表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第二章 勇者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/31

紅と聖のはざまで ―魔王と聖女、それぞれの夜―

◆ 第一章:ルルカ視点 ―森に還る紅の瞳―

◆ 第二章:リディア視点 ―勇者を照らす光と疑念―

《ルルカ視点 ―森に還る紅の瞳―》


ゴブリン集落へ続く小道、森は静かだった。


虫の声すら、今はもう遠い。


足元の草が冷たい。


野島には言わなかったが、

身に纏う瘴気は全盛期の一割にも満たない。


指先が、かすかに疼く――


勇者の剣が残した、冷たい余韻。


皮肉な話だが、勇者に切られたおかげで

残りかすが絞り出されたようなものだ。


──それでも、野島が生きてくれてよかった。


姿形が変わっても、わらわにはすぐわかった。


「……おぬし、我を捨てるのか」


あの時、そう問うた。


それでも彼は笑って、“捨てへんよ”と答えた。


肩の温もりがまだ残っている。


あれは、勇者レイジの肩ではなく――


野島という、あの男のもの。


森の奥、ゴブリンたちの集落が見える。


彼らは、魔王の落胤であるわらわを

怯えながらも迎え入れた。


ホブゴブリンまで進化したゴチが出迎える。


その短い言葉に、

ゴチの忠義が滲む――かつての配下の温かさだ。


「女魔王サマ、もう助からない、思ッタ。

 ──力ヲ失ったか?」


「ああ、もう勇者相手には戦えぬ。

 今は……待つのじゃ」


「何ヲ?」


ルルカは目を伏せる。


「“約束”を」


夜風が頰を撫でる。


指先に、あの男の体温が蘇る。


彼の中に残る“瘴気”――

それは、わらわの欠片。


離れてなお、魂がつながっている。


「“あの野島”が勇者の皮を被って……

 どこまで、もつかのう」


赤い瞳が細まる。


「何故だろう。

 頭に浮かぶのは魔王城の日々より

 野島の中で過ごした畑仕事のことばかり」


森の奥で、月が雲に隠れた。


焚き火が一斉に揺れる。


その火が映すルルカの影は、

幼女に似つかわしくない憂いを含んでいた。


「……おぬしの帰る場所はここではなかったのか」


小さな声が、風に紛れて消えた。


周囲には、ゴブリンたちが申し訳なさそうに

木の実を並べている。


「ルルカ様、どうぞ……」


「こんな酸っぱいもん、誰が食うか」


ぷいっと顔を背けるが、腹が鳴る。


「……一口だけじゃぞ」


ぱくっ。


「すっぱいっ!」


ゴブリンたちが慌てて逃げる中、

一匹がそっと木の実を追加する。


その忠義に、ルルカの唇がわずかに緩む。


「勇者としての使命とか、

 聖女の隣とか、

 そっちのほうが楽しいんか……?」


何だか無性に腹が立ってきたの。


翌日、ルルカは野島の“案山子”を作った。


「魔王様、その男はダレだ?」


「お前らは知らんが、これが野島じゃ」


お腹は藁でぐるぐる巻き、

顔は野菜の空き箱。


「見ろ。腹が出て、顔の四角い中年男じゃ!」


ルルカは笑った。


藁のざらざらした感触を指でなぞり、

空洞に息を吹きかける。


まるで、野島の笑い声を呼び起こすように。


「野島。勇者でも、魔王でも、

 おぬしが“おぬし”であるなら……」


魔王は案山子を愛おしげに撫でた。


「次に会いに行ったら、また脛を噛んでやるからな」


――遠く、胸に残る瘴気がかすかに疼く。


野島の“戦い”が、始まっている証か。


《リディア視点 ―勇者を照らす光と疑念―》


夜が更けても、眠れなかった。


村の外から戻らないレイジ様を想い、

胸がざわつく。


粗末な宿屋で、燭台の火がゆらゆらと揺れる。


――あの時、何があったのだろう。


魔王を討って、こちらを振り向かれた時、

なぜか胸の奥がざわめいた。


あの方の話し方も、身のこなしも違う。


でも……それが嫌ではなかった。


柔らかく、どこか人間臭くて。


(魔王を討った直後に、

 どうしてあんなに絶望した目をしていたの……?)


でも、私は今のレイジ様の方が好き。


貴族の血が囁く、禁断の果実のような誘惑。


一方で、冷徹な計算も働く。


このままではいけない。


賢者クライも国王も疑念を抱くだろう。


だが、手柄があれば処罰は免れる。


何としても魔核を探し、

レイジ様に手柄を立てさせるんだ!


杖を握る手に、力が入る。


わたしの役目は“照らす”こと。


レイジ様の影に、闇が差さぬように。


「神聖結界!」


光が村を包んだ瞬間、

レイジ様は痛みに顔を歪めた。


まるで、その身の内に“瘴気”を宿しているかのように。


空気が熱く淀み、焦げた匂いが漂う。


(まさか……)


心の奥が冷たくなった。


それでも笑顔を作り、

「瘴気を浄化します」と言った。


怖かった。


もし、勇者様が本当に“瘴気”を宿しているなら、

私は――“浄化”しなければならない。


でも、杖を振る手が震えた。


(そんなこと、できるわけない)


浄化の光が消えると、彼は苦笑して言った。


「虫がいたんや」


……嘘だ。


でも、優しい嘘。


胸が締め付けられた。


(あなたは誰ですか……勇者レイジ?

 ――魔王の最後の呪いでどうにかなってしまったのか)


夜の風が吹き込む。


月が沈みかけ、空が青い。


彼の背を見送りながら、リディアは祈った。


「たとえ貴方が闇に堕ちようとも……

 私は、あなたを照らします」


(そして、二人で……

 ハッピーエンドを、叶えましょう)


杖の先に、小さな光が灯る。

だが、その光は震えていた。


その光が、森の闇をわずかに照らす――


――その夜、ルルカの見上げた月と、

リディアの窓辺に差し込んだ月は、同じ光だった。


戦いの喧騒が去った後、

残された者たちが見つめる“静かな夜”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ