【87】ルド商会
金華に連れられて、朝市の雑踏の中に足を踏み入れた三人。道をただ歩いていた時のように勝手に人が避けて行ってくれるようなことはなく、元々人混みが苦手な自分にはステータス補正があってなお疲れるものだった。
それでも三人でいい匂いに釣られて買い食いをしたり、露店を冷やかしたりするのは楽しく……そう、前世では感じた事の無い楽しさがあった。
「この、焼きカブ、タレが効いてて美味しいね!」
そう言ってさっき買ったばかりの湯気が立ち上る熱々のカブに食いつく金華。
「そうだな」
「そうね、思ったよりは美味しいわ」
野菜が苦手らしい黒蓮は少しだけ渋い顔をしているが、それでも無理をした様子も無く普通に食べている。嫌いな味がすると言うより美味しいのが認められないと言った感じか。
しかし……この焼き上がる匂いにこの味、間違いなく使われているのは醤油系のタレのはずだ、最初の街じゃそんなもの影も形も無かったが別の国だしそんな事もあるかとも思ったが…売ってる露店にあるマークがエドワードさんが乗ってた馬車に付いていた馬車と同じなんだ。
だからどうした?と思うかもしれないが、実のとろルドという名前に聞き覚えがある。お察しの通りプレイヤー、それもクランユグドラシルのメンバーの名前としてだ。
彼はるしさん同様ゲーム内で名を馳せたプレイヤーの一人で、複数の世界に大きな影響力を持った最も大きな規模の財閥のトップだった。しかも元からあった物のトップになったのではなく、一から作り上げてである。これだけでもルドさんの過ごさが分かるだろう。
とはいえ、とはいえだ。人数が少ないから絶対とは言い切れないが自分とるしさんがこの世界に来たのが同じタイミングだった事を踏まえると、この世界にいる他のプレイヤーもそう変わらないはずで…つまり、もしルド商会がプレイヤーのルドさんが経営する商会だとしたらたった一二ヶ月程度でこの大きな街で行われる祭りの運営も任せられるだけの規模、信用、金を揃えたという事になる……流石にそんな事出来るとは思えない…いや、思えなかった。
レベル上げとは訳が違うのだ。
とはいえ、醤油系の匂いがするのはルド商会がやってるあの露店からからだけでプレイヤーの気配があるし、名前の一致もある…
プレイヤーには考え抜かれた組み合わせのスキルや魔法が使えるという圧倒的な優位があるし有り得なくは無いのか?
「どうかしたのドーン?」
「黒蓮…いや、ただ思ってたよりも早く依頼を達成出来るかもしれないと思って」
そう言って自分は『次元収納』から〈運命の緑糸〉を取り出す。
「!」
取り出した〈運命の緑糸〉を見て驚いた様子を見せる黒蓮。予想通り、〈運命の緑糸〉が指し示す先が変わっており…相手が大移動でもしていない限りかなり近付いた事を示していた。
★
約束通り、お昼の少し前に宿屋にエドワードさんが迎えに現れた。そしてエドワードさんの案内の元ルド商会の本店に訪れることになった。当然の様に街の中心付近の大通りに店を構えている上に周囲の建物と比べて倍近くあり……とても一二ヶ月前から始まった商会の規模には見えなかった。
と言うか、朝イチを2人と回るのが楽しくて結局ルド商会に付いて情報を集めるのすっかり忘れたな。ちゃんと調べれば疑いの真偽なんて簡単にわかっただろうに。
そんな後悔を胸に抱きながら、エドワードさんに追従して店の中に入るとそこは、豪華絢爛というわけではないが今まで見てきた物と比べて格段に質がいい様々な物が棚に陳列されてた。この手の世界観でよくあるようなポーションだけ、武器だけおいてあるような専門店でなくスーパーのように食料から雑貨、異世界らしく武器まで設置されているにもかかわらず、雑多には感じないのは流石というべきなのだろうか?
ゲーム時代の情報が確かならルドさんの職業とスキルは商売で関係する物で埋められていると聞いたことがあるが、その手のスキルに商品の質を上げるような物は無かったはずで…………しかし、朝市で扱われていた品物と比べると格段に質が良い。流石にランクが変わるほどではないが、それでも品質はこっちの方が数段上で...それでいて値段は気持ち高い程度だ、つまりかなりお買い得だ。ダンジョンとしての能力で生成する品物の品質は基本的に普通で固定だし何かしら目ぼしい物があったら買っても良いかもしれないい。
それなりに客が居る店内を通り抜けて、案内されるがままにバックヤードに入場し、そのまま応接室らしき場所に通された
「お待ちしておりました。ささ、どうぞお座りください」
そこには既に一人の男が座っており、自分達のが部屋に入ったのと同時に立ち上がって自分達にそう言ってくる。
黒髪で糸目、何処となく胡散臭い雰囲気を纏った細身の男……クランユグドラシルのメンバーが一人 天秤のルド その人がそこにはいた。
椅子はこの手の部屋によく置いてあるソファータイプの椅子で、余裕を持て三人並んで座れる大きさだ。一応、このパーティーのリーダーは黒蓮なので真ん中に座るように促したが、黒蓮も相手が目当ての相手であることを察していたようで逆に真ん中に座らせられ、左右に金華と黒蓮が座った。
それでこちらの準備が整ったと見たのかルドさんが話始める。
「まず初めに私の部下の命を救っていただき誠にありがとうございます……ドーンさんとそのお仲間がた。」
自分の名前を知ってる?エドワードさんに聞いた…にしてはわざわざ自分の名前だけ読んだのは違和感が……
「…自分の事を知ってるいらっしゃるので?」
「それはもうもちろん、移動迷宮のプレイヤーは数えられる程度しかいませんでしたからね」
「なるほど…」
確かに、普通の迷宮と違って移動迷宮のプレイヤーの数は少なかったが…生成が使える迷宮のプレイヤーが客になることは殆ど無いはずだし、わざわざ覚えるような対象じゃないと思うんだが…
「それで部下を助けて頂いた、貴方たちへの礼金の話しなのですが…部下を助け、荷物も無事、護衛の怪我も治して頂けたという事で少しばかり色をつけさせて頂きました。」
そう言ってルドさんは懐に入れると、一体何処に入っていたんだと聞き無くなるような大きさ袋を取り出した。袋には重量感があり、ジャラジャラした音からして中に入って居るのは恐らく硬貨だろう。
「金貨を五十枚ほど包ませて頂きました、どうぞお納めください。」
「金貨50枚…それは流石に貰いすぎだと思うのですが…」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。確かにこの手の礼金は銀貨10〜20枚程度が相場ですが、商家なら最低でもこの三倍、救われた物の価値によっては更に増えます。ここでそれを出し渋るようだと周囲に落ち目だと思われてしまいます、私のような商売人としてはそれは裂けたいこと、どうかお受け取りください。」
「…ん、ん〜いや、しかし」
「……ではこう言うのはいかがでしょうか?実は私達は今、腕の経つ者を探しておりまして。別途依頼を出しますのでそれを受けて頂けないでしょうか?」
おっと……ちょっと敵を倒しただけで貰い過ぎだと思って渋ってたけど、失敗だったかも。
「それは…先に内容と理由を教えてください、それから決めます」
「ええ、もちろんですとも」




