宿題と答え合わせ
(自分基準と他者基準を取り戻すための方法か……)
あの話を聞いた後、僕には宿題が出された。それが『自分基準と他者基準を取り戻すための方法を考えること』だ。次回の面談までに考えるように言われた次の日、僕は本屋をブラブラとしていた。
『自分を許せばラクになる』
『自分を追いつめない生き方のススメ』
『気持ちをラクに』
本棚に並ぶメンタルヘルスにまつわる本がズラっと並んでいるのは良いことなのか、どうなのか。
(……違うなぁ)
探してるもののようで何処か違う。いや、違うようで実は一緒なのか?
(基本的には、考えすぎないってことか)
目についた本をペラペラとめくって内容を走り読みしたことをまとめるとそんなとこか。
(まあ、それが正しいのは分かってるんだけどなぁ)
本当に難しいな。自分の心なんだがら思う通りに……それこそスイッチ一つでどうにか出来たら良いのに。
(あ、でも“心を思う通りにコントロールしたり、効率的に動かしたり、安定させたり、確実に動かしたりするのは無理”って黒羽が言ってたな)
つまり、そんなことを考えるとドツボにハマると。
(非効率的で、不確実な方法は……)
そんなことを考えながら本を探していると……
(リラクゼーション法ってのも良さそうだけど……)
今ひとつピンとこないな。何と言うか、Aがこれをやっているイメージが持てないな。
「あの……」
その時、背後から誰かが俺に声をかけた。
※
そんなこんなで締め切りの……もといAの面談日がやってきた。
「さて、前回の続きなんですが自分らしさを大切にするためにも自分基準を探して見ようという話でしたね」
確かにそう纏めることも出来るな。
「どうでしょう、何かアイディアはありますか?」
あ、これは宿題の報告をしろと言うことか。
「その……リラクゼーションとかで自分の感覚とかに目を向けてみるとか……」
完全な受け売りだ。自分の感覚って何だよと自分でツッコミを入れたくなるくらいだ。
(やってみたけど、良くわからなかったんだよな……)
凄いものなのかもしれないが、『自分の感覚』って普段感じてるものとは違うのだろうか。うーん、分からない。
「良くそこまで調べられましたね。確かに自分基準を見つけるために良く言われる……いえ、むしろ王道とさえ言える方法です」
おおっ、そうなのか。
「効果は実証済みですし、やってみますか? 練習は必要ですが」
え、練習がいるのか、これ?
「練習とか大変そうだし、嫌」
ええ……そんなあっさりと却下するのかよ。
「練習と言っても何回かやるだけですけどね。この手のものは慣れが必要なので」
「私は今すぐ楽になりたい」
うーん。とはいってもな……
(でも、黒羽はAがこう言うことを分かってたんじゃないかな)
そうじゃなきゃ、既に提案してるんじゃないかと思う。
「まあ、向き不向きもありますからね。実は私もあまり得意ではありませんし」
「そうなんですか」
思わずそんな言葉が口から出てしまった。黒羽はメンタル系のことが詳しそうだったからてっきり出来るのかと思った。
「何でも得意不得意はありますよ。ですから心との付き合い方も人によって色々です。皆に当てはまる正解があれば良いんですけどね」
正解がないから手探りで見つけないといけない。そりゃ速攻で何とか出来るわけはないし、確実でもないよな。
「まあ、という訳で役に立つかどうか分かりませんが、今日は人と上手くやるための方法について話しましょうか」
なぬ!?
「私が思うにAさんのしんどさの大部分は”人に嫌われたくない“、“人に嫌われないためにはどうしたら良いか”という気持ちじゃないかと思うんですが」
「実際嫌われてるからしんどいって言うのもある」
うーん、そうか?
(まあ、でもAはそう思ってるって話なんだよな)
Aは自分が上手くやれていないと思ってる。そして、そんな自分は人からよく思われるはずかないと思っているのだ。