使い方
物事の良し悪しを決める二つの基準? 何だ、そりゃ?
「簡単に言えば、良いか悪いかを決める判断基準のことです。これも普段無意識に使っていることがほとんどなので知らなくても当然ですけどね」
また無意識か……無意識なこと多すぎだろ!
「一つは他者基準。他人が良いと思うかどう思うかで良し悪しを決める基準です。さっきAさんが言ってくれたみたいな”普通のこと“はまさしくこれですね」
確かにそうだな。
「そして、もう一つが自分基準。自分が良いと思うかどうかで良し悪しを決める基準です」
ん?……あ、そうか。
(僕たちは普段、他人から見てどうかで物事を考える時と自分がどう思うかで物事を考える時かあるな)
僕たちは普段、生活の中でそれこそ無意識に基準を切り替えて考えている。確かにな……
「例えば、仕事については他者基準のことが多いでしょう。そして、趣味や好きなもの、友人などは自分基準で考えることが多いでしょう。まあ、あくまで一般的にはですが」
確かにそうだろう。まあ、一時スクールカーストとかいう言葉も出たくらいだから友人といえど自分基準で考えられないこともあるかも知れないけど。
(逆に仕事を自分の気分や趣味で考える人もいるよな……迷惑だけど)
まあそれは脱線だな。とにかく黒羽の言う通り、僕たちは状況に合わせて二つの基準を使い分けて物事を考えている。
「ところで、この二つの基準の使い分けですが……上手くいく使い方と上手くいかない使い方があるんです」
上手くいく使い方と上手くいかない使い方……?
「例えば、趣味や友人を他者基準で考えたらどうなるでしょう?」
黒羽は他者基準で良し悪しを考えるというのは例えば他人から認められたり、褒められたりすることを目指すことだと付け加えた。
(人に認められる趣味、人に褒められる友人関係か……)
すっごく違和感がある言葉だが、まあ考えてみるか。
(人から認めれる趣味……乗馬とかカッコイイよな)
他には剣道や空手、テニスなんかも。まあ、これは僕の個人的な憧れかもしれないが。
(……でも楽しくないな)
憧れで趣味を始めるのはアリだと思うし、そう言う人もいるだろう。だが、僕の場合、さっき挙げたものを自分でしたいとは思わない。”人からいい印象を持たれそう“とは思うが、それは僕がしたいこととは違うのだ。
「そうですね。そうだと思います」
思ったことを多少たどたどしく伝えると、黒羽はそう言った。
「勿論人からどう見えるか、よく見られたいという気持ちや考えは大切です。私は漫画を読むのが好きですが、“好きなモノは?”と聞かれて”斬法師“と答えたら周りは“はあ?”ってなりますよね」
斬法師……! あの2巻で打ち切りになった漫画か! 大好きだ!
「あなたはご存知みたいだし、あの伝説の漫画について話しても大丈夫かもしれませんが、普通はもうちょいメジャーな漫画を挙げたほうが良いですよね」
「確かに」
なるほど。だから、他者基準、自分基準のどちらも大切なのか。
(どちらがどれくらい大事なのかはものによって違いそうだけどな……)
例えば今挙がっていた趣味なんかは八割以上自分基準でも良いんじゃないかな。勿論上手くなりたいとか、誰かと共有したいとか思った時には他者基準も必要になると思うけど。
「そうです。そして、その割合が反対になるとしんどくなるし、上手く行かなさそうですよね。だから自分基準と他者基準のバランスが大事なんです」
僕が思ったことを言葉にすると、黒羽はそう言ってくれた。なるほどよく分──
「良くわからない」
突然今まで黙って聞いていたAが口を開いた。
「自分基準とか他者基準とか言われても良くわからない。だって、人の目を気にして物事を考えるのは当たり前だし、それ以外に基準なんてない!」
「人の目を気にするのが駄目ってことではないですよ。自分基準で全ての物事を考えたら大変なことになりますし」
「それは分かる。けど、自分基準って言っても結局それは人の目から考えた基準で考えることになるし、何が違うのか分からない」
……そうなのか?
(でも、確かにAが人からどう見えるのか、どう思われるかに過敏なのは確かだ)
口にはしないが、Aの話を聞いていると”そこまで人のことを気にしなくても“と感じることは多い。それはこのことと関係があるのか?