【44】故郷
AIイラストがありますので苦手な方はご注意ください。
泣く子も眠る丑三つ時、〈運命の羅針盤〉を頼りに金華を追って魔物が蔓延る森の中を駆け抜けていた。金華が先行しているおかげか想定しているよりも魔物との遭遇頻度はそう高くなく、遭遇した時も保険のおかけで速やかに移動出来ているが……未だに金華には追い付けていない。
如何に金華が身体能力が比較的高い獣人と言えど、能力値的にはこっちの方が上のはずなのにこうも追い付け無いとは思ってもみなかった。
場所は既に森の中層後半に差し掛かって来ており、ジャイアントベアーやオークが群れで襲いかかってくる領域に達している。フォレストスネイクの大群との戦闘や属性飛龍との戦闘を経て金華もだいぶレベルが上がっているはずだから10レベル台の相手に負ける事はまず無い…とは思うけど金華は後衛だし決して手放しに安心出来るレベルでは無いはず…やはり急がなくては。
時間経過で解けた『加速』を再度自身にかけ直して先を急ぐ。
「これは…」
そうして奥へ奥へと進んで行くと夜風に僅かな血の匂いが混じり始め、人工物の残骸らしき物が散見出来るようになり始めた。恐らく件の村が近付いて来たのだろう、どうやら当たったのは最悪の予想の方であったらしい。
流行る気持ちを抑えながらさらに奥へ進んで行くとだんだんと大樹の数と密度が減り始め地面に岩肌が多く見られるようになってきた、どうやら遂に深層すぐ近くまで来てしまったようだ。さすがに深層の魔物は金華一人では分が悪いし本当に急がなくては…
しかし、そんな心配とは裏腹に中層の森を出たすぐの所で…周囲と比べて僅かに盛り上がった岩肌のところで立ち尽くす金華を発見する事が出来た。遠くから見た限りではこれといって傷もなく無事そうだが……ここで立ち止まっていると言うことはここに二人の故郷の村があった…のか?
周囲を見渡してもあるのは硬い岩肌と中層に生える大樹だけであり、この場にはかつて村がここにあった事を示す物など何一つ見当たらない。ここに来る道中の方がが余程それらしかった、属性飛竜の属性が風だった事を考えるとかつてここにあった戦闘で全部吹き飛ばされて散らばった…あるいは村があった場所だから立ち止まっているのではないのかもしれない。
「金華」
「ドーン…どうしてここに」
何もせずにその場で佇み続ける金華に声をかけると、悲しみを滲ませた震える声で金華こちらに振り返る。
「心配で付いて来たんだ、後を付けてごめん」
「いいよ、私もだまって出てきちゃったし」
そこで暫く会話は途切れ、血の匂いが混じった生暖かい夜風が通り過ぎて行く。
「やっぱり…ドーンの言った通りだったね。村も…思い出の場所も跡形も無くなってた」
「……」
「村では狩りが主な仕事だったし力自慢も多かった…けどい属性飛竜に完膚なきまでに負けちゃったんだね」
「そう…だな」
「お姉ちゃんが村の事をどう思ってるのは….正直私には全く分からないけど、私の立場から見てもいやな奴も嫌いな奴も多かったし…お姉ちゃんの立場ならとっても多いのも分かる。だけど私は……死んで欲しいほど嫌ってた訳じゃなくて……」
「そうか…まぁ別にいいんじゃないか?」
「え?」
「……立場や人が変われば見るものはもちろん、その見え方や感じ方も変わるというものだ。姉妹だからと言って意見が同じじゃないのは普通の事だしそこまで気にする必要は無いだろう。金華は金華、黒蓮は黒蓮だ…何かしたい事があるならすれば良い、この場に黒蓮は居ないしな」
「そう…そっか」
金華は言葉を飲み込むように深く頷いて瞑目し、深く考える素振りを見せたあと
「金華はどうしたいんだ?」
「私は…生き残りがいるなら!助けてあげたい!」
「それなら黒蓮が目を覚ます前に、街に戻れるよう早く探しに行こう」
「うん!」
目に見えて落ち込んだ、悩んでいる様子だった金華は何処がスッキリした様子でいつものように元気よく返事をし、前に足を踏み出した。
ーーーヒュン!
次の瞬間、何処からともなく風切り音が響いた。
「あ、え?こ、ここれッ」
ーーーカランッ
金華が間抜けな声を上げる。当然だろう、突然矢が飛んで来て自分に刺さりそうになったのだから。もし【防御指示】を展開していなければ矢は間違い無く金華に突き刺さっていただろう。
「金華、開けた場所はまずい!一旦退避…金華?」
【魔力探知】には何も引っかかって居ないのに一体何処から…まさか高度な隠密スキル持ちが周囲に潜んでいるのか!?
そんな事を考えながら、障害物のほとんど無いこの場所から退避しようと金華に声をかけたが金華は落ちた矢を見つめたまま呆然としていて逃げる素振りすら全く見せていなかった。
「くっ『次元収納』」
『次元収納』を発動し保険の装備……一対の〈浮遊人形の青大剣〉を取り出し、再び飛んで来た闇夜に紛れるような光沢を持たない真っ黒な矢を防がせ、もう片方を矢が飛んで来た方向に走らせる。
「そんな…どうして」
「……ちょっと失礼」
「どうしっ!?わわっ??」
金華の事を抱き上げでその場から退避…はせずに矢が飛んで来た方へ駆け出す。すると程なくひて呻き声と濃い血の匂いが漂い初め、あの場所から影になっていた岩陰に獣人の男が、射手攻撃するべく送り出した〈浮遊人形の青大剣〉腹を刺し貫かれた状態で地面にぬい止めらていた。
「う、ぐぐ」
「あぁ…」
金華が男を見て心底絶望したような声を小さく漏らした。
「こっちを撃ったのはこいつのようだな…殺していいか?」
「ま、待ってくれ。暗くて魔物と見間違えちまっただけなんだっ。き、金華…お「【狐火】」ガア゛ア゛アァァァ!?!?」
男が命乞いの相手を自分から金華に切り替えた瞬間、金華から青白い炎が放たれて男の体が冷たい炎に包まれゆっくりと凍てついて行く。
「知り合いだったんだろ?良かったのか?」
「良いの…巻き込んでごめんねドーン……結局、お姉ちゃんの言ってた通りだった」
「………」
「帰ろっか」
「そう…だな」
【狐火】に焼かれ、凍てつかされて痛みから暴れ回る、金華と何らかの因縁があったのだろう名も知らぬ獣人の男に背を向けて、二人は黒蓮が起きる前に戻るために足早にその場を後にし……この場には燃え転がる男とその絶叫、そして微かな怨嗟の声だけが残った。




