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ヨシヨシ法とロケット法②

「例えば、ロケット法でやるべきテスト勉強をヨシヨシ法でするとどうなるでしょうか」


 ヨシヨシ法は、他のことも気にしつつ休み休みやるんだったな。そうすると……


(怒られるな……)


 ヨシヨシ法でやる俺は親を初めとした周りの大人からほぼ確実に”もっと本気でやれ“とか“ギアを上げて行かないと”と言われるだろう。


(なるほど……これが適切な方の感情コントロール法を使うということが)


 つまり、テスト勉強をヨシヨシ法でやればちゃんとやっていても怒られる。それは、感情コントロール法は二種類あることを誰も普段意識していないから。意識してないから”違う! 今はヨシヨシ法じゃなくてロケット法を使うんだ“と言うことが出来ないからってことか。


「何となく分かって貰えるでしょうか。行動はおかしくなくても感情コントロール法の選び方が間違っているだけなのに周りからネガティブな評価を受ける可能性があるということが」


 勿論、感情コントロール法の選び方の問題ではなく、単純にやる気の問題だったりということもある。というか、その方が多いかも知れない。だが、ちゃんとやってるつもりでも怒られる時というのはこの辺りが関係している可能性はある。


(周りからは案外心の中までは見えてないんだな)


 何を当たり前のことをと言われるかも知れない。けど、意外と周りの人間が言ってくることって僕たちの全てを見た上での話だと思ってはいないだろうか。


「ヨシヨシ法でやるべきルーティンワークをロケット法でやっても同じことです。多分、”もっと気楽に“とか”もっと手を抜けば“などと言われるでしょう」


 あ、これってAのことかもな。


「しかし、そもそもロケット法を使っているときは良いか悪いか、もしくら白か黒かという基準しかないので、“気楽に”とか“程よく”というのは無理なんです。だから、ロケット法を常用している人にそう言うことを言っても通じないでしょう」


 ロケット法が上手くイメージ出来てるかどうかは分からないが、黒羽の話は何となく分かる気がする。


(そもそもの前提が違うってことかな)


 Aの話を聞いていて思うことなのだが……彼女の話は理解できない訳じゃない。けど、結論になると首を傾げざるを得なくなる。その度に思うのだ。何か前提が違う話をしているようだと。


「じゃあ、上手く出来ないのは私のせいじゃないってこと?」


「やり方のせいと言えるかも知れません。ヨシヨシ法でやらないと出来ないことをロケット法でやろうとしてるんですから」


「でも、ヨシヨシ法とか言うやつは私には出来ない」


 撥ねつけるようにそう言うA。うーん、こうなると頑固だからな……


「Aさんに出来るか出来ないかは、厳密には私には分かりません。けど、もしかしたらヨシヨシ法がやり辛くなっている可能性はありますね」


 ヨシヨシ法がやり辛くなるなっている……?


(ヨシヨシ法がやり辛くなってるからいつでもロケット法を使ってしまうってことか?)


 どっちを使うかなんて元々無意識の話なんだからそんなことが起こっていても自分には分からないよな。


「良くあるのが、嫌な感情がどんどん大きくなる場合です。どんどん大きくなりますから、嫌な感情をちょっとずつ小さくしていくヨシヨシ法では対応が難しくなります」


 なるほど。ヨシヨシ法はちょっとずつが基本だからな。


「後、嫌な感情がどんどん大きくなる時にセットになっていることが多いのですが……嫌な感情が大き過ぎる時もヨシヨシ法が使い辛くなります」


「……私、それかも」


 Aがポツリとそう言った。確かにAはしんどそうだ。客観的に見れば、好き勝手にしているように見えるかもしれない。が、実はそうではないことは僕は分かっている。


(けど、何故そこまで苦しんでいるんだろう)


 ほとんどの人は──このクリニックでも黒羽以外のスタッフもそうだが──それがAの病気なんだと言うだろう。だが、本当にそうなのだろうか。そうだとしたら、心の病気とは一体何なのか。


「じゃあ、次はその辺りについて話しましょうか。聞いて解決するかどうかは分かりませんが、もしかしたら役に立つかもしれませんし」


 そう言うと、黒羽は紙に何かを書き始めた。

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