【6】信念
side 黒蓮
鬱蒼とした木々が生い茂る中を私は妹の手を引いて全力で走る、前に戦った時に痛感したことだけどジャイアントベアはあの巨体に反して随分と早い、少しでも遅れたり止まったりしたら私達は……
「ッッ」
「…ぇ……」
けどまさかジャイアントベアに出くわすなんて…ここに来るまでに魔物と出くわさ無かったし魔物は階層を跨いで移動することは無いって聞いていたから大丈夫だと思ってたのに……こんなことなら金華の忠告を聞いて置くべきだったわ。
「お姉ちゃん!」
「黙って!喋って無いで早く走りなさい!死にたいの!?」
「ドーン!ドーンが!」
「ドーン…」
そう言われて事ここに至ってその存在を思い出す、前方に注意しながら少し後ろに振り返るとそこにいるのは妹だけでドーンの姿は無い。あの今朝であったばかりの記憶喪失らしいチグハグで変な男の姿はそこには無かった。確かあいつは森の中を歩き慣れているとは言い難い感じだったし多分途中で根っこにでも躓いて……そういえばあいつは木をなぎ倒しながら近付いて来ていたはずなのにその音がさっきから聞こえない…つまり掴まって
「可哀想だけど諦めなさい、狙いがこっち移らないとも限らないし早く」
「違う!まだ戦ってる!死んでない!助けに行かないと!」
金華は不満いっぱいですといわんばかりに頬をめいいっぱい膨らませ、力強く今逃げてきた方を何度も指さす。
そう言われて耳を済ませて見れば確かに遠くから木々が倒れる音が聞こえてくるような気がする。
「逃げる前にも言ったけど無理に決まってるでしょ!?だいいち今日たまたま拾っただけの男ためにそんな危険を犯す必要はないわ!!」
「…面倒を見るって言ったのはお姉ちゃんでしょ!」
「それとこれとは話は別よ!いいから姉の言う事を聞きなさい!」
「……もういいもん!私一人で助けに行くから!」
そう言って金華は身を翻して逃げてきた方向へ向かって駆け出す。
「金華!待ちなさい!」
咄嗟にいつの間にか離れていた手を繋ぎ直そうと手を金華へと伸ばしたけれど金華の手はすり抜け遠くへと走り去って行ってしまった……
「…………………………………あぁ!もう!」
掴む先を失ってしまった手を握り締めて私は金華の後を追った。
★
sideドーン
《『【超越者】が発動しHP1で食いしばりました》
全身が避けるような痛み、痛い、痛い…いや、違う、考えろ、何が起きた、何も、見えない、兎に角武器を…
ーーーモフっ
「ひゃぁん///」
痛む体を押して種族スキルのおかげでギリギリ死んでいない体を押して武器を探して手をガムシャラに動かすとそんなどこか甘さを含んだ叫び声が近くから上がると共に体がじんわりとした温かさに包まれ、それと同時に痛みと思考の混乱が引いて行く…そして痛みを堪えるために固く瞑って居た目を開けると目の前には美しい金色の御髪を垂らし、心配そうに、しかしどこか怒りと恥ずかしさを含んだ表情をした金華がいた。
「金、華…どうして」
「それはこっちのセリフだよ!どうして一人で残ったりしたの!どうして一緒に逃げなかったの!」
「それは…あのまま逃げったて直ぐに追いつかれる、それだったらクッッ」
金華と話していると自分の事を吹き飛ばしたジャイアントベアが木々をなぎ倒しながら勢いよくこちらに迫って来ていた、咄嗟に起き上がって金華を抱き抱えてその場を飛び退くとジャイアントベアは先程までいた場所を木々をなぎ倒しながら勢いのまま滑り込んで来た。
「私だって避けるぐらい出来るから!あと無理しないで!」
金華は恥ずかしほほ染めながらそういった。
「金華が回復してくれたおかげで大丈夫だよ」
「そんなわけ「おっと」ひゃぁ!?」
こちらに向き直ったジャイアントベアはこちらが武器を持って居ない事を理解しているのか顔を突き出し牙を突き立てようと迫ってくる!どうすることも出来ず後ろへ後ろへ下がって回避して行くといつの間にか最初に攻防をした場所に戻って来ていた。幸運にもまだ残って居た木の剣を足で跳ねあげて拾い上げると武器を手にしたことを理解したのジャイアントベアが止まった、その隙を見逃さずに金華を地面に下ろす。
「あ…あ!帰ったお説教だからね!本当の本当に私怒ってるんだからね!」
「はは、それは勘弁してもらいたい……ちなみに黒蓮は?」
「あんな薄情なし知らない!あと武器は追いつかれそうだったから捨てて来た!」
そう言って金華は胸を張る!
「そ、そう。それじゃバフをかけてくれ無い?」
「いや、何戦おうとしてるのドーン!なんかもうあいつ疲れてそうだし今なら走って逃げ切れるよ!」
「確かに…いやでも、俺も同じぐらい疲れてるから多分無理、熊は執念深いって聞くし。金華のおかげでまだ戦えそうだし俺が戦ってるうちに「だからダメって言ってるでしょ!」う」
「私、ドーンの事見捨てたりしないから!」
「いやいや、今朝あったばかりの不審者なんて捨ておいて逃げろよ」
「だめ!」
「……どうして金華はそこまで俺を助けようとしてくれるだ?やる義理も理由もないだろ」
「そんなの………仲間だからに決まってるでしょ!時間なんて関係ないもん!」
「お、おおぉ!」
不意の一言、いや、予想は出来たかもしれないがまさか言われると思っていなかった、小っ恥ずかしい一言を胸を張って言い切る輝かしい金華かの笑顔に…なんかこう【感動】というのだろうか?心にじんと来るものがある。
ーーーGGRRRRRR!!!
ジャイアントベアは咆哮と共に両手を勢い良く何度も地面に振り下ろした、その攻撃を後ろに下がって回避し隙を伺っていると金華が矢を放ちジャイアントベアに顔に命中させる、もちろんそれが刺さる事は無かった注意を引くのには十分だったらしくジャイアントベアは地面に叩き付けた手を持ち上げずにそのまま地を蹴って跳ねるように金華に迫った。矢を放った直後であるために動きの鈍い金華を再び抱き上げてジャイアントベアからおおきく距離をとる。
「金華、俺が前衛をやるからもう少し下がって」
「わ、わかった」
とは言ったもののどうした物か…攻撃を防ぐのは無理だし、やっぱり回避し続けるしかないのか?
方向転換してまた突っ込んで来たジャイアントベアギリギリで回避しすれ違いざまに木剣を叩き込む。
ーーーバキッ!
が、当然その相対速度による不可に木剣が耐えられる筈もなくへし折れしまい、その上ジャイアントベアにダメージを与えられた感じもしない。結果に最後の武器を失う事になったがタゲが金華から俺に写ったようだ。あとは金華が良い感じジャイアントベアにダメージを与えてくれれば……素早く動き回る角兎を正確に射抜いて居た金華ならきっとやってくれる。
激しいジャイアントベアの攻撃をなるべく金華のいる方に下がらないように、それでいて常にジャイアントベアと金華が直線上に並ばないように注意して立ち回る。ゲームじゃタンクなんて殆どした事ないけどよ俺はそれらの様子をよく見ていた、敵の動きは直情的かつ単調なもで理知的な動きは見られない…となると御するのが難しい相手というわけでも無いはずだ。
隙を見つけてはタゲを金華に取られない為に素手で殴っているがやはり効いている気がしない。金華な持っている矢の数もそう多くはないし早く状況を打開したいところだが砂を顔に投げ付けても全く怯まないし片目を潰された事で警戒心が高まったのかなかなか顔を下に下げないし、下げてもほとんど隙が無いためなかなかに厳しい。
いやほんとどうしたものか
もはやにっちもさっちも行かない状況になってしまっており、無理やりにでも金華を逃がす方向に思考を回し始めたその時。
「はぁぁぁああ!!」
ジャイアントベアの背後から叫び声と木製の何かが折れる音が響く。
「お姉ちゃん!」
背後からの攻撃に気取られこちらを無視して振り返ろうとしたジャイアントベアの隙を逃さずにその巨体を素早くよじ登り、まだ潰れていないもう片方の目に半ばから折れた木剣を突き刺す。
ーーーGuuuoOO!?!?
突き刺したと同時ににジャイアンベアは絶叫し、まとわりつく羽虫を払うかのように腕を奮った。今回は前回の反省を生かして直ぐに離れていたのでその攻撃を食らうことも無く地面に着地した。
「黒蓮も助けに来てくれたのか?」
「別に!あんたを助けに来た訳じゃないわ!」
「あぁ…ごめんなさい」
「まったくよ!」
「…とにかくこれで視界は潰したし嗅覚は両目から流れる血の匂いできっと誤魔化せるからと逃げ」
ーーードシーーン!!
「え」