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その14 不思議ハンターと助手

 にゃんごろーの要望通り、太古のエベレンレンは、ふたりのネコーを塔のてっぺんまで連れてきてくれた。

 白い壁の一辺がふっと消え、タンポポ野原が現れる。

 ふたりは、「わーっ」と駆け出していった。

 にゃんごろーは初めてではないのだが、魔法釣りネコー以上にはしゃいで飛び出していった。

 魔獣かもしれない大型キノコフロアから離れられたことによる解放感からかもしれないし、ただ単に童心に帰りまくっただけなのかもしれない。

 ふたりが箱から出て行くと、白い箱はフッと掻き消えてしまったが、ふたりはまるで気にしていなかった。というか、気にかけることすらしなかった。

 魔法でいつでも呼び出せると分かっているからだ。


「わぁー。タンポポ島に来たみたい。海じゃなくて、お空に浮いてるタンポポ島!」

「はおー、確かにぃー! 海は、ずっとずーっと下の方にあるんだもんねぇ。うーみゅ。高すぎる塔のてっぺんは、お空の島になってしまうのか」

「塔の下に雲とか霧がかかってたら、まさしくじゃない?」

「はわ、はわぁあああ。た・し・か・にぃいいん♪ お宿に帰ったら、そういうお絵描きしてみようっと♪ にゃっふっふぅん♪」


 魔法釣りネコーの感想から絵の題材を得たにゃんごろーは、にょいんと両手を左右に広げて「う・う・うー♪」とお尻を揺らした。

 しかし、魔法釣りネコーの関心は、早くも綿毛に移っていった。踊るにゃんごろーに構わず、そよそよしている綿毛を摘み取り、いつかのにゃんごろーのように「ふーっ」と息を吹きかける。

 綿毛たちが綿帽子から飛び立つと、何本もの見えない魔法の絵筆が、サァーッと鮮やかに色を刷いた。

 橋ではない虹が、空を旅していく。


「わ・わ・わぁー♪」

「ねー♪ すっごいでしょー?」

「うん。すごい。きれいだねぇ。これは、ネコーの魔法だねぇ。ふふ。古代の魔法も面白いけど、ネコーの魔法も、悪くないね」

「ね! お祭り騒ぎ色ぉ♪」

「え? 普通に七色とか虹色とかでよくない?」


 魔法釣りネコーも、綿毛にかけられた魔法はネコーの仕業と判断したようだ。魔法釣りネコーのお目当ては古代の魔法だけれど、これはこれで気に入ったようだ。

 踊りネコーをしていたにゃんごろーは、魔法釣りネコーの歓声を聞きつけ、綿毛ショーのスタッフへ転職した。わさっと綿毛を摘み取って、精力的に綿毛を飛ばし始める。

 お祭り騒ぎ色は不評だったが、ショーは好評だった。

 魔法釣りネコーは「にゃわぁ」と口を開いたまま虹色の綿毛ショーに見入っている。


「これ、ぼんやり光ってるみたいだし、夜になったら、きっと、もっときれいだよねぇ」

「あ! それ! やっぱり、それなのかもぉ!」

「え? 何が?」


 瞳に踊る虹を映しこみながら魔法釣りネコーがうっとりと感想をもらすと、にゃんごろーは綿毛仕事を中断し、色めき立った。


「夜に太鼓が絵筆になるのは、ネコーがこっそり忍び込んで、綿毛ふーをしているからなんだよ! にゃんごろーってば名推理ぃ! 冴えてるぅ♪」

「…………んー? どうだろうねぇ。あれは、もっと花火の後の煙がいろんな色に光ってるみたいな感じだったし、綿毛ではないような……? 光り方が違うっていうか……・」

「はわ!? 見たこと、あるの?」

「そりゃあね。島で暮らしていれば、よっぽどの早寝早起きさんか、ものすごく運が悪いとかじゃなければ、一度くらいは目にするものだよ」

「わあーおう♪ い・い・な♪ にゃんごろーも見てみたーい♪ しばらく、この島でお仕事しながら遊んでようかなー♪」


 にゃんごろーは、綿毛スタッフを本格的に退き、踊りネコーに転職した。

 魔法釣りネコーは、もふっと腕を組み、にょんっと首を傾げる。


「うーん。タンポポ野原が古代からあったのか、ネコーが持ち込んで繁殖したのかは分からないけど、虹色絵筆の魔法は、ネコーの仕業みたいだね。煙突の煙は、どうなのかなぁ? 煙自体は、塔に関係するもので、虹色に光るのは、綿毛用の絵筆魔法をうまいこと噛み合って連動しちゃった…………とか?」

「ほわ!? しゅ、しゅごい…………! 頭いい! ようし、君を不思議ハンターの助手に、にぎにぎするぅ!」

「え? にぎにぎ? 握られちゃうの? おにぎり?…………あ、任命のことか」


 本職の不思議ハンターよりも、よっぽどそれらしい考察を聞いて、にゃんごろーは自分の仕事を思い出した。魔法釣りネコーの考察に感銘を受けたにゃんごろーは、魔法釣りネコーを不思議ハンターの助手に任命した。助手(仮)は、にゃんごろー先生の独特な表現に惑わされたが、見事自力で真相に辿り着いた。助手の素質は、十分なようだ。

 にゃんごろー先生は、両手を腰に当てて、もふんとふんぞり返ると、偉そうにこう言った。


「うみゅ。他にも思ついたことがあったら、遠慮なく言ってみんしゃい!」

「え? じゃあ、煙の正体なんだけど」

「ほ、ほうほう?」


 魔法釣りネコーは、助手を引き受けるかどうかは曖昧にしたまま、早速言われた通りにした。にゃんごろーは、目をキランと光らせ、続きを促す。


「キノコの胞子だったりしないかなあって」

「キノコの……胞子?」

「そう。あの大きなキノコたちが、一斉に胞子を飛ばしたら、大変なことになりそうじゃない?」

「な、なるほど。胞子が一度にわーってなる夜に、古代の換気魔法がお仕事をして、一杯過ぎる胞子を、塔の外へ追い出す。それが、煙ってことだね?」

「そうそう! 魔法の通路みたいなのが自動で発動して、胞子だけをてっぺんから出しているんだよ!」

「あ、そうか。それなら、穴……筒になってなくてもいいし、タンポポ野原を台無しにして、ぶわーってするためのトンネルを作らなくてもいいもんね! ううむ。そんなことにまで気がついちゃうとは、さすが、不思議ハンターにゃんごろーの助手ぅ!」

「それで、綿毛にかけられてたネコーの魔法が、胞子にも反応しちゃって、いろんな色に光る煙が生まれたんじゃないかなぁ」

「ほう・ほう・ほほほう♪ ほっほ・ほう♪」


 助手の件はまるっとサラッと聞き流して、魔法釣りネコーが自説を締めくくると、にゃんごろーは大興奮で、その場でぴょんぴょこ飛び跳ね出した。

 まだ興奮が冷めやらぬまま、にゃんごろーはひとまずジャンプを止め、本職不思議ハンターの威信を見せつけるべく、新説を打ち立てだした。


「きっと、どこかにもっと、大きなキノコがいるお部屋もあるのかもしれない。はっ! あの動くキノコたちは、他のキノコのお世話をしているのでは? つまり、この塔は、キノコによるキノコたちの楽園!」

「え? 太古のキノコが造った塔ってこと?」

「そおーう! きっと、食いしん坊な人間たちのラン、ラン……ラン・ラン・ラーン♪」

「乱獲?」

「それ! 四角いランランから逃げて、辿り着いたのが、ここ!」

「塔は、別の生き物が造ったってこと? 奪ったの? 間借りしたの?」

「都会では! 狭いのに人がいっぱい集まるから、人間たちは、マ・ショーンとかいう、高くて高い建物を建てたの。横がだめなら、縦ってこと! 狭くても、いっぱい住める!」

「ああ、マンションとかいうんだっけ? 聞いたことはあるよ」


 魔法釣りネコーは迷走しがちな先生の閃きをマイペースかつ巧みに捌いていった。助手というより介助だが、先生は相変わらず胸を張ったまま、自説を繰り広げていく。


「つまり、タ・イーコの塔は、人間に食べられたくなくて逃げてきたキノコたちのマ・ショーンだったんだよ! 人間に見つからないように、土の中に隠されたマ・ショーン! キノコが建てたマ・ショーン! キノコたちの最後の楽園! それが、タ・イーコのマ・ショーン!」

「わぁー。太古にして最古のマンションなんじゃない?」

「キノコたちは、隠れん坊がお上手だったのだ!」

「いや、下手じゃない? 隠れてるけど、隠れてないよ? 塔自体は目立ってるよ? まあ、キノコの存在は、知られてないみたいだから、そう考えるとお上手なのか? いや、でも。ネコーは普通に入り込んでるみたいだしねぇ」


 魔法釣りネコーは、助手として非常に優秀だった。

 しかし、にゃんごろーはあくまでにゃんごろーだった。


「食べられたくない気持ちは、にゃんごろーにも、よく分かる。にゃんごろーは、食べるのは大好きだけど、食べられるのは、大嫌いだから」

「それは、みんなそうじゃない?」


 これまで、意気揚々とトンチキを振りまいていたネコーが、途端にしんみりとした空気をまといながら俯いた。

 魔法釣りネコーは、慌てず騒がず、もっともなツッコミを入れる。

 にゃんごろーはフッと空を見上げ、哀切さを湛えながら言った。


「この塔は、このまま、そっとしておくべきなのかもしれない……」

「もうすでに、ネコーがいろいろ痕跡を残してるけどね」

「食べられたくなくて隠れているキノコを無理やり暴き立てるなんて、よくにゃいことだよ、うん」

「それが、ものすごく美味しいキノコでも?」

「…………………………………………よ、よく……にゃい……ジュル……」


 それは、深い意味どころか浅い意図すらない本当に何気ない話の流れで出てきただけの問いだったが、その問いは、おとうふなネコーに深く深く刺さりまくった。

 もふりと柔らかい体をギシギシとぎこちなく動かしながら、にゃんごろーはおとうふを否定したが、口の中には、ジュルっと涎が溢れてきている。

 口に出してみたことで、改めて不思議だなと思った魔法釣りネコーがおとうふネコーの顔を覗き込んでみると、おとうふネコーの目の中では、欲望と恐怖が渦を巻いていた。

 魔法釣りネコーは「ああ」と納得した。

 美味しいキノコを味わってみたいというおとうふ欲望と、キノコ魔獣(?)に食べられてしまうかもしれないという恐怖がせめぎ合って渦を巻いているのだと、魔法釣りネコーは正しく理解したのだ。

 出会ったばかりとは思えない、往年の助手ぶりだった。しかも、不思議ハンターの助手ではなく、にゃんごろー本ネコーの専属助手といっても過言ではない解釈度だ。


「美味しいキノコ…………、でも、キノコ魔獣に、にゃんごろーが食べられちゃうかもだし…………おとうふ……魔獣…………いっそ、魔獣が饅頭になってくれれば……。ああー、にゃんごろーは、おとうふの伝道師として、どうするべきなのか……」


 助手(仮)の解釈に間違いはなかった。

 にゃんごろーは、もふっと頭を抱え、何やらブツブツと呟いている。

 おとうふ心と恐怖心の狭間で苦悩しているようだ。


 実を言えば、魔法釣りネコーは。

 おとうふ問題を解決する、とっておきの情報を持っていた。

 けれど、そのカードを切ってしまったら、太古の塔ツアーはこれにて終了してしまいそうなので、もうちょっとだけ悩めるネコーを放置しておくことにした。

 魔法釣りネコーは、両手に綿毛を摘んで、「ふー、ふー」と交互に息を吹きかける。

 魔法のショーが再び始まる。


「うーん。塔の中は、古代の魔法の息吹が濃すぎてよく分からなかったけど、あのキノコたちも、ネコーの仕業かもしれないよねぇ」


 ふわふわと舞い踊る虹綿毛を見上げながら、魔法釣りネコーはキノコの謎にそっと思いを馳せる。

 どこかの不思議ハンターのひらめきに満ち溢れすぎたトンチキ考察とは違い、ちょっぴり根拠がある思い付きだった。

 おとうふネコーのお悩みを解決してくれる、とびきりの情報。

 それこそが、その根拠でもあった。


「キノコはともかく、次に煙突から煙が出てきたら、ここまで夜のお散歩に来てみようかなぁ。そうしたら、どこまでが古代の魔法で、どこからがネコーの魔法なのか、分かるかもしれないしね」


 本職よりもよほど本職らしい今後の予定を呟くと、魔法釣りネコーは悩めるおとうふネコーに歩み寄り、その耳元で、そっと魔法の言葉を囁いた。

 おとうふネコーは、ぱあーっと顔を輝かせ、元気と騒がしさを取り戻した。


「それ、ほんとーお!? よおーし、こうしちゃいられにゃーい! ネコーのお店を探しに行くぞーう! さっそく、卵のお船を呼んで…………あ! ひとり乗りだった!」

「あ、そんなことが出来るんだ。えっと、それなら、君は卵の船で帰りなよ。ボクはもう少し、古代の魔法を堪能していくから」

「本当!? 分かったー! それなら、そうするね! 卵のお船よー、迎えに来てぇー!」


 にゃんごろーは、タンポポ野原の端っこに向かって声を張り上げた。もふ毛に隠れてよく見えないが、手首に装着しているらしき魔法装置が反応したのを魔法釣りネコーは感じていた。

 大声を出したのは、にゃんごろーの仕様で、実際には装置を通じて魔法で指示を出したのだろうと魔法釣りネコーは推測した。

 ほどなくして、卵がふよんとお迎えにやってくると、不思議ハンターは意気揚々と乗り込んだ。魔法釣りネコーに向かって盛大に両手を振って別れの挨拶を告げると、パカッと開いていた蓋が閉じ、卵はふいんと飛び立って行く。


「ひとりで塔の中を通って外に出るのを怖がって、一緒に帰ろうって言われるかと思ったから情報を出し渋ったけど、こんな芸当が出来るなら、もっと早くに教えてあげればよかったね……? ま、いっか。すっかり元気とやる気を取り戻してたし、結果オーライだよね?」


 卵の船が見えなくなると、魔法釣りネコーはポツリと反省を口にしたのも束の間、すぐに気を取り直した。


「さて。ここも面白いけれど、やっぱり塔の中の魔法をもっとよく見てみたいな」


 魔法釣りネコーは、キラリと瞳をかがやせると魔法のエレベーターを呼び寄せ、乗り込んだ。使い方は、バッチリ身に着けていた。


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