【91】生理現象
「これで終わりね?」
「すごいな黒蓮」
「そ、そうかしら?」
「素早く敵との距離を詰めるあの動きは…すごいかっこよかった」
「ふーん…そう」
褒められて嬉しかったらしく、黒蓮は声を上ずらせ、頬を僅かに赤らめながら機嫌良さげにしっぽをふる。
「そ、そんな事よりも!死体を解体して早く帰りましょう?」
黒蓮が照れを誤魔化すように言うが。
「いや、依頼の内容的に他にも生き残りがいる可能性があるから探した方が良くないか?」
自分がそう伝えると、黒蓮はその事を考えて居なかったのかハッとした様子を見せ、口をもにょらせながら考える素振りを見せたが、そこまで悩むことも無くどうするかを決定した。
「それも…いえ、やっぱり帰りましょう。一匹見つけるのにもかなり時間がかかったし依頼に数の指定が無かったという事はどれぐらい生き残りがいるのか把握出来ていないどう言う事でしょうし、一匹だけもまぁ小声ぐらいは言われるかもしれないけど、依頼失敗にはならないでしょ」
「えぇーもっと冒険しようよ!」
金華が不満げに頬を膨らませながらそう言う。
「はぁ…森の中は散々移動したでしょうに。悪いけど今回は譲らないわよ金華」
黒蓮が声を凄ませて言う。
「ヤダ!ヤダ!護衛の依頼を受けたら絶対しばらく街から出られないんだよ!もっと満喫しようよ!」
「ダメよ。明日から護衛っていう大事な仕事なんだからしっかり休まないと、ほら行くわよ」
そう言って黒蓮が金華の手を取って無理やり引っ張って行く。流石に黒蓮の様子がおかしい、いつもと違いすぎる。
「待て黒蓮、そんなに急いで一体どうしたんだ?」
「別に急いでなんていないわ」
「いや、急いではいるだろ。本当にどうした?」
「別になんでないって言ってるでしょ!」
黒蓮が声を張り上げて怒鳴りつける。
「あ、えっと、ごめんなさい」
「……帰るわよ」
「ぶぅー」
自分の意見がゴリ押しとはいえ通ったにも関わらずきげんが悪そうな黒蓮の後に続いて街に戻った、そして傭兵ギルドに依頼の報告をして、予想通り「一匹だけですか?」と文句を言われながら報酬を貰い……控えめに言って地獄の様な空気が流れている。
「……もう、急にどうしちゃったんだろう」
あの元気っ子の金華でさえ、あれ以降黙りこくっていたと言えば如何にやばいかが伝わりやすいのではないだろうか?不満げに口を尖らせてそう言う金華。
「ここ…一週間くらいか?変な感じだったが、今日のは…まぁ酷かったな」
「本当だよ!」
金華はプンプンと怒りを表すように手足をじたばたさせる。その様子は見るからに怒っているのに何処か可愛らしい。
「心当とか無いのか?」
「そんなのな……」
ない…金華がそう口にしようとした所で何かに思い出したのか口が止まった。すぐにその思い当たりを口にしてくれるかと思って待ったが、金華は何も言わず代わりにほのかに顔を赤らめると、もふもふの尻尾を抱えて…
「……へんたい」
「えぇ?」
金華はもじもじしながらそう言った。いきなりの変態呼びに、悲しみよりも動揺が先に来る。
「これは…乙女の秘密だからいくらドーンでも教えられないよ!それじゃお姉ちゃんの様子を見てくるからドーンはおとなしく待ってて!覗きに来ちゃダメだからね?絶対だよ!?」
そう言って金華は先程までの怒った様子から一転して何処か楽しそうにしながら、慌ただしげに去って言った。フリにしか聞こえないセリフを残して。
まぁそんなに念を押さなくても、見に行くなんて危険は起こさないけど。
そうして….ネットもないこの世界の部屋でただゴロゴロしていても暇なだけというわけで自分の本体であるダンジョンの方に思考を飛ばし、るしさんルドについて報告しに行く事にした。
休まなくていいのかって話だけど、実の所全くと言って良いほど肉体的にも精神的にも疲れていない、ゲームでは精神には影響がなかったから、その点が少し不安を煽るがそれ以外は本当にステータス様々である。
ダンジョンに意識を集中させる。
★
「バァ!」
【る、るしさん?何やってるんです?】
ダンジョンに意識に集中した途端、何故かコアの上でうつ伏せになって居たるしさんが大きな声をあげた。ちなみにるしさんはしっかりとした鎧を着こんでいるので、あの大きな胸の感覚は…硬いものだ。
「ちょうど来る頃だと思ってな。しかしお前、全然驚かなかったな?もっといいリアクションしてくれると思ったんだが……イヤー残念」
「…別に体を動かしている間、意識が無くなる訳じゃないからな」
「そうなのか?いや〜実は俺、分身とかそういう系統のやつ使ったことないから知らなかったわ、いい勉強になった」
そう言いながらるしさんポンポンと服を払いながら立ち上がり、自分の正面に移動する。
「んじゃ、そろそろ報告を聞こうか、その為に来たんだろ?」
「ああ、まぁそうだが…よくわかったな?」
「全然帰って来ない奴が急に帰ってきたら、そりゃ厄介事合図だろ?」
「それは…いや、お前の方から依頼しておいて厄介扱いはどうなんだ?」
「今はこの地の開拓で立て込んでてな、用事はすべからく厄介事よ!」
「…流石にそれはどうかと思う」
「そうか?まぁ兎に角、最近整地が終わっていざ建物ってなった時に…まぁ建築様式をどうするかって話でめちゃくちゃ揉めててな」
揉める?白さんの事は殆ど知らないけど、普段の様子からしてるしさん第一主義的なイメージだったから以外だ……
「なんか変な想像してるなオマエ」
るしさんが訝しげな視線でこっちを見つめてくる。
「いや、そんな事は……」
別に変なこと…では無いはずだ。
「揉めてるのは白と俺じゃなくて、天使と悪魔どもだ」
「天使と悪魔?…召喚したのか」
「その通りだ、魔王がいた時はここが異界化してたから出来なかったが、今なら自由自在よ。魔王の種族スキル【支配の顕現】で読んだんだが…まぁ趣味の合わないこと、合わないこと、一応同系統種なんだからもう少し仲良くして欲しいね」
「天使と悪魔だしそんなものじゃないか?」
「そう言われればそうなんだが…色々と面倒なんだよ。ま、こっちの話はこれぐらいです終わりにしてそっちの話を聞こうか」
「わかった。ユグドラシルのメンバーの一人ルドさんに遭遇した」
「おお!あいつか、最初にあいつが見つかるとは運がいいな。あいつはユグドラシルのメンバーの中じゃかなり理知的な部類だし何より商売が上手いからな、色々と頼りなる」
「俺の印象もそんな感じだ。聞いた感じだと異世界に来て豹変なんて事もなさそうだった。」
「それは僥倖。あいつはまだ仲間ってことで良いんだな?」
「ああ、るしさんの名前を出した時にリーダー呼びだったしそのはずだ」
「よし、そんじゃこっちが一段落したら顔を出すか。んじゃ俺はもう行くから、他のメンバー頼むぜ?」
「…ああ」
聞きたい事は聞いたと、言う感じで地面に降りたるしさんはこちらに背を向けて外に向かった。
その背を見送りながら…ふとるしさんならば黒蓮の様子がおかしいことを相談したら、なんで様子がおかしいのか分かりそうだな。なんて考えが浮かんだけど金華の感じからして恥ずかしい物らしいし…まぁ金華がわかっているなら大丈夫だろうということで聞かない事にした。
今頃金華が良い感じやっていることを信じて。




