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追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第二章 勇者編

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泥に根ざす恩返し ~泥の赦しと根張る家~(後編)

荒んだ世界の中で居場所を失った者たちが、

再び“帰る場所”を見つけていく

「魔王サマ、約束……!」

ゴチの声は、悲痛だった。


畑を失えば、自分もまた“何もない魔物”に戻る。

それだけは、嫌だった。


連携が、徐々に生まれる。

野島さんの修行の成果だ。


コウが折れかけた鎌を魔物の目に深々と刺す。

【神速雑草切り】――視界を奪い、巨体がよろめく。


その隙にゴチが正面から斬りつけ、

チャックが後ろから急所を突く。


魔物の動きが鈍り、ついに膝をつく。

ゴチの鍬が、首筋に沈む。

巨体が倒れ、土煙が上がった。


誰も勝利の声を上げない。

ただ、土の上にへたり込み、肩で息をする。

返り血と返り土が、顔を汚す。


沈黙を破ったのは、村の年寄りだった。

腰をかがめ、震える手で魔物の死骸を見やり、

畑をゆっくり見回す。


村人たちが集まり、静かに頷き合う。


「……ありがとねぇ。畑の守り手たちよ。

お前さんたちのおかげで、根はまだ生きてる」


言葉は風に紛れず、胸に響いた。

盗賊たちは顔を上げられず、ただ胸に熱いものが溜まる。


誇りじゃない。赦しでもない。

ただ、根が生えたような、確かな何か。


◇   ◇


夜、盗賊は森に戻った。

旅の土埃をまとった荷車を引いて、疲れた顔で畑に立つ。


踏み荒らされた跡と、武器を洗う盗賊たちを見て、目を細める。


「……この先どうするんだ?」

誰も答えず、チャックが――少し笑って言った。


「ちくしょう。畑が……まだここに有りがやる」


配下たちも、ゆっくり微笑む。

盗賊たちは気づいた。

自分たちはもう、“どこにも属さない奴ら”じゃない。


その夜、風はあたたかかった。

煙の匂いが、懐かしい家を思わせる。


数日後、再び夕暮れ。

ゴチは鍬を握り、空を眺めていた。


森の奥から一団の影が見える。

息を飲む。


「……来た、か」

コウが振り返り、目を丸くする。


「誰が?」


姿を現したのは、他の盗賊団の残党だった。

塵尻に逃げた、かつての仲間たち。


ぼろぼろの外套を纏い、武器を投げ捨てて。

チャックが彼らの先頭に立ち、

目の下に深い隈を作りながら、背筋を伸ばす。


コウが思わず叫ぶ。


「お、おい……全員戻ってきたのか?」


チャックは畑の前で足を止め、ゆっくり膝をつく。

黒く枯れた土に、額を擦りつけるほど深く。


鍬を握る手が震える。


「……悪かった。

ちゃんと謝っていなかった。

俺は、怖かったんだ。

あの子が、あれほど泣いて守ろうとしたのに

……逃げちまった」


土に落ちる雫は、汗か涙か。


「でも、村に戻って気づいた。

どこにも居場所なんて、なかった。

俺らが持って帰れるのは、この畑の泥しかねえんだ」


ボブゴブリンのゴチが鍬を置き、歩み寄る。

大きな腕で、チャックの肩に手を置く。


「お前ら、戻ってきた。それでイイ。畑は、逃げナイ」


チャックが顔を上げる。目の縁が赤く濡れている。


「……許されるのか?」


ゴチは不器用に笑う。

土臭くて、優しい笑い。


「ココデ、お前ら働ク。生きる場所。それだけだ」


その瞬間、嗚咽が漏れた。誰も隠さない。

コウが土まみれの鍬を差し出す。


「ほら。手、空いてるだろ?」


チャックは震える手で受け取る。


「……ああ。空いてる。

ずっと、空っぽだった」


夕日が沈み、畑に影が落ちる。


「……俺ら、まだ逃げちまうかも知れねぇぜ?」


「盗賊でも、最低限……恩くらい返せるだろ」


その影は、かつての盗賊ではなかった。

働く者の影だった。


畑は息をしている。

瘴気の中でも、泥の下でも、

生きようとする根は消えなかった。


それはまるで、誰かに似ていた。

小さな手で必死に守ろうとしたあの少女に。


そして、帰る家を探し続けていた野島に。


――帰る場所は、まだここにある。



畑を守り、手を汚し、誰かのために鍬を振るう。

そんな小さな選択の積み重ねが、

彼らに新しい居場所を与えました。

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