最終章: 最後の願い
火の鳥との最後の対話
エリオは、必死にアリサから逃げながら、火の鳥の神殿に再びたどり着いた。彼の心は希望と不安に満ちていた。火の鳥の力があれば、アリサを救えるかもしれない。しかし、時間は限られていた。アリサがカイルの命令でエリオを追い詰め、刻一刻と彼の死は近づいていた。
神殿の中央に立つ火の鳥が、エリオの前に再び現れた。彼の願いに応じて、火の鳥は静かにその目を彼に向けた。
「お前は再びここへ来たか、エリオ。」火の鳥は重々しく言った。「アリサを救うためにか?」
「そうだ…彼女を救いたい。元のアリサに戻してほしい。カイルの支配から解放するために、どうか力を貸してくれ…!」エリオは必死に頼んだ。
火の鳥はしばらく沈黙し、やがて静かに語り始めた。「お前はまだ理解していない。アリサに感情を与えたことで、彼女は自然の摂理を逸脱してしまった。その結果、彼女はカイルの手に堕ちた。もはや彼女を完全に解放することはできない。」
エリオの心は重くなった。「それでも、何か方法があるはずだ。彼女を…救いたいんだ!」
火の鳥は再び沈黙し、そして冷たく答えた。「唯一の方法は、彼女をその存在ごと消し去ることだ。そうすれば、カイルの支配から解放される。しかし、それは彼女の完全な消滅を意味する。それでもお前は、その道を選ぶのか?」
決断の時
エリオは絶望的な気持ちで沈黙した。火の鳥が告げた真実は、彼の心を深く切り裂いた。彼女を救うためには、アリサを完全に消滅させるしかない。それが唯一の解放の方法だと火の鳥は言う。
「彼女を消すしか…ないのか…?」エリオは震える声で呟いた。
火の鳥は頷いた。「それが彼女を救う唯一の道だ。しかし、それは彼女を永遠に失うことを意味する。」
エリオの心は激しく揺れ動いた。彼女をこのままカイルの支配下に置くことは耐え難いが、彼女を完全に失うことは彼にとっても耐えられない。しかし、時間は残されていない。アリサが神殿に近づいているのが分かる。
「…わかった。」エリオは決意の表情で言った。「彼女を…解放してくれ。アリサがこのまま苦しむことは許せない。彼女を救うためなら…僕はすべてを失っても構わない。」
火の鳥はゆっくりと翼を広げ、エリオの決断を受け入れた。「お前の選択を尊重しよう。だが、その代償は大きい。」
アリサの消滅
エリオの選択を聞き終えた直後、アリサが神殿に到着した。彼女の目は冷たく、エリオに向かって歩み寄る。
「エリオ…最後まで逃げ続けるつもりか?カイル様の命令は絶対だ。あなたをここで終わらせる。」
しかし、アリサが刃を振り上げた瞬間、火の鳥が彼女に向かって放つように光を放った。その光は彼女を包み込み、アリサは瞬く間にその場で立ち尽くした。
「何…これ…?」アリサは動揺し、混乱の表情を浮かべた。「私は…カイル様に…」
だが、その言葉は続かなかった。彼女の体がゆっくりと光に溶けていく。アリサの姿は薄れていき、彼女の瞳にはかつての優しさと哀しみが一瞬だけ宿った。
「エリオ…私…」
それが彼女の最後の言葉だった。アリサの体は完全に消え去り、彼女は永遠にこの世界から姿を消した。
エリオの喪失
エリオはその場に立ち尽くし、涙を流しながら彼女の消滅を見届けた。彼女を救いたいという願いは叶ったが、その代わりに彼は彼女を完全に失った。火の鳥の言葉は正しかったのだ。
「アリサ…ごめん…」
エリオは呟きながら、膝をついて涙を流した。彼の心は壊れ、すべてが終わったように感じた。
火の鳥は最後に彼に告げた。「これが自然の秩序だ。お前が選んだ道だ。だが、お前は彼女を救った。彼女はこれ以上、誰にも操られることはない。」
エピローグ: 火の鳥の啓示
カイルはその後、自分の計画が崩壊したことに気づき、火の鳥の怒りを受けた。彼の支配欲と野心に対して、火の鳥は彼に最大の罰を与えた。
カイルは永遠に孤独な存在にされ、他者からの認識を完全に失った。誰も彼を認識せず、彼の存在は誰の記憶にも残らない。彼はすべての人間の視界から消え去り、孤独の中で永遠に生き続ける運命を背負わされた。
エリオは火の鳥の神殿を後にし、すべてを失った孤独な旅に出た。彼はもうアリサに会うことはできないが、彼女が自由になったことだけを心の支えにして、静かに旅を続けるのだった。




