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神秘のベールと旅の足跡  作者: 裏虞露
商人と月影祭
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【78】新たな目標と〈創世機〉

「……と、言う依頼…というかお願いをるしさんから受け…まして、報酬につられて受けて…しまいました。ごめんなさい!」


ドーンは若干言葉に詰まりながらも、風呂上がりでしっとりした黒蓮と金華に向けて深々と頭を下げた。顔を上げると、湯気を帯びた二人の姿が目に入る。黒蓮は長い髪をタオルで拭きながら眉をひそめてこちらを見つめ、金華はまだ湯上がりの頬を紅潮させたまま、不思議そうに瞬きをしていた。


突然の話に少し困惑した様子を見せた二人は、顔を見合わせた後、とりあえずドーンに頭を上げさせて詳しい話を聞くことにしたようだった。


テーブルを挟んで向かい合う三人。るしは白と共にそそくさと割り振られた部屋に戻っており、この場にいるのは彼らだけだった。


数秒の沈黙が流れ、視線が交錯する。ふんわりと石鹸の香りが漂い、湯気がわずかに残る空間で、緊張と熱気が入り混じる。


先に口を開いたのは黒蓮だった。


「それで…人探しの依頼を受けたって話であっているわよね?」


低めの落ち着いた声で問いかける黒蓮に、ドーンは頷き、補足で説明を加えた。


「そうです。具体的には、依頼されたのはクランメンバーの捜索と報告で、ここまで連れて帰ってくる必要は無いそうです。あと、期限は特に無く、報酬は前払いとは別に用意してあるそうです」


ドーンが改めて説明すると、黒蓮は胸の下で腕を組んで考え込む。湯上がりのせいか、少し蒸気を帯びた肌にタオルが貼りついており、組んだ腕で大きな胸が強調される。…眼福ではあるが、目のやり場に困るからバレないように視線を逸らした。


「ん〜やっぱり何か問題があるようには思えないわね?」


「そうだね? ねぇドーン、どうしてそんな申し訳なさそうにしてるの?」


金華が首を傾げながら尋ねる。その声にはまったく疑いの色がなく、ただ純粋に疑問に思っているようだった。


「えっと、それは…無断で勝手に依頼を受けただろ?」


ドーンは少し気まずそうに答える。


「別にそれぐらい問題ないわよ? 依頼の内容もべつに変なところはなさそうだし…ドーンのことは信用しているもの」


黒蓮があっさりと言うと、それにすぐ金華も同調する。


「私もそう思う!」


「いやいやいや! ダメだろ! リーダーですらないのに、報酬につられて仲間に何の相談もなく勝手に依頼を受けるのは!」


ドーンはガバッと椅子から立ち上がり、二人に向かって声を張る。


「しかもこれ、結構危険な依頼なんですよ! ?捜索対象はユグドラシルのメンバー…つまり、るしさんと同格の相手。めちゃくちゃな話もよく聞くようなヤバい人たちを探し出すのは……すごく危険です!」


「そうなの?」


金華が小首を傾げながら無邪気に問いかける。ドーンはその姿に一瞬戸惑いながらも、興奮した様子で続けた。


「そりゃ当然! 国を乗っ取ったり、大陸を滅ぼした…なんて話があるようなヤバい連中ですよ!」


「え〜! それはいくらなんでも大袈裟すぎだよドーン! それに、るしはそんなことをするような人には見えないし? 白ちゃんを助けるために頑張ってたみたいだし!」


「それは…そうなんですけど」


金華の言葉にドーンはぐっと詰まる。確かに、るし本人はそんな悪人には見えない。が、同じクランに所属していた連中がどうかは分からない、少なくともゲームでそう言った事態を引き起こした連中がユグドラシルに所属している事は間違いないわけだし警戒すべきなはずだ。


「……まぁいいわ、ドーン。それで? そんな問題になりそうなことをしてまで欲しかった前払いの報酬って何なのよ?」


黒蓮が鋭い視線を向ける。


「あ、あぁ、それは…それはあの魔王の依代になっていた代物…ズバリ〈創世機〉」


「〈創世機〉ね、確か……一番上のランクのアイテムなんだっけ?」


黒蓮が記憶を辿るように呟く。


「そう! 世界にたった二つしかない最上級のアイテムたる〈創世機〉を、なんと前払いでくれるっていうから……つい」


ドーンが肩をすくめると、黒蓮は再び腕を組み、金華は目を丸くした。


「……なんか、そう聞くとすごく危険な依頼な気がしてきたわ」


金華も頷きながら、少し困ったように笑う。

そんなふたりをみて今更ながら自分がとんでもない依頼を引き受けてしまったことを再認識していた。


「それって今ここで出せる?」


「ああ」


黒蓮の要請に答えて、ドーンは『次元収納(インベントリ)』を発動させる。空間がわずかに歪み、静かな光がテーブルの上に降り注ぐ。そして現れたのは〈創世機〉——〈()()()()()()()()()〉。


ドーンがそれをテーブルの上に置くと、黒蓮と金華の視線が一瞬で吸い寄せられた。


「……!」


金華は驚きに目を見開き、黒蓮は眉をひそめながら、それが放つ得体の知れない雰囲気を感じ取っているようだった。まるで空間そのものがわずかに重くなったような錯覚を覚える。


「コレが、そうなの?」


金華がぽつりと呟きながら、何気なく手を伸ばす。その指が触れた瞬間、僅かに身震いした。


古龍という名前こそついているが、その見た目は完全にただの石ころにしか見えない。敷いて言うなら、完全な純白であることくらいしか特徴がない。もしこれが〈創世機〉特有の雰囲気を放っていなかったとしたら、誰もこれがそんな特別なものだとは気づけないだろう。


「そうだ。だが、るしさん曰く、これは少し特殊なタイプで、何かに融合させることでその真価を発揮する代物らしい」


「ふーん」


金華は石を手の中で転がしながら、興味深そうに様々な角度から眺める。光を当てても特に輝くわけでもなく、本当にただの石のように見える。しかし、手のひらに伝わる感触はどこか奇妙だった。ただの鉱石とは明らかに違う、何か生き物のような脈動を感じさせるような気がした。


それでも、特にこれといった物は感じられなかったのか、金華はあっさりとそれをテーブルに戻す。


「これはフリョンに使おうと思ってるんだがいいか?」


ドーンがそう切り出すと、金華がすぐに反応した。


「フリョンって白いスライムちゃんだよね?」


「そうだ。るしさん曰く、不定形の体を持っている存在の方が適正が高いらしい」


黒蓮がじっと〈創世機〉を見つめたまま、静かに息を吐く。そして、疑うような目を向けながら口を開いた。


「それ、フリョンがあの魔王みたいになったりはしないわよね?」


黒蓮のその言葉に、ドーンは一瞬言葉を詰まらせた。


確かに、魔王の依代になっていたものと同じ〈創世機〉を使うのだから、その可能性がゼロとは言い切れない。しかし——。


「多分、そんなことにはならない」


自分に言い聞かせるように言葉を選びながら、ドーンは続ける。


「仮にあんな感じになったとしても、俺の支配下であることに変わりはないはずだ……それに、魔王のように呪いを振りまくようなことはしないと思う」


「……思う、ね」


黒蓮が鋭い視線を向けながら、小さくため息をついた。彼女の猜疑心は簡単に拭えない。特に未知のものに対する警戒は並々ならぬものがある。


「本当に大丈夫なのかしら……」


黒蓮が疑念を口にするのを見て、金華はくすりと笑った。


「心配しすぎだよ、お姉ちゃん。もしフリョンが変になったら、また止めればいいじゃん!」


「簡単に言うわね……」


黒蓮は渋い顔をするが、金華の楽観的な態度に少しだけ肩の力を抜いたようにも見える。


ドーンは二人のやり取りを聞きながら、手元の〈創世機〉を見つめる。


(本当に大丈夫…だよな……?)


自分に問いかけながら、じわりと湧き上がる不安を、なんとか振り払い二人を連れて[儀式祭壇]に向かった。

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