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追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第二章 勇者編

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野島 vs エギーユ ― 味を失った勇者と泣いた魔王

魔王城の再建を巡り、野島と親衛隊が衝突する。


槍が風を裂いた。エギーユの眼光が鋭く光る。


野島はとっさに体をひねり、地面に転がる。

砂塵が舞い上がり、焦げた畑の匂いが鼻を突いた。


「……まだ戦う気か、エギーユ!」


「当然だ。魔王ルルカ様を連れ戻し、

 魔王軍を再建するのが我らの使命!」


その声には歓喜すら混じっていた。


「そこに軍を壊滅させた勇者が混じるのは、屈辱の極み!」


槍の穂先が太陽を受け、白く光った。


いつもは震えが来る光景だが、

野島は拳を握りしめ、吐き捨てるように言った。


「屈辱? お前らが見てるのは“玉座”の魔王であって、

 この子が流した“涙”や“手の泥”は見てへんやろ!」


エギーユの眉がひくりと動く。

「下賤な者に情けをかけるなど、魔王の尊厳を損なうだけだ!」


「尊厳、か……」

野島はゆっくりと立ち上がり、

背後に立つルルカの方へ手を差し伸べた。


「俺にとっての魔王は――

 人間でも、魔族でも、ただ“誰かを守ろうとする子”や」


ルルカは涙で濡れた頬をぬぐい、小さな声で呟いた。

「野島……」


「主を惑わすなっ!」


怒声とともに、エギーユが槍を振りかぶる。

その瞬間、土が跳ね、空気が震えた。


ルルカの足元から淡い光があふれ、

黒い瘴気と混じり合いながら結界を形成していく。


「やめんかっ!」


その声は、風の中で震えた。

畑を焦がした炎が、今度は彼女自身の心を焼いていた。


光と瘴気が交錯し、空間が歪む。


野島は結界の内側で、槍の穂先を握り止めた。

手のひらから血が滴る。


「お前らルルカの涙が見えんのか!

 魔王城で何を再建するつもりか知らんが、しょうもない」

野島は息を整え、あえて笑って見せた。


エギーユは歯を食いしばり、槍を引こうとする。

だが野島は離さない。


「魔王の意思を、親衛隊筆頭のお前が軽く見るなら、

 お前が仕える“王”は――もうこの子じゃない」


沈黙。


エギーユはしばらく何も言わなかった。

そして、槍を地面に突き立てると、静かに頭を下げた。


「……その心が、魔王の選んだ“道”であるなら、

 我らは従おう。だが、裏切り者は許さん」


「裏切り者ってのはな……

 約束を忘れるやつのことを言うんや」


野島の言葉に、エギーユは目を細める。

そして短く笑った。


「ふん……勇者レイジ。お前ずいぶん印象が変わった。

 前は魔王もろとも俺達に切り捨てに来たはずだ」


ルルカは野島の血のついた手を見て、

おずおずと自分の手を重ねた。


「いたい……?」


「平気や。ちょっと、泥んこになっただけや」


「聖女じゃなくてすまん。童は傷を癒せん」


二人の手を見て、ゴチが小さく笑った。

「畑ノ勇者ト魔王、イイ絵ダナ」


野島は苦笑しながら、夕陽を見上げた。

「……せやな。まだ、種は生きとる」


――畑を焦がした瘴気の下、

新しい芽が、静かに土を押し上げていた。


ルルカは小さく微笑み、そっと野島の手を握った。

「ありがとう。野島がいてくれるなら……怖くない」


こうして二人は、再建される魔王城を目指すことになる。

村にはゴブリンとコウが残り、畑を守る新たな絆が芽生えていた


――瘴気の残り香が、風に混じって優しく揺れるように。


◇   ◇


魔王帰還の歓迎の宴、勇者野島は隔離されたものの


宴の席と一緒の高級食材が運ばれてきた。

香りは華やかで、色は美しい。

けれど、一口含んだ瞬間に気づいてしまった。


――味がしない。


舌の上を転がる感触だけが虚しく残る。

料理として成立しているはずなのに、

何も、何一つとして心に届かない。


一人の食卓で、野島はただ静かに箸を置いた。


視界がぼやけたのは、照明のせいか、それとも。


ふと。

脳裏に、あの日の村の台所が蘇る。


泥まみれの野菜。

洗っても少し土の匂いが残っているような人参。

ゴチが獲ってきた、ちょっと硬いけれど旨味のある肉。

焼いている間に煙が天井を黒くするような鍋。

そして――


「に、におい……いい……」


台にちょこんと座り、足をぶらぶらさせていたルルカの姿。


彼女は味見が下手だった。

ちょっと舐めるだけで、すぐ「おいしい!」と言う。

実際は塩が足りてなかったり、水っぽかったり。

なのに、野島は笑っていた。


「おいしいって言ってくれるなら、それでええわ」


そう言ったときの、ルルカの顔。


――救われたみたいに、ほっとして、嬉しそうに笑った。


魔王である彼女は、村の誰からも恐れられていた。

自分の力で畑を壊しかけることもあった。


それでも、それでも。


彼女は、野島のために、

畑のために、村のために、必死に生きようとしていた。


泥だらけの手で、少し曲がった包丁を握って。

「にんげんと、一緒に、ごはん、つくりたい」

と、震えながら言った日のことを、野島は覚えている。


火加減が強すぎて、鍋が黒焦げになった。

チャックは怒鳴り、ゴブリンたちは右往左往した。

ルルカはしょぼんと肩を丸めて、

「……ごめんなさい……」

と、消えてしまいそうな声を出した。


その時、野島は彼女の頭にそっと手を置いた。


「失敗なんか、なんぼでもやればええ。

 明日また作れば、もっと美味くなるやろ」


ルルカは、ゆっくりと顔を上げた。

頬に涙の跡が残ったまま、笑った。


あの笑顔は、何より温かかった。

何より、味があった。


震える指を見下ろしながら、

彼はぽつりと呟いた。


「……なんで、瘴気を捨てようと思ったんかな。俺」


誰の肩書きでもなく。

誰かの道具でもなく。


ただの、野島として。

ただの、誰かと一緒に、飯を作って笑いたかっただけなのに。


胸の奥に、ぽたりと熱いものがこぼれ落ちる。


「……ルルカ」


呼んだその名は、やさしかった。


野島はようやく、気づき始めていた。

何を得て、何を失いかけているのかを。


――シシリの残り香が、風に混じって優しく揺れるように。


あの味は、きっと、取り戻せる。

戦いよりも、静かな夜の食卓が痛い。

“味”を失った野島が再び何を噛みしめるのか、

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