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お嬢様の真意

「どうして予定の座標へ向かわないのですか?」

 

 カレナの前にでて背中に隠そうとするギンガを手で抑えながら尋ねた。

 当然の疑問だろう、マカロンが引き受けた仕事とはカレナを安全地帯、つまり指定された座標に届ける事なのだから。

 

「あら、間違えてたかしら」

 

 しかし当のマカロンはまるで痴呆が進んだかのように振る舞ってとぼけている。年齢を考えると実際に痴呆が始まっていてもおかしくはないが。

 だがここ数時間のマカロンを見ていたカレナは、マカロンがボケてはいない事とわざとそうしているのだということを理解していた。

 

「おとぼけなさいますのね」

「ふふ、バレちゃった」

 

 イタズラがバレた子供のように微笑むマカロン。愛らしいものではあるが、カレナにとっては少し苛立たしいもの。実際マカロンはそれを狙っていた。

 ただカレナは年齢の割に落ち着いており目論見は外れる事となる。対して護衛のギンガの方は焦りが表情に現れていて右手は腰に差した銃にあてがわれている。

 

「随分落ち着いてるのね、カレナちゃん」

「常に冷静にと、父から教わっておりますので」

「まあお父さんが、今度私に紹介してくださいな」

「既に会っておられるのでは」

「いえいえ、あなたのお父様に会ってみたいの」

 

 そこでカレナはハッと面をあげる。マカロンの意図している事に気が付いたからだ。

 どうするかしばし考えた後、カレナは大きく息を吐いて仕切り直すように表情を切り替える。そこにさっきまでのあどけなさは無く、代わりに冷たい表情を浮かべた。

 

「いつから気付いていたの?」

「フフ、最初から」

「そう」

「お嬢様、よろしいので?」

「演技しても無駄よ、お兄ちゃんも慣れない敬語なんてやめたらいいわ」

 

 声のトーンも喋り方も打って変わってクールな雰囲気となった彼女に驚くことも無く、しれっとマカロンは返した。

 

「あのね、別に自虐ではないのだけれど。ほら私達ってそんなに有名じゃないの、大きな実績も無いしほんとに二流の運び屋なの。

 そんな運び屋に大事な娘を任せるかしら? それも相当なお金持ちが」

「少なくとも、私なら頼みません」

「でしょう? それで、あなたの本当の名前は何かしら?」

「ミルキィ……ミルキィ・フューリーです。こちらは兄のギンガです。私はカレナ様の侍女でお兄ちゃんはあの街のダイバーでした」

「おお! メイドだ! あたしメイドさんを見るの初めてよ!」

「こぉら、静かになさい」

 

 騒ぎ立てるリナリアを黙らせて本題に戻る。

 

「ミルキィさん、本当は私達を囮にして本命の運び屋達を逃がす予定だったのでしょ?」

「はい、計画では私達の座標を敵に流してわざと沈めさせる手筈だった」

「その場合あなた達はどうなるのかしら」

「死ぬわ」

 

 あまりにもさらっと言ってのけるその姿に、流石のリナリアも思わず引いてしまっている。

 

「そう、やはり」

「今度はこちらから聞くわ、最初から気付いていたならどうしてこの依頼を引き受けたの?」

「もちろんお金のため」

「じゃあ策があるんだ」

「もちろんよ」

『お話し中すみません、ダウンカレントです』

「衝撃に備えて」

 

 言い終わる前に全員が椅子にしがみついて身体を固定する。数秒してからまるで黄昏の船機を叩きつけるかのような衝撃が襲ってきた。

 瞬間の衝撃に耐えてからジョルジュが経過報告をする。

 

『深度60、70……海底まであと30秒、崖から離れますか?』

「いえ、このまま海底まで潜航、そのまま崖に沿って移動してちょうだい」

『かしこまりました』

 

 ダウンカレントとは崖や斜面等で発生する降下流の事、その名の通り下に向かって流れる急流の事であり、もしダイバーがこれに巻き込まれたなら高い確率で死に至る恐ろしいもの。

 今回は潜水艦の中なのでダウンカレントの被害はあまり心配しなくてもいい。

 

「ジョルジュ、進行方向は安全かしら?」

『今の速度を維持した場合あと二時間で新たな海溝に到着します』

「なら海溝に到着するまでに浮上してくれるかしら、浮上する時はパラストタンクで調節するように」

『かしこまりました』

 

  ダウンカレントの流れを利用して海底近くまで潜航し、それから座標までゆっくり航行していく。

 ジェットノズルから発せられる海水の勢いが黄昏の船機を前へと押し出す。

 

「そうそう、話を戻さなきゃ……えっと、どこまで話したかしら」

「私達兄妹が偽物だったというところ」

「そうだったわね、やだわ歳をとると忘れっぽくなって……ところで今この船は本物のカレナちゃんがいる所を目指してるの。なぜだかわかるかしら?」

「大体の予想はつきます、旦那様とお嬢様が狙われているから」

「正解よ、ミルキィちゃんって賢いのね」

 

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