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魔王の身体で畑を耕すな――元サラリーマン、異世界逃亡録

異世界に転生したおじさんが、

女魔王の肉体を乗っ取ってしまった!?

だが戦う知識もなく、勇者に討たれかけ、

逃げ込んだ先は――森。

野島倫生(のじまとしお)、享年三十九歳。


俺が死んだ理由? 

過労死か心臓発作か、はたまた上司のパワハラか

……まあ大差ないやろ


◇ ◇ ◇


次に目を開いた時、そこは巨大な黒き玉座の間。

赤い炎が壁に灯り、空気は灼けた鉄のように重苦しい。


「……なんやここは。葬式でもパーティでもないやろ」

場違いな関西弁を吐く彼の前に、

漆黒のドレスを纏う女が歩み寄る。

白磁の肌に燃える瞳、腰まで伸びる赤髪が揺れる。

美しさと威圧を兼ね備えたその存在は、

ただ一言で名を示した。


「――余は魔王。貴様は……余を笑う愚か者か」

問いかけの意味を掴む前に、黒剣が振り下ろされた。

刹那、野島の胸を貫く鋭痛が走る。

血が広がり、視界が暗転する。

「死ぬ……二度目かいな……」

だが闇の底で、彼の耳に不可思議な声が響いた。


【ギフト発動:おじさん因子】

――殺した者の自我を乗っ取り、転生する。

次に目を開けた時、野島は己の手を見下ろした。

白く細い指、煌めく爪、そして豊かな胸元。

玉座の上に映る姿は、

先ほど彼を殺した女魔王そのものだった。


◇ ◇ ◇


「な、なんやこれ……俺、女に……しかも魔王に……」

恐怖と興奮が渦巻く。

だが背後には、跪く魔族の部下たち。

彼らは当然のように忠誠を誓ってきた。


「魔王様、勇者どもが城門を突破しました!」

報告が響く。

野島は慌てて声を作り、低く冷徹に答えた。

「……ぬかるな。我が軍の力、見せつけてやれ」

だが、時間は残酷だった。


やがて玉座の間に押し寄せる悲鳴。

忠実な部下たちは次々と勇者に討たれ、

黒き騎士も、大蛇の魔獣も、血に沈んでゆく。

「くっ……や、やっぱり無理や! 

 こんなん俺の知識とちゃう!」


胸の内で叫ぶ。外見こそ女魔王だが、

中身はただの中年男。戦略も魔術も分からない。

そして――重い扉が軋む音と共に、

勇者たちの足音が廊下に響いた。

剣戟の残響と、聖なる気配が近づいてくる。


「次は……俺の番か」

冷や汗が背筋を伝う。

勇者に立ち向かえば討たれるだろう。

だが死んだらもう戻れない。


「ここは……逃げるしかあらへん!」

野島は玉座を蹴り、裏の回廊へと駆け出した。

魔王の長衣が翻り、靴音が石床に鳴り響く。

魔王でありながら逃亡を選ぶ


――そんな滑稽な始まりと共に、

“おじさん魔王”の物語は幕を開けたのだった。


裏回廊を駆け抜け、

転移陣を使い果てしない森の奥へと

逃げ込んだ野島魔王。

勇者の追撃はやがて途絶え、

残ったのは静寂と疲労だけだった。


◇ ◇ ◇


「はぁ……はぁ……生き延びたんはええけど、

 これからどうすんねん俺」

玉座も軍勢も失い、あるのは魔王の身体ひとつ。

空腹を覚えた野島は、森をさまよいながら思いついた。

「とりあえず、畑でも耕したら食うもん出来るんちゃうか」


森の奥、ひっそりと隠れ住むようにして

野島魔王の新しい生活は始まった。


「よし、今日も畑耕すで!」

玉座も軍勢もない。あるのはただの荒れ地と、彼自身の手足。

それでも野島は必死だった。


魔王の身体に残る底知れぬ力を封じ、

かつて会社勤めで培った根性を発揮して、

木の枝を削って作った鍬で、

黙々と土を掘り返していった。


「何、撒けば育つんかの?」

元サラリーマンの発想は質素だった。

森で拾った得体の知れない種を蒔ていく。


魔王と呼ばれる存在が汗を流し、

土に爪を割りながら腰を痛める。

趣味でやってた自家製栽培とは次元が違った。


「はぁ……俺、何してんねん。

 サラリーマン辞めて農家転職か? 

 いやもう死んでるけどな」


それでも食べなければ生きられない。

森の木の実や小動物を捕まえるだけでは限界がある。


空腹を抱えたまま、他に考え付くこともなく、

畑を真面目に耕やす。


手探りで作った畑だが

数日後、変化が現れた――芽が出始めたのだ。

小さな緑の双葉が土から顔を覗かせる。

「おお! やった! やっと食料の目処が……」


しかし更に数日後――

芽吹いたはずの苗はことごとく黒ずみ、

ぐったりと萎れ、土の上で崩れていた。


野島は絶望し、艶やかな赤毛を搔きむしった。

「それはあかんて…」

ちょっと笑えて、ちょっと切なくて、

それでも「おじさんなりに必死に生きる」

姿を書いていけたらと思っています。

次回は10/7更新です。


困惑する野島おじさんと”おじさん因子”を埋め込まれた女魔王

(この直後おじさんは崩れ落ち退場)

挿絵(By みてみん)

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