【65】呪われた地
「昨日は本当にごめんなさい」
「それは別に良いって昨日いったでしょ?」
朝、朝食の前にあった黒蓮に深く頭を下げて改めて謝罪をすると、帰ってきた言葉は何処か呆れの言葉だった。
「いや、けど」
「良いって言ってるでしょ?くどいわよドーン。どうせ貴方の事だから帰った後も一人で延々と反省してたんでしょ?」
「それは…まぁ」
「やっぱりね、そもそもあれは私が言い出して始めた事だったし別に怒っても居ないわ、あの時は…ただちょっとびっくりしちゃっただけよ。実際特に何か問題が起こった訳では無いのだし」
「それはそうかもしれないけど、あれは後先考えない軽率な行動だったし、それに」
「はぁ…別に良いって言ってるでしょドーン。グチグチ言って無いで早く朝ごはんを食べに行きましょ」
「そうだな……わるい」
本当に気にしていない様子で先に進む黒蓮を見てなお不安に駆られながらも、これ以上謝っても仕方がないと思い続き食堂に向かった。
★
そして三人で朝食を食べ終えた後。早速一日経って湧き直したはずの魔物を狩り、レベルを上げに行くための準備を三人各々で整えていたその時、唐突に迷宮核が鎮座するブリッジに人影が出現した。
最初は侵入者かと思い、攻撃を放とうとしたが直ぐにその必要が無いことに気が付く。その特徴的な人影は見覚えのある者の物で、急に現れた人物は昨日山の向こうへ行くための道を見つけるために1人飛び立って行ったるしさんだった。
「やあ」
こちら気も知らずに気の抜ける声と共に片腕を上げて挨拶をしてくるるしさん。
「……おはようございまするしさん、間違えて攻撃してしまうかもしれないので次からは急に現れない出くださいね?」
「わるいわるい、驚かせちゃったか、次からは気をつけるよ」
「そうしてください。それで…ここに居るということは道がわかったんですよね?」
あちゃーという感じで謝るるしさんに、とりあえず納得した素振りで返し、本題であろう話を促す。
「もちろんちゃんと調べてきた、今度はバッチリだぜ。準備が出来たら教えてくれ、案内するからよ」
「わかりました。ちなみにるしさんは休まなくて大丈夫なんですか?」
「ふ、ふ、ふ、俺ほどにもなればこれぐらい余裕よ」
そう言ってグイッと胸を張るるしさん…この体ならばれることは無いだろうけど目のやり場に困る。
「…とりあえず、お水をどうぞ。それじゃ二人に確認してきます」
「おぉ、これはどうも。後前にも言ったが敬語じゃなくていいぜ?」
「ああ、すいません、驚いてつい」
そんな所で黒蓮と金華の二人にるしさんが戻って来た事を伝えに行くと、2人は既に準備を終えており呪い対策要装備などを含めて最終確認を行った後、直ぐに出発する事になった。
空中要塞を着陸させ、るしの案内の元山脈へと近付いて行く、道中は予想に反して魔物に襲われることも無く進むことが出来…切り立った崖の下にたどり着いた。
「此処だ」
「…道がある様には見えないのだけど?」
「そりゃ一方通行だからな。ま、安心していいぜ、ちゃんと対策はしてあるからな」
るしさんがそう言ったのと同時に少し先の空間が捻れて歪み初め、数秒も立たずに歪みは赤い泥のような物が散見される薄暗いとても不気味な洞窟の光景を映し出した。
「あんまり長く維持出来ないから早く移動しろよ」
るしさんはそんなこっちの気を知ってか知らずか、軽い感じでそう言うのと急かすように手招きをしながら足早に移動して歪みを潜り抜け洞窟の中へと入って行った。
自分もその後に続いてゲートをくぐって洞窟の中へと入り、金華と黒蓮の二人もおっかなびっくり入ってくる。
「なんだか…生臭いわっひゃ!?」
中に入った黒蓮が口元を抑えながら匂いに文句を言ったのと同時にゲートが閉じられ、暗闇が辺りを覆い隠し悲鳴にも似た驚きの声に変わる。
「『ライト』」
るしさんのその言葉同時に周囲に無数の光球が現れて洞窟を隅々まで照らした。
「黒蓮、もしかして暗闇は苦手か?」
「そんなわけ無いでしょ!バカにしないでちょうだい、急に暗くなったから驚いただけよ」
そんな緊張感にかけるやり取りを交わしながら、何処か呆れた様子で先導するるしさんに続いて洞窟の奥向かって…いや、本来は一方通行だと言っていたから今は入口に向かっているのか?
兎に角先に進んで行く。洞窟の不気味な雰囲気に反して敵と接敵することは無く、程なくして洞窟の出口にたどり着いた。
かなり狭い入口を抜けて洞窟の外に出るとそこは光り輝く白い蓮の花が浮かぶ湖の辺であり、澄んだ湖面は夜空に輝く星々と赤い月光、そして輝く蓮の花を反射して酷く幻想的な情景を演出していた。
「ん?」
いや、おかしい。ちょっと前に朝食を食べたばかりだと言うのになんで夜空が浮かんでいる?月も壊れて無いし
「なんで夜なんだって顔だな、説明してやろう。」
そんなこっちの様子を見てるしさんが、訳知り顔…あるいは得意げなら様子でこの原因を教えてくれた。
言わくこの場所…というか領域その物が重度の呪いによって汚染されており半ば異界化しているらしい、耐性がなければ数秒も持たずに本質ごと変質してしまう程に強力な領域で、一部物理法則も狂ってしまっており時間はその最もたる物だと。
「ま、そんなことより俺の仲間を紹介しないとな、あそこのチャペルで待っている筈だ。顔合わせが終わったらそのまま報酬の宝物庫まで案内する。ちなみに道中出て来るだろう敵の見た目はちょっとアレだから覚悟しておいた方がいいぜ」
るしさんはそう言って今いる場所から湖を挟んで反対側にあるチャペルを指差した後翼をはためかせ飛翔する。全員に『反重力』をかけてその後を追い、チャペルの近くに着くのと同時に件の人物と思わしき人がゆっくりとチャペルの中からから出て来た。
「おかえりなさいませ、天使様とその仲間様達」
「おお白、今回は早かっただろ?こいつら手前から順にドーン、黒蓮、金華だ」
白、そうるしさんが呼ぶ人物のぱっと見の印象を一言で表す(薄汚れたアルビノの少女)というほか無いだろう。背後にある湖面に浮かぶ白い蓮の花を想起させる程に白く透明感を感じさせるみずみずしく美しい肌と同じく白くウェーブのかかった艶めかしい長い髪を持つ少女のその姿は何処か現実離れした印象を抱かせられ、場所も相まって何処か神秘的な物を感じずには居られない、もちろん真っ黒に染まった手足や髪先がなければの話だが………
「この子が件の?」
「ああそうだ、見ればわかるだろうが……彼女には時間がなくてなぁ、破格の報酬も」
そう言って悲しそうな表情を浮かべるるしさんを見て、驚きつつも改めて少女を見てみると、周囲に蔓延する呪いの気配に同化していて一目見ただけでは気が付かなかったが少女の黒く染まった部位は濃密な呪いの気配を滲ませており、先程るしさんが説明したこの地に広がる呪いの効果の通りだとしたら少女の身には既に致命的なレベルの呪いが蓄積されている事は疑いようも無かった。
「……これ、これ本当に間に合うのか?既に手遅れに見えるんですけど…」
少女に聞こえ内容に小声でるしさん聞く。
「彼女の職業と種族は対呪い特化だから、まだ致命なレベルじゃない…まだな」
るしさんに小声でそう変えされる。
呪い特化の職業と種族となると同じ呪い系か聖系…あの体の状況でまだ大丈夫となると魂系?あるはその複合か?種族は……それらしい特徴はパッとみ見当たらないが雰囲気的には神聖系か刻印系かな?
そんな事を考えているとるしさんが注目を集めるように勢いよく両手をパンッ!と叩いた。
「さ、顔合わせも済んだ事だし、早く宝物庫まで行って…是非のほど確認しようじゃないか」




