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神秘のベールと旅の足跡  作者: 裏虞露
商人と月影祭
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【104】ルドさんの戦略

「ドーンさんよくわかっていらっしゃいますね。もちろんそれも可能でしたが、後々のことを考えるのとこの方が手間が少なくて済むからですよ。

…ちょうどいい機会ですし、せっかくだから聞きます?私の戦略を…いえ、やぱり聞いてください、貴方の協力があった方が上手く運ぶだろう場面も多いですからね。」


「……正直自分如きがルドさんの戦略を理解出来るとは思えませんが、それでもよろしければぜひお聞かせください」


「もちろんです。とはいえここで話すはあれですし…そうですね、場所を移しましょうか」



ルドさんに連れられて金華達がいる待合室の隣の部屋に入った。当然部屋の作りは同じだが誰もおらず、にもかかわらず明かりが付いており、埃一つない机の上には湯気の立つ茶器が二つ整えられている。誰もいないのに、つい先ほどまで人が使っていたかのような温もりが漂っていた…いや、訪れた時点で自分だけを連れ出してここで話をするつもりだったのだろう。



「それなり長い話になるでしょうからぜひお座り下さい」


促され、椅子の背もたれに視線を落とす。よく磨かれた木目が柔らかい光を反射しており、腰を下ろせば深い緊張を包み込むように受け止めてくれるだろう。


……自分がいつもより一層緊張しているのを感じる。


「わかりました。」


ルドさんの対面の席に付く。彼は姿勢を正し、こちらをまっすぐに見据えていた。


「これからの戦略を伝える前に、今まで私がどうやって来たのかを説明した方がよく理解出来ると思いますので…その説明をしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


そう返すとルドさんは今までとは少し違った笑みを浮かべ喋りだした。その笑みには商人としての余裕と、過去を語る懐古の響きが混ざっている様に見える。


「現在我々ルド商会は食品から服等の日用品に家具、武具に果ては娯楽まで取り扱っているなんでも屋ですが…当然最初は何も持っていませんでしたからね、基本的には狩りをして手に入れた物を訪問販売よろしく売り付けるようなか細い商売をしていました。当然そんな事をしていれば傭兵ギルドとの中が悪くなってしまいましたが…傭兵ギルドを通すとだいぶ儲けが減りますし仕方がないですよね?」


彼の声には皮肉めいた響きがあった。あえて危険な橋を渡り、独自の道を選んできたという自負がその言葉の端々に漂っていた。


「そうして私は元手を手に入れ、レベルをあげて、スキルを習得して…おおよそ三日程で最低限の装備を整えて行商人になり、周辺の村村から商品となる野菜や穀物を根こそぎ買い上げました。当然最初は自分のようなポットでには簡単には売ってくれませんでしたが…通常の倍の値段を支払えば殆ど者は首を縦に振りました。」


語る調子は淡々としているのに、そこには冷徹な計算高さと行動力の速さがはっきりと刻まれている。


「買い上げた物は私の『次元収納(インベントリ)』に閉まっているので持ち運びはもちろん腐る心配もありません。そうしたらその後は簡単でした、買い上げた様々な商品を『次元収納(インベントリ)』を活かして本来なら届かないような場所で売り捌いて行きました。…皆さんなぜか羽振りが良くなってましたからね、口説き落とすのはそこまで難しくありませんでしたよ」


彼の語りは、まるで勝者が過去の戦場を振り返るように滑らかだった。


「その後は人を雇ったり規模と範囲を広げながら似たような事を繰り返してここまで来ました。当然私は【契約】があるので裏切らない人員を用意するのは容易かったですし」


「【契約】…私の記憶がたしかなら私達が依頼を受けた時【契約】スキルを使っていなかった気がするのですが」


「ええ、使って居ませんよ。貴方たちはるしさんに仕事を任されるぐらい信用されているようですから、そんな方々を【契約】で縛るのはばかられますし、るしさんのメンツを潰す行為ですからね」


「…そう言われると少しむず痒いですね」


思わず頬をかく。冗談めかしたやり取りの裏で、信頼が重くのしかかるのを感じる…るしさんに依頼された時も似たような感じがした気がする。


「今は今後を見据えて農家を中心に雇入れて言って居ます。これが完了すれば食糧の産出量、引いては税収もこっちで調整出来るようになりますから領主家もそれ以外も私に逆らえなくなります。」


「食糧の産出はともかくなんで農家を雇い入れると税収まで調整できるんですか?」


素朴な疑問が思い浮かび、ルドさんに質問するとルドさんは快く答えてくれた。


「いい質問ですねドーンさん。実の所これで調整出来るのは厳密に言うと税収では無く景気と治安です。生きて行く上で食糧は必ず必要ですよね?そこを自由に操れるという事は事実上その他に回されるお金を意図的に減らせるという事です。」


「それは…そうかもしれませんが、結局消費されるお金が変わらないのなら税収も変わらないんじゃないですか?」


「そんな事はありませんよ。確かに最初の方は変わらないでしょうが、所持金の大半を食糧に振り分けなければならないとなれば私の試算が正しければ半年も経たない内に多くの事業が業績不振となり立ち行かなります。つまり首になっり給料が下がる者が多発するわけで、そうなると当然景気が悪くなって更に買い渋りが…という言う具合で景気が悪くなって行きますので、それに合わせて税収も下がって行きます。それにお金の流通量自体も食糧を根元から抑えているので私の胸三寸で幾らでも減らせるですよ、この国で硬貨の発行券を持っているのは王家だけですからね。」


ルドさんの目が僅かに光を帯びる。経済の流れさえ握れば国そのものの命脈をも支配できる――その自身と自分が垣間見えたような気がする。


「それは…上手くいくなら凄い戦略ですね」


独占禁止法の重要性がよくわかる話だ。背筋に冷たいものが走る。


「商会の名声や知名度はこの段階でどうにでも出来ますから、その時に確実に盤面をひっくり返すために武力行使をしてくる可能性の高い貴族達を余裕のあるいまの内に纏め対処しておきたかったんですよね。実際にそう言った事をする段階になったら情報封鎖で私は手一杯になると思いますからね」


「因みに王家が対応してきたらどうするつもりなんですか?」


「その時は……そうですね、タイミングを合わせて溜め込んだお金を放出することでハイパーインフレを起こさせ既存経済を崩壊させたのち、銀行を設立して新しい通貨を発行をして新しい経済を作りますよ」


そうなんて事ないように語るルドさんに自分が畏敬の念を抱いているのを感じて、誤魔化すように用意されていたカップに手を伸ばして口に含んだ。


「お味はいかがですか?」


ルドさんは相変わらずにっこり微笑みながらそう聞いてきた。


「そうですね…こういう事に精通して居ないので確かな事は言えませんが、かなり美味しいと思います」


さすがに生成した物には劣るものの、ルドさんから提供されている高級宿で提供されている物の比較するれば数段美味しい……気がする。


「……それでは今までと戦略について、ざっとではありますが説明も終わった事ですし。つぎの話…ドーンさんに生成して欲しい物の話をしましょうか」


そう言ってルドさんは不敵な笑みを浮かべながら、自分の事を正面から見つめてくるのだった。

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