、お前」


斥候は慌てて剣を抜くが、

次の瞬間ゴチの巨影に覆われ、肩を押さえつけられた。


野島が一歩近づき、静かに問う。


「魔王城の偵察か?」


斥候は恐怖に揺れながら叫んだ。


「聖女リディア様の命で……魔王軍の再建を確認するためだ!

 勇者レイジ様の救出のために!」


ルルカの表情が青ざめ、指先から瘴気がこぼれる。


「レイジ?……囚われておらぬのに」


野島は斥候に椀を差し出した。


「伝えてくれ。戦なんか望んどらん。

 俺らは畑の根を守るだけ。

 ……ほら、スープ飲んでけや」


斥候は後ずさりしつつ、その温かさに目を揺らしたまま森へ消えた。


ほどなくして、親衛隊のエギーユが駆けつける。


「王都が軍を出す以上、迎え撃つ覚悟を決めねばなりません」


ルルカが野島の袖をつかむ。


「また、戦が始まるのかの……?」


野島は優しく頭を撫でた。


「リディアは分かってくれるはずや。……俺が行く」


しかしエギーユが槍を鳴らし、冷たく言い放つ。


「魔王様に気安く触れるな。そして、レイジ。

 お前が我らの味方であるというなら——行動で示せ」


夜風が稲穂の旗を揺らす。

濃くなる瘴気の霧の向こうで、

王都の影が静かに迫ってきていた。

畑班の仲間たちにも少しずつ根が生え、物語も静かに動き始めました。

これから王都との衝突が避けられぬ中で、

彼らが守る“温度”をどう描くか……ぜひ見届けてください。

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