その26 古代人はネコーがお好き?
古代魔法文明の遺産であるといわれる太古の塔。
その調査は、割とサックリと終った。
調査が始まったのは、朝ごはんには遅く、昼ごはんには早すぎる時間帯だった。
深夜は過ぎているが明け方にはまだ早い時間に就寝した一行は、大きな卵船に積んできた食材で食事を済ませると、塔探検経験者であるネコーたちの案内の元、塔の天辺中央の魔法エレベーターがある場所へと向かった。
「ここだよー! えっとね。上から下に、魔法の道は出来てるんだけどね。そこに隠れてる箱を呼ぶんじゃなくて、毎回、箱を作る感じだった!」
「なるほどー。うーん。あるものを操作するだけなら、人間でもなんとかなりそうだけど……。都度、箱を作り出すとなるとねぇ。ネコーなら、お手の物なんだろうけど。ま、でも! 一応、試してみないとね!」
にゃんごろーが、中央の箱出現エリアをもふ手で示し、「ここだよ」とグルグル円を描くと、チームのリーダーである女性魔法使いクルーが、にゃんごろーの頭上からひょいと箱エリアを覗き込む。リーダーのすぐ背後には、女性クルーと男性クルーが一人ずつ控えていた。二人とも、熱心に箱エリアを見つめている。大きな卵船でやって来たクルーは、全員で六名いるのだが、残りの三名はリーダーたちから少し距離を置いた場所で周囲を警戒しながら立っていた。
リーダーを含む三名は魔法の使い手で、残りの三名は魔法のことはサッパリなため、念のため、物理的な脅威に備えているのだ。
いついかなる時も危険に備えるのはプロのクルーとしての嗜みであるが、今回は、怖がりのネコーを安心させるために、わざとらしいまでに「警戒しているぞ!」アピールをしていた。
「………………………………うん! ダメだね! サッパリ! エレベーター用の魔法の通路へのアクセスすら出来ないよ! すでにある箱を呼び出すだけだったとしても、利用は出来そうもないね!」
リーダが、やけに清々しい笑顔で意気揚々と任務失敗を告げた。背後に控えていた二名の魔法使いたちも、苦笑いしつつ、それに頷いている。こちらも、うまくいかなかったようだ。
「じゃあ、にゃんごろー。お願い!」
「まっかせろーい! エッベレンレーン♪」
匙を投げたリーダーが、にゃんごろーに後を託すと、にゃんごろーはポフーンともふ胸を叩いて請け負い、遊びに誘うような気軽さでエレベーターに呼びかけた。
すると、呼びかけに応えるように、ふお……んと空気が揺れて、にゃんごろーのもふ手の先に大きな箱が現れる。
にゃんごろーが、魔法釣りネコー改めポワルゥ(クルーたちとの自己紹介合戦により名が判明した)と二人で遊んでいた時よりも大きな箱。
ネコー二人とクルー六人が余裕で乗り込める大きさだ。
「うみゅ! ちょうどピッタンコの箱! やはり! 乗るにん数に合わせて、箱を作るというにゃんごろーのお説に、間違いはなかった!………………って、あれ? なんか、箱に模様が……!? 最初の時は、白かったのに!? ほ!? いちゅの間にぃ!?」
「あ、それ。ボクが魔法でペイントしたんだ♪ 昨日の夜から、こうだったんだけど。昨日は、お互い、それどころじゃなかったからねぇ」
にゃんごろーが自画自賛の後、箱の鮮やかさに気づいて驚愕の声を上げると、犯ネコーが自慢気に自白した。
初めて乗った時は真っ白だったエレベーターの箱は、ポワルゥの魔法で鮮やかに彩られていた。
深い緑と淡い緑がマーブルなグラデーションを描き、そこに短く白い波線が、風の流れのように走っている。そして、その上で――――。
塔の中で見つけた春キノコたちが、舞い踊っていた。
「塔の魔法をイメージしてみました♪」
「ほえー! チビチビの春キノコが春の魔法の中で踊ってるぅ♪」
「へえ! これは、見事だね。魔法で都度作り出すエレベーターの壁面に常時現れる絵柄をペイントするとは……。この臨機応変な緩さと見事さ、ネコーの魔法ならではだねぇ」
「えー! 綺麗! 可愛い! ねえ、ねえ! これ、卵船にもペイントしてもらえないかな? 青猫号の許可はもぎとってくるから!」
「え? いいんですか? もちろん、請け負います! 報酬は、青猫号の見学でお願いします!」
「え? 青猫号は、ネコーの見学は歓迎だから、全然オッケーだし、報酬は報酬でちゃんと支払うよ?」
クルーたちは、みなポワルゥの春魔法芸術を褒め称え、何やら契約が結ばれそうにもなっていた。
クルーたちが魔法芸術の見事さに沸いている間にも、リーダーは魔法的なアプローチを繰り返し、そしてその結果、とある決断をした。
「うん! 無理だね! うんともすんとも! この遺跡の魔法システムは絶賛冬眠中です!…………ってことで、調査は終了!」
「はーい!」
「やっぱり、そうなるかー。ま、でも、その方がいいもんね……」
「え? え? え? ええー!? しゅ、終了!? そんなあっさり!? ボクたちがいれば、中に入れるのに!? しかも、みんな納得してるっていうか、予想していたっぽい? しかも、しかも! その方がいいって、どういうこと!? え? わざわざ調査しに来たんだよね!? なんで!?」
リーダーの調査終了宣告に、にゃんごろーは元気よく同意し、クルーたちもそれを受け入れている。反論するクルーは一人もいない。どころか、「やっぱり、そうなったか」な雰囲気を醸し出しているし、「これでよかった」とか言い出すクルーまでいる始末。
古代遺跡調査の専門である青猫号クルーたちとの調査を楽しみにしていたポワルゥは、ひとり動揺し、混乱した。
混乱しすぎて、がっかりする余裕すらなかった。
リーダーが苦笑しながら、ポワルゥに青猫号クルーとしてはもはや常識である事情を教えてくれた。
「あー。遺物とか、もっとずっと小さい遺跡ならなんとかなることもあるんだけどねー。この規模の古代魔法文明遺跡ってなると、まあ、大体こうなるんだよねー」
「えっと? それは、なぜ?」
「古代の魔法はねぇ。ネコーの魔法とは相性がいいんだけど、人間の魔法とは、あんまり相性がよくないんだよね」
「え? そうなんですか? 塔の魔法は、カチッとしてて、人間の魔法と似てると思うんですけど。ネコーの魔法は、もっとこう、ふわっとしてるっていうか。別物っぽいのに」
「うーん、それがねぇ。系統的には、人間の魔法の方が近いんだけど、相性となるとまた別物っていうか。似ているからこそ、正規の手順を踏まないとアクセスできないっていうかねぇ。でもって、古代魔法って、今の人間の魔法とはレベルが違い過ぎるっていうか、大人と子供どころか、神様と下等生物くらいにレベルが違ってさぁ。これは、古代魔法だってことくらいは分かるんだけど、術式については理解不能っていうかねぇ。お手上げ状態なんだよねぇ。ちなみに、私は人間の中では、世界で五本の指に入るくらいのすっごい魔法使いです! えっへん! でも、その私でも、手も足もでないんだよねっ!」
「そ、そういうものなんだ……」
「そ。でも、ネコーの魔法は系統が違い過ぎるからか、ネコーだからなのか、なんかスルッと入り込めちゃうみたいなんだよねぇ。完璧すぎる古代魔法にバグとかエラーを起こしてるんだ、みたいな意見もあるけど、私は、古代にもすでにネコーがいて、古代人はネコーが好きだったから、ネコーに緩く設定してる説を推している!」
「へえー? そういうものなんだ……」
リーダーのザクッとしつつも真面目な、しかし時折、にゃんごろー味が混じる説明にポワルゥは動揺と混乱も忘れて聞き入った。
他のクルーたちは、微笑ましくそれを見つめ、にゃんごろーは踊っていた。
ポアルゥは、もふりと腕を組み頷いていたが、ふと何かに気づき、首を捻りながらリーダーに尋ねた。
「あれ? でも、青猫号も古代魔法文明の遺産なんじゃないんでしたっけ? みなさん、そこに住んでいるんですよね?」
「そうだよ! えっとね。こういう遺跡には、魔法のシステムが組み込まれていて、そのシステムが遺跡の魔法を制御してるんだよね。えっと、塔の管理を任されている精霊さんがいるみたいな?」
「へーええ! 精霊さんが魔法の管理人さんなわけですね?」
「そうそう。でもって、この塔の精霊さんは、まだ生きてはいるけど、冬眠中なんだよね。深く眠っていて、人間が呼びかけても応えてくれないの」
「あ! つまり、青猫号の精霊さんは……?」
「そう! 発見された時に起動……ちょうど、目覚めてくれてねー。青猫号を作った人とネコーを新しい所有者として認めてくれたんだよね。だから、人間でも青猫号の魔法は利用できるってわけ。ま、仕組みの方は、よく分かってない部分が多いんだけどね」
「なるほどー」
魔法に関する新しい知識を得られたせいか、ポワルゥの瞳はキラキラに輝いていた。
「そうか。それで、ここの精霊さんは冬眠中で人間には手が出せないって分かったから、調査終了なんですね。というか、冬眠しているってはっきりわかったことが成果になるのかな?」
「そそ。本来、常春なんてあり得ないはずの島が、常春状態なわけだから、魔法が完全に死んでいるわけじゃないことは分かってたんだけど、なんせ、人間には、そもそも入り口が探せなかったからねぇ。精霊さんがお目覚め中だからこそ、遺産を守るために、正当な所有者以外を締め出しているのか。それとも、単に冬眠中だから応えがないのか、それすら分からなかったんだよね。まあ、でも。この遺跡が沈黙してる理由がどっちなのかは、実を言えば分かってないんだけどね」
「え? でも、さっきは冬眠って……」
「うん。その方が、都合がいいから!」
「…………あ、それで、その方がいいって言ってた人がいたのか。でも、どうして?」
脱線を誘発するネコーが踊りに集中しているおかげで、臨時講習会はスムーズに進行した。
リーダーが、「それ言っても大丈夫なの?」な気配漂う発言を笑顔で言い切ると、ポワルゥは別のクルーが言っていたことを思い出し、納得しつつも、「でも」を尋ねる。
リーダーは、その質問にニヤリと笑って見せ、そして――――。
「それはね! 人間は愚かな生き物だからさ!」
腰に両手をあて、身も蓋もないことを言い切った。
それはそれは、実に見事ないい笑顔だった。




