異世界の痛み
月明かりのまぶしさに重い瞼を開くと同時にひどい疲労感が体を襲う。
「うぐっ・・・」
仰向けに地面に横たわる体を動かそうとした瞬間、全身に鋭い痛みが走りうめき声が漏れる。
日はもう落ちていて細い路地裏には夜の静けさが入り込もうとしていた。ぼんやりした頭ではどうも状況を思い出せない。どうやら気絶していたようではあるが。
「・・・くそっ・・・」
訳が分からないが、痛みが引く様子もないがこのままでいるわけにもいかない。痛みに悶えながらゆっくりと首を回す。すると、薄く開かれた目は打ち捨てられた棒切れをとらえる。
「・・あぁ・・釣り竿か・・・」
かすむ目を凝らして、その物体が釣り竿であることを理解。そして疲れ切った脳は、今日釣りをしていたことを思い出す。しかし、現状と記憶の乖離が著しい。この痛みは、、いったい何が起きたのか。
ぼーっと釣竿を眺めながらゆっくり思い出そうとする。しかし、記憶がよみがえるよりも先に視界は新し情報を持ってきた。釣り竿が折れていたのだ。
「・・・あ」
思い出した。釣り竿が折れている原因、否、おられた原因。そして大量に釣ったはずの魚がない理由も。
「盗まれた・・・のか」
思いのほか大量に釣れた魚を持って帰る途中、貧民街の連中に襲われたのだった。
あんまり量が多かったのもあり、鼻歌交じりに歩いているところを目ざとくかぎつけた彼らは、俺を襲った。いつもはあまり抵抗しない俺が、強い抵抗を見せたことに腹を立てたやつらは、俺をいたぶって魚を持って行った。
「ああ・・・最悪なこと思い出しちまった」
手で顔を覆う。それと同時に体が動かせることに気づいた。
「この体にも感謝しなくちゃな」
俺の体は人間のものではない。というのも、どうやら俺は獣人に生まれ変わったらしい。見た目はオオカミと人を混ぜたような半人半獣で、牙と爪が鋭く鼻も聴く。そして何より頑丈な体とすさまじい回復力。相当なことをしないとまず死なないだろうこの体。それをここまで傷つけたのだから相当おかんむりだったに違いない。
「くそっ・・・」
なんて情けない。こんなに強い体がありながらこんなに伸されてしまうなんて。しかし、強いといっても俺の体はまだまだ発展途上だ。この異世界に生を受けてからまだ8年。大人と戦うのはまだ無理だ。彼らからしてみれば、犬をいじめるのと大差ない。実際にそういっていたのだ。強がりでもなんでもなくただ単に俺が弱いのだろう。
「むかつく・・・」
もういい。家に帰ろう。俺は帰路を目指すことを決めた。
不定期更新です。書きたくなったら書こうでやっていくつもりです。