おじさん因子発動! 勇者ボディで第三の人生を歩む
“魔王の瘴気”を持つ男が、
“勇者の顔”で第三の人生を歩む。
野島倫生、三十九歳。
魔王として土下座した果てに、
勇者の刃で命を落とした。
──だが、終わりではなかった。
暗闇にただ一つ、白い光。
【ギフト発動:おじさん因子】
次に目を覚ました時、
彼は勇者の肉体を得ていた。
白銀の鎧は傷ひとつなく輝き、
手には伝説の聖剣。
「……なんやこれ。
俺、勇者になってもうたんか……?」
村人たちは歓喜に沸いた。
「勇者様が魔王を討った!」
その声が、空に響く。
だが、村長を含めた一部の者は、
魔王の遺品を見つめながら沈んだ表情をしていた。
聖女リディアが涙を浮かべて、
野島――いや、“勇者レイジ”の手を握る。
「レイジ様……ご無事で……」
野島は冷や汗をかきながら、
勇者のふりをして頷いた。
「魔王の遺品はこの村に埋葬できるんか?」
「ですが討伐証明の魔核がありません……
偽物、だったのでしょうか」
胸の奥で、野島は苦く笑う。
──そりゃそうやろ。
とりあえず、
聖女と賢者には理由をこじつけて追い払わな。
「魔王は倒した。
それは報告せなあかんが、魔核は気掛かりや。
俺はしばらくここに残って探してみようと思う」
「あら、レイジ様が残るなら私も一緒に残ります」
「では、私が王都に報告しましょう」
賢者クライが言った。
「ありがとう、クライ」
「レイジ、リディア。
私はこれから王都に戻って報告をする。
偽物の可能性もあるので、
商人たちに被害が出ていないか調べてみるつもりだ」
「おお、頼んだで」
「だが――」
クライは真っ直ぐに野島を見つめる。
「私はこの魔王は本物だと確信している。
魔核は必ずあるはずだ。
その意味でリディアが残るのは適任だろう。
聖女は誰よりも悪しきものの存在を照らす」
「げっ、いや。
頼りにしとるで、ホンマ」
野島は冷や汗をかきながら、
賢者と別れた。
クライの視線が、背中に突き刺さるようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜。
村が静まり返った頃、
野島はひとり畑の様子を見に行った。
今日は水やりもできていない。
だがそこには、予想外の存在がいた。
赤い瞳をした幼女。
かつて自分の中にいた“女魔王”――ルルカだった。
「……おぬし……忠告を聞かなかったな!」
次の瞬間、幼女は野島の脛に牙を立てた。
「いたっ!?
ちょ、ちょっと待て痛いって!」
だが野島は引き剥がさず、
逆に彼女を持ち上げ、肩車する。
ふわっと軽い体が、意外に温かい。
「ここに隠れていたんか。賢明やったな」
「だが、まだ聖女がおるんよ。
森に行って、ゴブリン達に匿ってもらえ」
「お主と一緒におる」
――困ったなぁ。
俺自身どうなるかわからんのに。
「お前はここに残っていると退治されるんや。
わかるか? 死んでしまうんやぞ!」
「わかってる…」
「すまん。
落ち着いたらちゃんと迎えに行く――」
ルルカの赤瞳に孤独の影がよぎる。
「おぬし……すべてを奪って我を捨てるのか?」
「捨てへんよ。
さっきまで一心同体やったろ」
「森の夜道が怖いんじゃ」
「魔王が夜を怖がってどうする。ゴチに笑われてしまうぞ」
野島はそっとルルカを肩から降ろしてやった。
ルルカが何度も振り返りながら
森に消えていくのを見届けると、
知らずにため息が漏れた。
「ふぅ……聖女に相談してみるか。
あの調子だと俺にベタ惚れやしな。
ちょっと天然ぽかったし、上手く誤魔化せるやろ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくして村に戻ると、
リディアが寝ずに帰りを待っていた。
「こんな夜更けにどうされました?」
「いやぁ、魔物の気配がしたんで、見回りや」
「それはいけません。
レイジ様、この村に結界を張って、
魔物が近づかないようにしましょう――
神聖結界!」
バアッ!
白い光が一面に広がった。
その瞬間、レイジの体に残っていた瘴気が
焼けるように痛む。
皮膚がチリチリと焦げ、
黒い煙が薄く立ち上る。
「いってぇっ!?
ちょ、待て待て!
まるでバル〇ン焚かれたゴキやんけ!」
「えっ!? 虫がいたんですか!?
どこです!? 浄化します!!」
「違う! 比喩や比喩!
俺がその“ゴキ”やったんや!」
野島は涙目で叫ぶ。
皮膚がチリチリして、心まで焦げそうだ。
「リディア、結界はいらんて!
魔王は倒したんやし、
もう大した魔物は出えへんやろ!」
「でもレイジ様……顔色が悪いです。
もしかして――魔王の瘴気にあてられたんじゃ……?」
「……そ、そうかもな……
ちょっとダルい気はする……」
「だ、大変です!」
リディアは慌てて杖を構えた。
頬がうっすら赤い。
「聖女の浄化魔法で、
レイジ様の瘴気、浄化します!」
「待て、俺の体が溶ける!
比喩ちゃう、ガチでヤバい!」
逃げ回り、ようやく止める。
「だって、瘴気は浄化しないと取れませんから……」
リディアの笑顔が近い。
その距離、息がかかるほど。
野島の背筋にサブイボが立つ――別の意味で。
(あっぶな。こりゃ説得どころじゃないなー。
先にルルカを逃がしてなかったら、
寝覚めが悪くなるとこやった)
だが、心のどこかで思う。
──この体の瘴気、ルルカの欠片か?
王都の報告が戻ってきたら、
どう誤魔化すんねん……。
まあ、明日から畑耕して、頭冷やそ。
第三の人生、まずは土いじりからやな。
野島は勇者の身体を得ても、
優しさを忘れない。




