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その11 タ・イーコの塔

 もっふ・もっふ、てっく・てっく――――と。

 不思議ハンターと魔法釣りネコーは、連れだって木々の間を歩いていく。

 魔法で隠された入り口を探しに太古の塔へと向かっているのだ。


 元々、それ目当てでやって来た不思議ハンターは、魔法釣りの釣果であるボートの絵に魅了され、うっかり目的を忘れたまま、おやつを食べに外周の桜ドーナツへ帰るところだったのだけれど、その前にピンクグレーの魔法釣りネコーが尋ねてくれたのだ。


「ところで。君はここへ、何をしに来たの? 釣り目当てではなさそうだけど」

「……………………は! そうだった! 忘れて帰るとこだった!」

「あれ? やっぱり、釣りだった?」

「ううん! にゃんごろーはねぇ、不思議を探しに来ました! 不思議ハンターだから!」

「不思議ハンター……」

「そう! なんかねぇ、昨日の夜、屋台のラ・メーンのお店で聞いたんだけどね? あのタ・-イコの塔に入ったことがあるネコーがいるんだって! ドン・ドコ・ドドン!」

「ラ・メーンのお店で、タ・イーコの塔?」


 聞いたことのある名前が、聞いたことのない発音で耳にお届けされ、魔法釣りネコーは首を傾げながら、湖の向こうの桜ドーナツへチラリと視線を流し、それから視線を戻して、内周ドーナツを彩る新茶衣として生い茂る木々の向こうにそびえ立つ土壁を見上げる。


「ふむ。中には入れないって聞いていたけれど、ネコーが入れるってことは、魔法で隠された入り口があるのかな?」

「そーおう♪ だい・せい・かぁーい♪……………はっ!? 魔法で隠された入り口! そうか! タ・イーコの塔とは、もしかして! ドンドコの塔と思わせておいて、本当は太古の塔という意味なのでは!? こんなところにも、隠された謎が! また一つ、不思議を発見してしまった。しかし、一体だれが、何のために隠したのか…………」

「うん。君が自分でうっかり不思議の粉をかけて隠しちゃって、たまたまボクが粉を払いのけたから、見つかったんだと思うよ?」


 魔法釣りネコーは、垂らしていた釣り糸を引き上げ、片付けの準備をしながら、不思議ハンターの目の前にだけかかっていたヴェールを取り除いてあげたのだが、不思議ハンターは聞いていなかった。

 もふもふクネクネと腰を揺らしながら、ひとりで楽しんでいる。

 胸と腰を躍らせながら、不思議ハンターは片方の肉球をツンと尖った耳の上に突き上げ、迷走の果てに突き止めた真実を叫んだ。


「ネコーが入れる魔法の入り口があるということは、この塔は! 古代魔法文明の遺書に、違い・なぁーい!」

「遺書? 遺産じゃなくて?」

「ほえ? い、胃酸? この塔は、古代の…………胃袋? 塔の中には、胃酸が!? タップタプ? 中に入ったら、食べられちゃうってこと!? これは、古代魔法文明の……罠!?」


 言い間違いを正されたネコーは、発音こそ正しく聞き取ったものの、明後日の方向へ変換し、ひとり慄き始めた。そろそろ、お腹が空いてきたのかもしれない。

 魔法釣りネコーは、にゃんごろーに慣れてきたのか、ちょっと笑っただけだった。マイペースに釣り道具を片付け、ボートの中にしまうと、ふるふる震えているにゃんごろーの肩をポンポンと叩いた。


「胃酸が溢れちゃうくらいの美味しい宝物が詰まっているかもしれないよ? ね? ボクも興味が出てきたから、行ってみよう? 中身は、自分の目で確かめないと。ね?」

「……………………は!? それは、確かに! うん、うん。その通り! よし、行こう! そこに美味しいものがあるのなら、おとうふネコーとして、確かめねば!」

「じゃ、出発!」

「おー!」


 ――――というわけで、ふたりは仲良く出発したのだ。


「ドンドコドン♪ ドドンドーン♪ ドンッ・ドンッ・ドンッ・ドンッ♪ うー♪」

「…………ふ、ふふ。また、太鼓になってる。タ・イーコのネコーだ。ふふふ。それにしても、胃酸って……。こ、古代の胃袋……って。 ふ、ふふふ。随分と長細い胃袋だねぇ。太古の巨大生物の胃袋……。胃袋だけが、遺産となって残ったんだ。胃酸だけに……。ふ、ふふ、ふふふふふ」


 にゃんごろーは太鼓になりながら、てっくてっくと弾む足取りで進んで行き。

 魔法釣りネコーは、にゃんごろーの聞き間違い及び勘違いにより導き出された太古の塔は古代巨大生物の胃袋説がツボに入ったらしく、ひとりでくふくふと笑っている。

 新茶ドーナツは人の手が入っていないようで、けもの道らしきものすらなく、木々の間には雑草や蔓系植物が生い茂っていた。人より小さなネコー探検隊たちにとって。茂みは進路を断ち塞ぐ大いなる壁だったが、ふたりはものともせずに進んでいく。

 茂みを掻き分け、蔓や蔦を断ち切るための鎌やナイフは必要なかった。

 ふたりには、魔法があるからだ。

 茂みは、まるで生き物のように、ふたりの前で身を開き、ふたりが通り過ぎると身を閉じていく。魔力を持たぬものがこれを見たら、茂みが勝手に左右に割れて、ネコー探検隊たちの前に道を作っていると思うだろう。

 太鼓になったネコーからも、くふくふネコーからも、魔法を使っているような素振りは感じられないからだ。

 それもそのはず。

 ネコーにとっては、この手の類の魔法は朝飯前で、息を吸うように自然に力を使うことが出来るのだ。実際、ふたりは、ほぼ無意識に魔法を使っていた。無意識魔法で茂みロードを作り、太鼓になったり思い出し笑いネコーになったりしながら、即席の魔法道を進んでいるのだ。

 さて、ひとしきり太鼓遊びを楽しんだところで、にゃんごろーは突然何かを閃いたようだ。


「ドン・ドン・ドドン…………むむ!」


 自家製ネコー太鼓の音色の合わせて飛び跳ねていた足を止め、「はっ!」の顔で天を仰ぐ。

 太鼓の音色を楽しみながら、くふくふと笑い歩いていた魔法釣りネコーも立ち止まり、釣られたように上を向く。

 新茶色の天井の隙間から、チラチラと木漏れ日が降ってきて、目を細めた。魔法釣りネコーは、どうしたんだろうと首を傾げてから、まだ空を見上げている元太鼓ネコーに視線を移す。

 元太鼓ネコーは、両手を天に突き上げて震え慄きながら、また何やら語り始めた。

 魔法釣りネコーは、緩んだ口元を両手で覆って、耳を澄ます。


「も、もももももも、もしや! 新茶と桜のドーナツがあまりにも美味しそうで、お空に大きなお口がパックゥーンと開いて、そこから、涎と胃酸がダバダバダバーッと! 滝のように!」

「い、胃酸の滝……。く……ふふん」


 元太鼓ネコーの不思議ハンターは、空に向かって「にゃおーう!」と叫んだ。自らの思い付きに、大分荒ぶっているようだ。

 大人しく拝聴するつもりのネコーは、抑えた手の間から笑い声を忍ばせ、もふ毛を震わせる。


「このままでは、ドーナツがお空の胃酸で溶かされてしまう! 春の食材を守るためにも、ドーナツを胃酸から守らねば! ドーナツで暮らしているみんなは、春の食材を守るために、立ち上がった!」

「あ、元は普通の島だったのが、胃酸で溶けて、ドーナツになっちゃったのかな? そうすると、島の湖は、胃酸の湖……? あ、でも。魚はいるから……あ! 春の魔法は、胃酸を中和するための魔法……?」


 トンチキ不思議考察は、二方向へ進んでいく。とても順調だ。


「春を守るために、ネコーも人も手を取り合い、胃酸の滝を塔の中に閉じ込めた! 作戦は大成功し、ドーナツと春の食材は守られた! こうして、タ・イーコの塔が出来上がったのだ! つまり、太鼓の音色は、せつないお腹の音色!」

「ん? 胃酸の滝からお腹の音は鳴らないんじゃない? それなら、古代巨大生物の胃袋説に軍配が上がるんじゃないかな?」

「…………はっ!? も、もしかしえてぇ!?」

「ん?」


 荒ぶる不思議ハンターに、魔法釣りネコーは冷静にツッコミを入れた。不思議ハンターは、またしても何かを閃いたようだ。タイミングからしたら、ツッコミからヒントを得たかのように思えるが、たぶんそうではないのだろうなぁ、と魔法釣りネコーは予想した。

 不思議ハンターは、何やら震え慄いていた。


「ま、まさか⁉ サ、サバアは…………!?」

「サバア?」

「荒ぶる胃酸を宥めるためにみそ煮にされる、池の……ニワトリ!?」

「みそ煮? 池のニワトリ? あ、サバアって、サバのこと? サバのみそ煮? サバがみそで煮込まれて…………塔から胃酸があふれ出さないためのイケニエされるってことかな?」

「サバア……! みんなの春を守るために……!」


 にゃんごろーは、両手で頭を抱えて「オオオオオォー」と唸り出す。

 サバのみそ煮をババアのみそ煮と聞き間違えたことから始まる勘違いは、不思議ネコーの小さな頭の中で、壮大なるドーナツ島の秘密へと発展していった。

 魔法釣りネコーは、みそで煮込まれてイケニエにされるのは、本当にサバなのかと首を傾げた。みそ煮込まれるのがサバならば、この食いしん坊なネコーはジュルリと涎を滲ませそうなのに、本気で苦悩しているように見えるからだ。


「んんー? 本当にサバの話をしてるの? まさか、サバアって、人の名前じゃないよね? そんな風習、聞いたことないけど? イケニエとかネコーの流儀じゃないから、ネコーの名前ってことは、ないだろうし……。でも、人間は、そういうの好きみたいだから、隠れてやってる可能性は、あるかもだけど。んー…………?」


 何やらとんでもない意見が飛び出してきたが、それに物申す者は、ここにはいなかった。

 忌憚なき人間への印象を述べつつも、魔法釣りネコーは、みそ煮の儀式が腑に落ちないようで、首を捻りまくっている。


「隠れてやってても、こう……、何をしてるのかは分かんなくても、何かしてるなーっていうのは、なんとなーく分かるものだと思うんだけど、そういうのも、ないよねぇ……?」


 そもそも、とあるネコーの勘違いから始まった不思議妄想なので当然である。

 島民ネコーの当然なる疑問は、不思議を踏み出した不思議ハンターの耳には届いていなかった。

 不思議ハンターは、ひとりで勝手に不思議考察を進めていく。


「みそで煮込まれたサバアは、島のみんなに食べられちゃうんだと思ってたけど……。まさか、みんなの春の食材を守るための、太鼓の胃酸のニワトリだったとは……」

「…………サバ好きのおばあさんだからサバアなのかな?」


 魔法釣りネコーは首を傾げつつも、不思議なお説に耳を傾けた。

 荒ぶる不思議考察とは裏腹に、こちらは真相に近づいている。


「ふぅむ……。サバアがそれを納得していて、美味しく食べてもらえるなら、それも一つのおとうふなのかもしれない……」

「サバで、ニワトリで、おとうふで、みそで……。太古の遺産は、随分と美味しそうだねぇ。やっぱり、塔の中には、本当に胃酸がタプタプタプン?」

「しかし、ここで一つ、大きな問題がある。煮込まれたサバアが、島の大事な儀式のニワトリとして、おとうふなお空のニワトリになるなら、よそ者のにゃんごろーが口を出すのは、間違ってる……。でも……」

「んん? 煮込まれて、おとうふみたいな雲がいっぱいの空へ飛んでいく……ニワトリのふん装をしたサバア? でも、ニワトリは、空を飛べないんじゃない?」

「ただ胃酸で溶かされちゃうだけなら、せっかくみそで煮込まれたのに、ちゃんと味わってもらえないってことじゃない……? つまり、お空は、おとうふではなく、ただの食いしん坊ってことじゃない? これは、由々しきおとうふ問題だ……」

「…………あ、イケニエニされて、お空へ旅立つって意味か……」

「うぅむ。お空はドーナツを盗み食いしようとしたけれど、春ドーナツを守りたいみんなに、邪魔された。それでも、お空の食欲は止まらない。お空は、ドーナツの代わりの食材を求めた。それが、サバアのみそ煮ぃ! サバアは、春ドーナツの代わりに、ならずもの食いしん坊なお空につまみ食いされるってことなんだよー!」

「違った……。っていうか、もう、そのアイデアを元に、絵本でも描いたらいいんじゃない?」


 おとうふにして不思議な真相に辿り着いてしまったネコーは両手で抱えたもふ頭をブンブンと振り回した。

 魔法釣りネコーは、ちょっぴり呆れた顔でそれを見つめている。

 ようやく、おとうふネコーの勘違いに振り回されていたことに気づいたのだ。元々、太古の塔は古代巨大生物の胃袋説を押していたからこその釣られ勘違いだった。胃袋ならば、お腹を鳴らすのも道理……とか、つい思い込んでしまったのだ。

 けれど、話を聞いている限り、にゃんごろーは“お空のお口”説を本気で採用しているようだ。

 ゆるっと思考なネコーからしても、食いしん坊なお空による盗み食いが発端であるという案は、さすがに荒唐無稽が過ぎたようだ。

 やはり、太鼓ではなく太古で、胃酸ではなく遺産なのだ。

 しかし、勘違いにとらわれたままのおとうふネコーは、ひとりで勝手に苦悩していた。


「くぅううう! なんということだ! およその島の人間の事情に、よそ者ネコーが勝手にお口をグインと突っ込むのは、よくない! でも! ならずもの食いしん坊による盗み食いが始まりならば! おとうふネコーとして、見過ごしてはならないのでは!? うぐぐぅ……。にゃんごろーは、おとうふネコーとして、どうするべきなのか……っ」


 魔法釣りネコーは半笑いになった。

 ネコーからしても、ちょっと呆れてしまうトンチキぶりだったのだろう。

 魔法釣りネコーは、進行方向と苦悩するネコーを見比べ、「ふむ」と考え込む。いっそ置いていこうか考えているのかもしれない。


「…………うん。まずは、真相を解明するのが先だよね? ほら、とにかく行ってみようよ。どうするのか考えるのは、それからだよ」

「…………は! た、確かにぃ…………!」


 思案の末、魔法釣りネコーは、おとうふな不思議ハンターと共に行くことを選んだようだ。

 ポンとにゃんごろーの肩を叩いて、道行を促す。

 我に返ったにゃんごろーの瞳には、使命を果たさねば……という光が宿っていた。


 それが、おとうふな使命なのか、不思議ハンターとしての使命なのかは……。


 まあ、どちらであっても、あまり変わりがないのかもしれない。


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