【98】アイテム配布
「ありがとう、二人とも。なんというかこう…いつもの感じに戻ったわ」
「良かったねお姉ちゃん!」
「……ああ、そうだな」
金華の連れられて黒蓮の部屋に踏み入ると、部屋は予想通りの悲惨な状態になっていたものの、幸運な事に黒蓮はベットで眠って……というか気絶していたため特に苦労する事とも……自分が黒蓮の痴態を見ること無くて薬を飲ませる事に成功した。
そしてしばらく経って目覚めた黒蓮はちゃんと魔法薬が効いてくれたらしく、このようにいつもの黒蓮に戻っていた。
「それで、この後はどうするんだ?明日に備えて休むか?」
「いいえ、もう何度かレベル上げをしましょう」
「………出来るのか?かなり限界ギリギリな勝利だったろ」
「当然よ。さっきの戦闘で分かったけれど全力で攻撃すれば金華と私、どちらの攻撃でも敵をほぼ一撃で倒せていたでしょう?」
「そうだな、ゴーレムが遠かった場合や盾で防がれた場合を除けば一撃で倒せていた」
「でしょう?それなら初めから全力で攻撃すれば大して苦戦することも無く倒せるはずよ」
黒蓮がとても自信ありげにそう言った。黒蓮の言っていることは間違っていないし、寧ろ正しいがしかしそれを実現する出来ない、なぜなら……
「お姉ちゃん......もうそんなことができる魔力が残ってないよ?」
「そこは……ほら、ドーンが何とかしてくれるでしょう?」
期待の籠った視線で此方を見てくる。もちろん消費魔力……MPの問題をどうにかすることは簡単にできる。魔力回復用の魔法薬が生成できるし、最初のころに使っていた周囲の敵から自動で魔力を吸収し続けるスキルが付与された装備を二人に渡せばかかるコストも抑えられる……まぁ普通にいい案だ、ちょっと拍子抜けするぐらいに。
「もちろん出来る。そう言う魔法薬がある……ちょうどいい機会だ、二人に幾つか薬を渡そう」
ちょうどいい機会なので二人に幾つかの消耗品を渡すことにした。本当ならもっと早く渡しておくべきだったんだろうけど、自分が消耗品は勿体なくて全然使えないタイプの人間だから完全に失念していた。
二人に渡す消耗品の内訳は生命力、魔力、体力を大きく回復させる〈上級回復ポーション〉六つ、探知系スキルの阻害効果をもつ〈煙玉〉二つ、全能力を一割上昇させる代わりに効果切れ後にレベルが5低下する〈魔剤〉一つ。即効性の高い〈鎮痛剤〉三つ、空気に反応して巨大な氷を生成する〈氷瀑ポーション〉一つ、そしてそれらを持ち歩くように『次元収納』の効果が付与されたポーチを渡す。ちなみにポーチの内容量はコンテナ1つ分ぐらいで、生物や収納系の能力が付与されたアイテム以外は中に入れられる、内部で混ざる事も時間が進むこともない。
「わかっているとは思うが、〈魔剤〉は基本的に使わないように」
「レベル上げ直すの大変だもものね…それで魔力の回復はこの〈上級回復ポーション〉を飲めばいいのかしら?」
そう言って黒蓮は淡く輝く紫色の液体が入った瓶を、興味深げに揺らす。
「いや、今回に関しては金華にお願いしょう」
しかし残念ながら黒蓮の予測はずれだ。
「え、わたし?」
金華は目を見開いて驚いた様子で声を上げた。
「そうだ。金華の持つ『天候改変』で天候を魔力嵐に変更すれば、その天候の影響下にいる全員の魔力回復効率が大きく跳ね上がる。今の二人ならだいたい1分ぐらいで全回復出来るはずだ」
「そうなんだ!ん〜でも…ん〜〜なんか、こう…今までと違って出来る感じがしないよ?」
そんなはずは……レベルは足りてるし魔力も発動出来るぐらいには回復している、となると足りないのは信仰心?こればっかりは異端審問官でもないと確認出来ないし、強制してどうこう出来る話じゃない。
「それじゃ仕方がないから今回はポーションで回復しよう」
「ごめんなさいドーン」
耳と尻尾をペタっと下げて申し訳なさそうな表情で俯く金華。
「今までとは毛色が少し違うから出来なくてもおかしくは無い」
そう伝えても落ち込んだままの金華。そんな金華の頭を優しく撫でながらしゃがんで金華と視線を合わせる。
「ドーン」
「金華はいつもよく頑張っているよ。さっきのゴーレムとの戦いも大活躍だったしな」
そう言って金華を褒めながら【道具生成】で〈天候全書〉を生成し、金華に手渡す。
「…これは?」
「〈天候全書〉あらゆる天候に着いて記載された辞典だ。流石に全く何も知らないものを形成するのは難しいだろうからな。……金華ばかり負担が増えて申し訳ないが」
「これぐらい私大丈夫だよドーン!私ドーンの役に立ちたいし!」
キラキラと輝くような笑顔で金華そう言ってくれた。
「そう言ってくれる助かるよ。けど無理はしないように」
「うん!」
「……それじゃレベル上げに戻りましょう」
★
「…お姉ちゃんもう飲めないよ〜」
金華が苦しそうに少し膨れたお腹を擦りながらそんなこと言う。近くには空になったポーション瓶が大量にそこら辺に転がっており、傍目に見ても激しい戦闘があったことがわかる有り様が広がっている。
「金華…頑張りなさい、ま、まだ行けるはずよ」
そう言って金華を励ます黒蓮も顔色が悪く、かなり具合悪いことが見て取れたがそれでも黒蓮はまだ戦おうとしていた。
数え間違えていなければ〈魔力回復ポーション〉を二人合わせて百本程飲んでいたはずだ…ただの水を同量飲むだけでも厳しいのに、合間合間に戦闘を挟みながらやっていたのだからその苦しさ、気持ち悪さは押して測れるものがあるだろう。
「もういい時間だ、明日に備えてゆっくり休んだ方がいい2人とも」
「や、やった〜」
金華は疲れた声で、散漫な動作で腕を振り上げて喜びを顕にする。ほっと安心したような笑顔を浮かべる金華の顔には汗に濡れた綺麗な金髪がペトッとくっ付いていて、何処か官能的だ。緊張の糸が途切れたのかパタリと倒れそうになった金華を支える。
「ドーン」
僅かに憤りを滲ませたそうな声で黒蓮が自分の名前を呼ぶ。
「黒蓮も、これで今日はお終いだ。」
黒蓮の具合は金華よりも…多分悪いはずだ。【乾坤一擲】の消費魔力量は短期的に見れば【魔力覚醒】よりも魔力消費量が大きい上に、二人の魔力総量の差を考えると黒蓮の方がより多くポーションを飲んでいるはずだ。
もちろん金華と黒蓮を比べた時、金華よりも黒蓮の方が大きいから飲める量も多いだろうけどそれでも限度がある。金華の場合は疲れた比重の方が大きそうに見えたが、黒蓮は…そう、今にも吐きそうな顔色の悪さだ。
「この通り金華はもう寝たし。2人ともちょうどレベル40でキリがいいし。今日の所はこれで辞めるべきだ」
「でも…分かったわ」
終わりにするように言うドーンに、黒蓮は反論しようととしたものの言葉が見当たらず、開いていた口を閉じて恭順の意思を示すことしか出来なかった。




