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その27 人類みな、ロールケーキ

 踊っていたにゃんごろーは、いつの間にやらクルクル回転しながら、臨時講習会開催中のふたりと春模様エレベーターの周りをグルグルしていた。目が回らないのか心配になるほどの回転ぶりだ。

 ポワルゥは回転を意に介さず、ジッと続きを待つようにリーダーを見上げていた。

 リーダーは、にゃんごろーに気を取られつつも、ポワルゥとの会話続行を選択した。


「古代魔法文明の滅亡には、世界規模の天変地異が関係している!……というのが定説なんだよね」

「そう! てっぺんチリチリィ! にゃんごろーのお説に、間違いはぁ、なかったぁ……!」

「本当に、てっぺんチリチリはあったんだ」

「チリチリの痕跡は、世界各地に残っているんだ。時代的にも、古代魔法文明が消えた時期とほぼ被っていると言われているね。まあ、この辺は、何か新しい発見があれば覆される可能性もあるけど、今のところは、それが有力な説かな」

「ほうほうほう!」


 ポワルゥは、前のめりになった。

 途中、グルグルネコーが乱入してきたが、ポワルゥは「チリチリ」を採用しつつも、聞こえなかったかのような自然さでスルーした。リーダーも、グルグルに後ろ髪をひかれつつポワルゥに倣った。

 他のクルーたちは、笑って見ている。


「でもって! この塔のような遺跡クラスの古代遺産は、そのほとんどがチリチリに対抗するために建造されたものじゃないかと言われているんだ! ちなみに、青猫号もその一つではないかと推測されている。うちの精霊さんは、古代人から口止めされているのか、その辺は詳しく語ってくれないけどね!」

「ふむふむふむふむ!」


 ポワルゥは興奮のあまりか、ズイズイとリーダーに近づいて行った。

 ほぼ真下からキランキランな眼に見上げられて、リーダーは口元を緩ませている。おそらく、相当のネコー好きなのだろう。ものすごく嬉しそうだ。


「それでねぇ? この塔の役割なんだけど、ね?」

「うんうんうん」

「常春島の現状を踏まえると、天候に干渉するものであることは、ほぼ間違いないだろう」

「うんうん。ボクも、そう思う!」

「天にまで届くようなこの高さからして、世界レベルで気象変動に関与することを想定して建造されたのでは、と言われている」

「そうなるよねぇ。人間に食べられないように逃げて来たキノコたちの高層マンション説を推す不思議ハンターもいたけどね」

「んっふ。まあ、キノコはともかく、鉄壁の魔法的防御が完備されてて、天候をコントロールすると同時に、外の状態が落ち着くまでのシェルターを兼ねていたって説も、あるにはあるよー?」

「はえー」

「まあ、なんで土のドレスを着ているのかについては、これって説がないんだけどね」

「そういうおしゃれが、流行っていたのかもぉー……」

「おしゃれ……。前は、隠れん坊しているとか言ってなかった?」

「んっふ……!」


 いつの間にか、ポワルゥの口調は敬語からくだけたものへと変わっていた。古代遺跡にまつわる人とネコーの会話は、より一層弾んだ。

 その最中。

 回転ネコーが通りすがりざまに新説を披露し、また回転しながら遠ざかっていった。

 実に、せわしない。

 話は脱線しかけたが、リーダーは不思議ハンターの扱いに慣れているのだろう。笑いを治めると、おしゃれに惑わされることなく、話を本筋に戻した。


「だから、なんだよね」

「え?」

「だから、冬眠ってことにしておいた方が、都合がいいんだよ」

「………………人間が、愚かな生き物だから?」

「そ」


 ポワルゥは首を傾げた。

 話が何処へ繋がったのかは分かったものの、何が「だから」なのかは分からなかったからだ。


「私も魔法使いだからね。個人としては、この塔の魔法技術を解析してみたいという思いはある」

「うん」

「だけど、たとえ解析できたとしても、公表はすべきではないと考えている。世界中の天候を操れるシステムなんて、人間には過ぎた代物だ。それとも、人間がおもちゃにするのは、危険すぎる、と言うべきか?」

「あー……」

「塔の魔法が利用可能となれば、『これ俺のー』という醜い争いが起こるのは間違いないし、いずれ必ず、調子に乗って全人類のみならず全生物を巻き込んでの自滅を引き起こすアホな権力者が現れるに違いないと確信している!」

「ああー。世界を救うはずだった……のか、もしかしたら救った後で深い眠りについたのかもなシステムで、今度は世界を滅ぼしちゃうかもしれないってことかー……」

「そうだ! そういう意味では、私は人類を信頼していない!」

「うんうん、分かるー。人間って、そういうところあるよね」

「……………………う、うん」


 本当に身も蓋もない自論をズバンと言い切ったリーダーだったが、ピンクグレーのネコーがしみじみと頷くと、さすがに鼻白んだ。

 人類の愚かな性質については自覚しているが、愛くるしいネコーにこうもあっさりと納得されると、それはちょっと胸にこたえるのだ。

 ポワルゥの方は、納得できる人間の愚かさには、それ以上興味がないようで、次なる疑問を口にした。


「……ん? でも、それならなんで、冬眠じゃないとダメなの? 別に、塔の精霊さんに嫌われてるから人間には使えません、でもいいんじゃないの?」

「……ああ、それはねぇ。精霊さんに拒絶されたからダメですだと、何とか説得して使えるようにしろって偉い人たちにせっつかれて面倒くさいから」

「んん? それは、冬眠だって同じことじゃないの? 起こして説得しろーって言われるだけじゃないの?」


 リーダーが疑問に答えると、ポワルゥは重ねてもっともなことを尋ねた。

 しかし、リーダーはたじろぐことなく、「チッチッチッ」と立てた人差し指を左右に振ってから、こう答えた。


「それがねぇ? 冬眠中の遺跡がネコーに汚染されている場合は、そうじゃないんだよねぇ」

「え? ネコーに汚染? あー、ネコーの魔法でイタズラされてるってこと?」

「ん、まあ、そういうこと」

「えー? でも、ネコーのイタズラ魔法なんて、たわいないものばっかりじゃない? ネコーは人間と違って、世界とか自然とか他の生き物にとって、本当の意味で迷惑になることは、基本、しないでしょ? 危険なイタズラに見えても、昨日の特大キノコみたいに、結局こけおどしだったりするし」


 ポワルゥは、もふもふと手を振り回しながら、リーダーの言葉を否定した。

 リーダーは、苦笑いを浮かべながら、それに頷いた。


「その通り。でもって、だからこそ、なんだよねー、これが」

「ん? どーゆーこと?」

「そもそも、ネコーの魔法そのものが、人間には解析不能っていうか、意味不明なんだよねぇ」

「うん?」

「でもって、やっぱり難攻不落で解析不能な太古の魔法と、意味不明なネコーのイタズラ魔法が混じり合っている遺跡に、下手に人間の魔法使いが干渉するとね? 碌なことが起こらないんだよ! まだ、中にも入れていないのに! 入り口をこじ開けようとしている段階で!」

「そうなの?」

「そうなの! なんかねぇ、ネコーのイタズラがパワーアップして、ランダムあるいは一斉に発動するんだって。ひどいときは、遺跡の周辺にまでイタズラ被害が及んだらしいよ。しかも、数日間! あ、ちなみになんだけど。イタズラ乱舞が発動するのは、人間が邪な目的で利用しようとした場合のみ、らしいよ! 理屈は不明なんだけど、世界に優しいネコーの魔法が何かを察知して、そんなことになってるのかもね! 知らんけど!」

「うわー。そ、それで。たとえば、どんなイタズラだったの?」


 壮大かもしれなかった話は、なんだかしょうもない話になってきたが、ポワルゥは興味津々で尋ねた。他のネコーがどんなイタズラを仕掛けたのか気になるようだ。もしかしたら、今後、自分のイタズラの参考にしようとしているのかもしれない。

 しかし、リーダーの返答は、そっけなかった。


「内容までは知らないんだよ」

「なんだー……」

「だけど、ちなみになんだけどね?」

「うん?」

「にゃんごろーは、卵船の盗難対策として、勝手に卵を持って行こうとしたら、しばらくの間、くっさいおならが止まらなくなるお仕置き魔法をしかけてるらしいよ?」

「………………!」


 そっけない返事にがっかりしたポワルゥだったが、リーダーが参考までにとイタズラじみたお仕置き魔法について暴露すると、鼻を押さえてプルリともふ身を震わせた。

 昨日受けた、とんでもない一撃を思い出したのだ。


「しかもね? どうやらそのとんでもないイタズラ魔法の数々は、その場にいない、安全な場所から『いいから、やれ!』って命令をするだけの人のところにも降りかかるみたいなんだよねぇ。命には別状ないけど、恥ずかしい目に合わされるイタズラが多いらしいからねぇ。プライドだけは高い偉い人たちには、きっと、すごく堪えたんじゃないかなー?」

「……………………」

「くっくっくっ……! 被害にあうのが現場の人間だけなら強行できても、自分も被害にあうとなればねえ……? いやー、ネコー様様だね! どういう理屈でそうなるのかは、サッパリだけどね!」

「う、うん。分かったよ。あのすごく臭いのが、自分のお尻から出て、止まらなくなるなんて、とんでもない地獄だもんね……」


 リーダーは悪い顔で笑い、ポワルゥは震えながら頷いた。


「ちなみに、ネコーのイタズラ魔法対策として、ネコーを調査隊に加えたりもしたらしいんだけど……」

「あー、自分たちも新しいイタズラを仕掛けることに夢中になっちゃって、むしろ足手まといになっちゃったのかな?」

「それもある! その上! 雇い主の人間のことをすっかり忘れたネコーに置き去りにされたりするケースも多発した!」

「あー……すっごい仲がいい人間のことなら忘れないと思うけど、お金か物で雇われただけの人間とかだとねー。ネコーには、よくあることだよねー」

「うむ。救出が間に合わず、残念なことになったケースや、発覚していないだけで、今もどこかの遺跡でひっそりと白骨化しているケースもあるのではと言われている」

「あー、ねー?」


 ネコーあるあるによる人間側の悲劇を、ポワルゥはサラッと流した。

 サラッと流しつつ、「そういう事情もあるから、自分たちの魔法で装置を動かせない遺跡の調査を終了させたのか」と納得してもいた。

 残念だが、仕方がないかと思った。

 自力では出られないキノコの巣窟に置き去りにされるのは、嫌だろう。

 楽しみにしていた人間と一緒の遺跡探索がなくなったことに改めてがっかりしながら、ポワルゥは、別れを惜しむように、もう一つ質問をした。


「あ、それで。この島だけ常春になってるのは、どうしてなんだと思いますか?」


 いつの間にか、また敬語に戻っていた。

 しかし、答えたのはリーダーではなく、グルクルしていたネコーだった。

 グルクルネコーは、回転を止め、もふビシィッとポーズを決めながら、話に乱入してきた。


「ちゅまりぃ! 春好きのネコーが、春好きの人間を手巻きずしにしてぇ、島にぃ、春色ドーナツの魔法をかけたのだぁ…………!」

「それだと、ネコーが人間を手巻きずしにして、ドーナツにした島ごと食べちゃったみたいだけど」

「人類みなぁ、ロールケーキィ! まーきまきぃ♪」

「食いしん坊だなぁ。それで、人間としては、どう考えているんですか?」


 ポワルゥは、巻き込むのではなく手巻きにしたネコーを途中で放って、もう一度リーダーに尋ねた。

 リーダーは、笑って答えた。


「うーん……、この島の常春化が、いつ頃から始まったのかは、まだ分かってないからねぇ。ネコーが遺跡に入り込んでからのことなら、まあ、ほら? ネコーのその時の気分次第で、どんなことでも起こりうるっていうか? もっと、ずっと、しょうもない理由の可能性もあるよね」

「あ、ネコーが塔の魔法をいじった可能性もあるのか……。じゃあ、もう、それは永遠に解明されない不思議のままかもしれないですね!」

「ネコーあるところ、不思議ありだからねぇ。塔に巣くっているっていうキノコも、古代のキノコが生き残っているのかもしれないし、ネコーが持ち込んで、塔の魔法と反応して進化というか変化しちゃったかもだよねぇ」

「はっ! 確かに! あんまり古い時代の魔法だと、混じり合って、どこからが古代で、どこからがネコーなのか、ネコーでも分かんないかも」

「あはっ。ま、とにかく、そんなわけで、調査はこれにて終了しまーす」

「はーい…………」


 リーダーは、少々強引に話をまとめた。

 もうお別れか……とポワルゥはシュンとなって項垂れた。

 卵船の魔法塗装依頼があるから、完全に関係が切れたわけではないけれど、しばらく一緒に探検を楽しめると思っていた相手が予定に反して、早すぎる帰還をしてしまうのは、すごく寂しい。

 リーダーは、そんなポワルゥを見下ろしながら、ニンマリと人の悪い顔をした。

 回転の影響を受けていない強靭な三半規管を持っているらしきにゃんごろーと他のクルーたちは、呆れた顔でリーダーを見ている。

 がっかりしているネコーの姿をしばし堪能してから、リーダーはものすごく楽しそうに言った。


「というわけで! これより! 太古の塔探検ツアーを開始しまーす! ツアーガイドは、塔探検経験済みのネコーふたりにお願いしたいと思いますが、お願いできるかな?」

「もっちろーん!」

「…………………………え? あ……は、はい! 任せてください! あ、でも。いいんですか? 塔の中に置き去りにされるかも知れないのに」

「もー! にゃんごろーは、仲間を置き去りにしたり、しにゃーいもーん! もしも、中ではぐれても、にゃんごろーが見つけてあげるから、安心してね! じゃ、行くよー! みんな、乗ってー!」


 にゃんごろーが先に箱に入って、みんなを手招くと、みんなは少しも躊躇することなくゾロゾロと箱に乗り込んでいく。

 特に説明はなかったが、クルーたちからすれば、こうなることは織り込み済み、予定調和というヤツだった。

 リーダーがポワルゥで遊ぶつもりでいることも察していた。

 一杯食わされたことにようやく気づいたポワルゥは、唖然とした顔をした後、怒るのではなく、笑い出した。

 大笑いしながら、みんなが待っているエレベーターの中へ走り出す。

 塔内部でエレベーターから降りたら、とびっきりのいたずらをお見舞いしてあげようと画策しながら――――。


「じゃ、いっくよー! どんどん不思議を紐解いてぇ、ばんばん結んじゃうからねぇ! 一流のぉ、不思議ハンターとしてぇ!」


 にゃんごろーの掛け声とともに、ドアが閉まり、春の箱はフッと掻き消えた。

 ひとまず事件(?)は解決した。しかし。


 不思議の種は、まだまだ尽きないようである――――。


第1章はこれにて完結です。

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