【86】一般におけるスキル
エドワードさんに紹介、奢って貰った宿は…なんというか、俗に言う高級宿だった。居着いているタイプの傭兵ならともかく、普通の傭兵とは掛け離れた規格外の力を持つ傭兵に助けられた礼をするためとはいえ、流れの傭兵にこんな事を商人がするのは流石におかしい気がする。しかも事実上お礼は必要無いと言っている相手に対してである。もちろんこの力を前提として護衛として雇うよりは圧倒的に安上がりではあるはずだが……
…要は面倒事の気配である。今日はエドワードが所属しているルド商会の商会長に合う予定だが…まず間違いなく何かしら頼み事をして来るだろう……そして黒蓮の性格的にここまで良くしてくれた相手の依頼を断るような事はしないだろう。
「エドワードさんは昼の少し前に迎えに来るって言ってたよな?」
「うん、言ってたと思うよ!」
「それじゃせっかく少し街を散策しないか?」
「良いわね、昼間では結構時間あるし、こんな大きな町だものきっと目を引くよな物が沢山あるに違いないわ。」
「確かに!そういうのを探すのも旅の醍醐味だよね!」
「そうだな」
黒蓮も金華も自分の提案に乗り気なようで、期待するような楽しそうな声が帰ってくる。
早速街にでる準備を整えて、街へ繰り出す。まだ朝早い時間にも拘らず人通りは多く…いや、フェルの町でも朝は人が多かった気がするし、こんなものなのかもしれない。実際、この手の話じゃ朝日と共に活動を開始して日が沈むと眠りに付くというのは定番だし、自分達もそんな感じで活動しているからそういうものなんだろう。
泊まっている宿屋は高級宿だけあって大通りに面した位置に建てられて居るが、今回の外出のお目当ての一つである朝市は宿屋の人曰く騒音問題の関係上でそれなりに遠くにあるらしく、それなりに人混みの中を移動して居るが………凄い装備を身に着けている関係か人が自分達を避けるように移動してくれるおかげで歩きやすい。装備を更新した時に注目を集めたり警戒されるだろうとは思っていたけど、想定よりかなりそう言った物が強い気がする。
そういえばこの世界の平均的な装備のランクって一体どの程度なんだろうか?るしさんからもらった報酬の宝物庫の中にあったのは秘宝級が大半で国宝級が少しという感じだった、亡国の宝物庫であり、滅亡に抗うために優秀な武具や道具を使ったり売ったりしたであろうことを考えると伝説級の武具ぐらいはこの世界でも入手可能だと思うんだけど………いや、宝物庫に秘宝級が入ってるんだから、秘宝級ですらなかなか手に入らない物なんだろう。
「そういえばこの世界、スキルも魔法も一般的じゃないんだったな」
「どうしたのドーン?」
金華が漏れた自分の独り言を聞いて、可愛らしく小首を傾げでどうかしたのかと聞いて来る。
「スキルや魔法についての基本的な事を思い出していただけだよ」
「ふーん?」
「スキルや魔法って一般的じゃ無いだろ?だから使える人と使えない人の差は圧倒的で……決して埋まる事は無い差が出来る。つまり秘匿する理由になる訳で……一般的な認知がどの程度なのかが少し気になったんだ」
「………当たり前の様にみんな使ってたからすっかり忘れてたけど、そういえばドーン教えられるまでは私達はその存在すら知らなかったのよね。とはいえ、これだけ大きな町ならそれなりに知っている人が居てもおかしくないんじゃないかしら?」
黒蓮はその大きな胸の下で腕を組んでしばらく考える素振りを素振りを見せた後にそう言い、キョロキョロと辺りを見渡した。そんな黒蓮の動きにつられて自分も改めて町の様子をみる。街並みは…良くも悪くもよくある中世の街並みであり、試しに【魔力探知】で軽く探ってみても魔力やスキルによる影響を全く感じられない。これはつまりゲームでは一般的であった、建造物等に対する耐久力向上等の魔術的補正や外敵から身を守るたの結界などがこの街には一切施されて居ないことを示している。勿論隠匿している可能性もあるが街に施される物は示威行為的な意味合いも強くその可能性は低いと思われる。
つまり、この大きな街の一番偉い人でさえ、そう言ったゲーム時代では一般的どころか必要最低限の設備すら知らない知識レベル、あるいは技術レベルなことがうかがえる。もちろん弱い魔物も使う【スラッシュ】や【ラッシュ】あるは【魔力感知】などの簡単な技術系のスキルならたまたま習得した物をたまたま使える人もいるかもしれないがそう多くは無いはずだ。それスキルを教えたばかりの黒蓮と金華の様子を思い返せばわかる、黒蓮は発動すらままならなく、あっさり使えるようになった金華でさえ元は全くスキルを使えなかったのだ、比較的習得と使用が容易な戦闘を生業とする物であったにも拘わらず。
もちろん、当時の二人のレベルから言って戦闘経験…というか回数が少なく、元々それなりに強かった事もあってそういった場面が訪れなかっただけかもしれないけど。とにかく、これらの事から分かるのはスキルのや魔法の存在を知らずに使えるようになるのは不可能にちかいんじゃないかってこと。ん?金華って最初から回復魔法が使えてなかったけ?…………まぁいいか、今となっては些細な差だし。
スキルや魔法の補正一切なしで作れるアイテムの上限がたしか普通級だから………ふむ。
「取り敢えず、スキルや魔法について教えるのは禁止てことにしないか?面倒ごとが増える予感しかしないし、どう考えても社会のバランスが崩れる」
「それは…そうね、私も賛成よ、けど後者はともかく前者の面倒ごとについては呼び出しを受けている時点で手遅れじゃないかしら?」
「確かに」
苦笑しながら黒蓮に同意する。そんな会話をしていると遂に朝市が行われている場所にたどり着いた。
朝市は人が多いことを考慮してもかなりの賑わいを見せており、客引きの声やただの雑談から値段の安い物を取り合う声ような声まで、人でごった返した雑踏の中から様々な声が聞こえてくる。
金華は目を輝かせてその様子を見ており、今すぐにでも雑踏の中に踏み込みたい気持ちを抑え込んでいるのがありありと伝わってくる。
「前の国で稼いだお金が使えるみたいだし、金華の好きに見て回ってみよう、黒蓮もいいよな?」
「もちろんよ、何か目的があって出てきた訳じゃないしね。」
「ホント!?ありがとうドーン!お姉ちゃん!」
金華は目を輝かせて両手を軽く握り、小さく跳ねるように喜びの声を上げた。金華は早速二人の手を取ると共に雑踏の中に踏み込んだ。




