【85】街へ
おっかなびっくりと言った様子で馬車から降りて来たエドワードさんが示す護衛の人から『加重』を取り除き、怪我を負っている者は回復させる。幸いな事に回復が間に合わなかった者はおらず、全員助かったようだ。
残りの連中はそのまま押し潰してしまう。ただ潰れ他のではなく『加重』で潰れたため血肉が飛び散るような事はなく、地面に染み込むように潰れている。この光景を見た護衛の人達は一様に顔色を悪くしている、まぁ何かの間違いがあれば自分達もこうなっていたのだからそれも仕方が無いか。
「改めて助けていただいてありがとうございます」
「ああ」
それに比べて商人の精神は何と図太い事か、あるいはそう見せ掛けているだけかもしれないが、どちらにしても凄いことだけど。
「それで…その、お礼について何ですが…」
「それなら別に気にしなくて良いわよ?正直私達が来なくても撃退自体は出来てたでしょうしね」
「いえ、流石にそう言う訳には…」
黒蓮の発言に、最初とはまた別の困った表情を浮かべる商人。
「それらなら近くの町までついて行っても構わないか?俺たち実は迷子なんだ」
「それぐらいお安い御用ですが…ここは一本道ですよ?」
商人は訝しげに言う。
「あっちに見える山脈から、真っ直ぐここまで来たせいで人里の場所が分からないんだ」
「あっちの山脈?……あぁ月隠れ利用してのですか、あの山脈の向こうには凄い発展した国があると聞いたあります」
商人が得心いった様子で頷いく。というか月隠れの利用ってなに?
「まぁそんな所だ。ちなみにあの山脈の向こうにある国は滅んでたから、あまり話は期待しないでくれ」
「そうなのですか!?それは……いえ最後に交流の記録があったは何世代も前事ですし…」
「お話中すみませんエドワードさん、出発の準備が整いました」
商人の護衛、その中の代表らしき人間の男が出発の準備を終えた事を告げにくる。一件なんて事の無いように振舞っているが、その視線は警戒するようにチラチラと時折こちらに視線を向けて来ており、その心中がされられる。
「それじゃ私達は…少し後ろからから貴方たちに付いて行かせてもらっていいかしら」
「あぁ…はい、もちろん構いません。お気遣いありがとうございます」
「別に良いのよ。ドーンも気をつけなさいよね」
「あれが一番確実で早いだろ?」
「それはそうだけど…ドーンもわかってると思うけどグロテスクですっごくショッキングな光景よ?次から潰すの禁止ね」
「…わかった」
★
あの後後、エドワードさん一行の馬車を見送り、最後尾の護衛の人よりだいぶ後ろから付いて行った。道中は分かれ道や分かりにくくなっている場所もあり、もし適当に道を進んでいたら人里に着くのはだいぶ遅れていた事だろう。
「そういえばさ、魔物が居ない理由私わかったかもしれない!」
「本当か金華?」
馬車の後を追って移動していると、急に金華がそんな事を言い出した。金華は【魔物鑑定】ぐらいしかそれ系のスキルも持っていなかったはずだけど何に気がついたんだろうか?
「うん!ほらさっきエドワードさんが月隠れを利用して…て言ってたよね?」
「確かにそんな事言ってたな」
「うん、夜になると空に三つの月が浮かぶでしょ?それ年に一度、一週間ぐらい光を失う時があって…その間は新しく魔物がでて来なくなるんだよ!」
「この世界じゃ、そんな事が起こるのか」
「そういえばそんなのもあったわね」
黒蓮が金華の発言にすっかり忘れてたと言う感じで同意する。
ずっと森の中を移動してたから夜空を見上げるタイミングなんてなかったし、月が消えてる事なんて気が付かなかったな。
そんな会話もありながら馬車の後を追って歩き続ける事数時間たった。日が落ち初め、空がオレンジ色に染まり始めたころ遠方に城壁らしき物が見え始めた。その作りや街並みは初めて訪れた町であるフェルとパッと見大差無いように見える、別の国のはずだから多少違いがあるかと思ったが別にそんな事も無いらしい。
そうして着いた街、すぐに中に入れるかと思ったが門の前には長蛇の列が出来ている上、列の進みもかなり遅いからこの調子だと中に入った時には日が暮れて居そうだ。
遠くから見た時は気が付かなかったけど、この街フェルよりもだいぶ大きい気がするしそのせいで混んでるのかな、なんて考えていると街の方からこっちに移動してきていた。その人物は列に並んでいる人達を確認しながら列の後ろの方へと進んでおり、誰かを探しているようにみえる。
人が多いし警邏の人かと思ったが、やって来たのは知ってる人だった。
「あ、やっと見つけました!」
「エドワードさんじゃない、どうしたのかしら」
そう、前からやって来ていたのは警邏の人では無くエドワードさんだった。
「いや、皆さんに助けられた事を商会長にお話したところ是非直接会ってお礼がしたいとの事で…是非付いて来ていただけないでしょうか?」
「お礼…」
そう言われた黒蓮はこっち意見を伺うように振り返る
「まぁ大丈夫じゃないか?」
「私も良いと思う!」
「そう?それじゃエドワードさんお願いしてもいいかしら?」
黒蓮が2人の答えを得てそう答えると、エドワードは嬉しそうに深く頷いた。
「では、こちらに付いて来てください」
「ん?街の中に入るんじゃないの?」
「ええ、街の中に入りますよ。実はうちのルド商会は今年の月隠れ最終日に行われる祭り…月影祭の設営に大きく関わっていましてね、ルド商会の関係者は優先的に街に入る事が出来るのです。」
「そうなのね」
列を外れてエドワードさんの後に付いて街に近付く。案内されたのは長い列が出来ていた大きな門の横にある通用口らしき場所だった。エドワードさんが扉をノックした後に何かを囁くと扉から鍵が空くガチャリと音が聞こえ、控えめに開かれた扉の奥には衛兵らしき人の姿がみえる。
「連れは見つかったのか?」
「ええ、おかげさまで」
「…っ!入れ」
衛兵はエドワードさんと会話し、こちらに視線を向けた時に何かとても驚いたような表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐにに気を取り直して入るように促して来る。まぁ金華も黒蓮も綺麗どころだし、今は装備も見てわかるぐらい凄いものを身に付けているしな。
言われるがままに中に入り、詰所らしき場所を抜けて街に出た、道中で他の衛兵に合うと自分達を見て皆一様に驚いた様子を見せたが、特に止められたり問題が起きることも無く街の中に入る事が出来た。街の造りは遠くから見た時に感じた印象通り、フェルの街とそう大差は無いように見えるが、祭りが近いこともあってかフェルの街とは比べ物にならないぐらい人が溢れていた。
「さて、それでは早速皆様を商会長の所にご案内……したい所なのですが、もうすぐ日が沈む時間ですので、明日で構わないでしょうか?もちろん宿は紹介しますし代金も支払わせて頂きます」
「それは…構わないのだけど、私達が少し貰いすぎじゃ無いかしら?」
「まさか!とんでもない。あそこで貴方たちが現れてくれなければ護衛をしてくれていた信用の置ける傭兵達の多くが再起不能になっていたでしょうし、もしかしたら積荷も駄目になっていたかもしれませんし、私も死んでいたかもしれません。それに比べればなんて事はありませんよ」
「…そう言われて見るとそうかもしれないわね、せっかくだからお言葉に甘えさせて貰うわ」




