【18】洞穴の魔物
「止まって、魔物よ」
黒蓮が魔物を見つけたらしく止まるよう促してくるが…位置が悪いのかそれらしき姿は見当たらない。
「何処にいるんだ?」
「あそこの壁よ、間違いなくこっちに気がついているわね」
そう言って黒蓮が指を指した方向を見てみるが矢張り見当たらない…保護色だったりするのか?まぁそこに居るんだと知っておけば大丈夫だろう。
「金華やれる?」
「もちろん!」
そう言って弓を引き絞る金華を横目に、このやり取りに漠然とした違和感を感じて何となく振り帰った。
「うわっ!」
するとこそこには何と暗闇になっていて分かりにくいが濃い緑色の肌に小さな角を持つ矮躯の小鬼…つまりゴブリンが真後ろに居た!驚きのあまり咄嗟に盾で突き飛ばしてしまったが、このゴブリンは棍棒をフリ上げおえて本当に殴りかかる直前だったようなのでもし驚いて固まっていたら間違いなく痛打を貰うことになっていただろう。
「ちょっと急に大きな声出さなッグゥゥッ!」
黒蓮が驚いた様子で振り向こうとした直後、黒蓮が指さしていた暗闇から勢い良く矢が飛び出して黒蓮の足に突き刺さった!
「お姉ちゃん!」
金華は急に黒蓮が叫び声を上げた事に動揺して弓矢を打つのをやめて黒蓮の方に…まずい!!金華の注意が完全に敵から逸れてる、さっき狙って来てる金華では無く振り返った黒蓮を狙ったら事を考えると間違いなくくる!
そう考えて咄嗟に持っていた槍を矢が飛んできた辺り投擲し、その直後に飛んできた矢を盾で弾く。まーじで不味い!前と後ろで挟まれてる上に連携の精度も目も良いときた、どう考えてゴブリンの術中というか罠にハマってる。どうする?先程までまるで気が付かなかったが洞穴の入口方から複数の荒い息遣いと矢を引き絞る音が聞こえてる。
「金華!【狐火】を入口の方に撃ってくれ!」
【狐火】は氷属性の範囲炎攻撃だから地形破壊効果の低いしこの閉所で放てば十分に状況を打開出来るはずだ。
「う゛、ぐぅぅ」
「ま、まだお姉ちゃんが!」
「早くしろ!もう傷口は塞がってるし耐毒の効果のある腕輪をつけてるから死にはしないはずだ、このままじゃ全員死ぬ!」
そう急かすと金華は苦しみ、呻き声を上げる黒蓮と自分を見て僅かに逡巡する様子を見せたあと、黒蓮に回復魔法を使うのをやめて入口の方に【狐火】を放った。狐火はそれなりに火力の高いスキルだ、こんな場所に出てくる様な弱いゴブリンが耐えられるダメージじゃ無いはず!
「一回撤退するぞ!」
「お、お姉ちゃん、は?」
金華は狼狽した様子で矢が太腿に刺さった痛みのせいでか大量の汗を浮かべる黒蓮の事を不安そうに指さす。
「……見捨てるわけないだろ、俺が抱えて行く。金華はまた不意を打たれ無いように光源を撒くのといつでも【狐火】が発動出来るように準備して専攻してくれ」
「わ、わかった」
感を頼り洞穴の奥の方で敵が居そうな場所に辺りをつけて盾を投擲し、間髪入れずに黒蓮を肩に引っ掛け担ぐっ!
「ぐぅっ!!」
担いだ時の衝撃が傷に響いたのか呻き声を上げて暴れた黒蓮を気合いで無視して、灯りをともしながら先行して入口に進む金華を追う。
「『下位減速』『下位加速』」
当然魔法の発動も忘れない。減速の方は対象を全く視認できて居ないせいで効果はいまいちだろうがそれでもやらないよりはましなはずだ。
金華が専攻して光源を撒き、敵を撃破してくれているおかげ不安定な足場でも障害物の多い洞穴の中でもどうにか黒蓮を担いだまま転ばず駆け抜ける事が……
「ぐぅぅッッ!」
洞穴の道を順調に遡って行き外の光が見え僅かな安堵感を覚えた直後、左手のこうに激痛が走った!反射的に痛みの方を見ると黒蓮に刺さっていた矢と同じ矢が手の甲から手の平にかけて貫通するように突き刺さっており、その先にはパッと見でも自然に出来た物では無いと分かる穴から次の矢を番えようとするゴブリンの姿があった。
「ドーン!!」
幸いな事にすぐに金華が気が付いて矢を放ちそのゴブリンを仕留めてくれたので第二矢が放たれる事はなく、無事に外に辿り着く事が出来た。
「ドーン!?その手、大丈夫?」
「ハァ、ハァ……!!これぐらい平気だ、そんな事より…….まだ追いかけて来てる!早くここを離れて黒蓮を治さないと」
「うん!」
「ちなみに…ふぅ、あと何回ぐらい【狐火】使えそうだ?」
「えっと二三回ぐらい?」
「そうか。落ち着いたか?」
「あ、えっとさっきよりは?」
……まだダメそうだな。
「一旦街に帰ろう、道中の魔物は任せられるか?」
「うん」
「頼んだぞ」
★
ゴブリンの住処となっていた洞穴から命からがら脱出に成功、幸運な事に洞穴のゴブリン達は直ぐに追跡を辞めて戻って言っため帰り道に出てきたのは一般的な表層の森に出現する魔物だけであり、その殆どは金華によって容易く返り討ち会い、群れで襲いかかって来た魔物は【重力】の餌食になった。
左手の甲に矢が刺さったままだったのと黒蓮を肩に担いでいたせいで嫌に周囲の注目を集めたが突き刺さった物を適当に抜く訳にも行かないし、黒蓮をこれ以外の方法で方法で運ぶ方法がなかったからしょうがない。
未だにうなされ、痛みに悶えるような様子をみせる黒蓮をベットに横たえさせたあと自分床にどかっと座りこむ。
「ふぅ…ここまで来れば一安心だな」
「そう…だね、あ、その手のヤツ抜くよ?」
金華控えめに自分左を貫通する矢を指さす。
「まだ回復魔法は使える?」
「うん」
「あーじゃお願い、矢が崩れないように気を付けて抜いて」
「うん」
……心ここに在らずって感じだな…まぁ死にかけたばっかりだし普通そんなもんだよな…自分がそこまで何とも無いのはやっぱりゲーム感覚が抜けていないのかな?まぁ今はそれが好都合だ、全員ダウンしたら最悪だからな。
こっちに近付いてきた金華は自分の左手と貫通して突き刺さっている矢を掴み一息に引き抜き『下位回復を発動する。
「ヴッ!」
わかってても結構痛な…しかし貫通したとはいえあの時良く不意打ち食らって滅茶苦茶痛かったのに殆ど怯ま無かったよな自分…ピンチ過ぎてアドレナリンが出まくってて痛く感じ無かったのか?そういえば矢が刺さった場所的にあと少しでも手の位置がずれてたら黒蓮と同じように矢が太腿に刺さってすぐには逃げられ無かったどころか駆け抜けてたから転んで大変な事になって可能性も高いし……いやまじで今回は……運が良かったな?
「その、ドーンごめんなさい」
そんな事を考えていると金華が申し訳無さそうにそう言って頭を下げた。
「今回のことは別に金華だけが悪いわけじゃないしそんなに謝らくても大丈夫だよ」
「そんな事無いよ!私が暗闇にいる敵を早く打ててればお姉ちゃんが射抜かれる事は無かったし!私が敵を見落としてなければドーンが射抜かれるような事も無かったんだよ!!どう考えたって二人か死にかけたのは私のせいだでっ!」
「そんな事はない、今回の結果は皆が油断してたから起きた事だ。調子に乗らずきちんと準備や情報収集をしてから向かっていればこんな事にはならなかっただろう。だから金華だけが今回の事を重く受け止める必要は無い…それに今は責任の所在よりも黒蓮の事を心配すべきだ」
そう言ってうなされる黒蓮を指さしてから、宿屋に置きっぱなしだった解析の効果を持った虫眼鏡を手に取って黒蓮にかざす
「傷は完全に直っている様に見えるのに、未だに痛がっている以上何か異常が…まじか」
黒蓮にかざした虫眼鏡の表示のひとつ、状態の欄には《毒状態》になっているのだろうという予想とは異なり《異物》と言う表示のみがあった。




