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分量

「こんな風に言うと水道水に携わっている方にご不快かも知れませんが、これは喩えです。別に水道水が悪いわけじゃなくて、他者基準で考え過ぎるとしんどくなることがあまり教えられてこないことが問題なんです」


 だよな。水道水にはいつもお世話になってるもの。


「ただ、誤解しないように言いたいのですが、他者基準で考えることが悪いわけじゃないんです。これは考え方ですからね。さっきは毒といいましたが、毒も分量を間違えなければ薬になります。要は使い方、付き合い方なのです」


 他者基準で考え過ぎることの危険性についても最近は少しは習うようにはなっているらしい。ストレスマネジメントに関する本は巷に溢れ出るし……


(ただ付き合い方って言われると難しいよな)


 俺が考えていたのはAにどう説明するかだ。付き合い方だと言ったら“どう言うこと?”と問い返されるのが目に見えてるからな。


「で、その付き合い方なのですが……人によって色々ですし、あれがいいとかこれが悪いとかは言えません」


 そうなのか。でも、そうかもな。人によって事情は色々だろうし。


「ただ、コツというか何と言うか……これはちょっと危ないんじゃないかなと言われているポイントのようなものはあります。実はそれがAさんにも関わりがあるものだと感じています」


 ……何だろうか。


「それは、自分自身がオッケーであるかどうかを他者基準で考えると際限なくしんどくなる、ということです」


 自分自身がオッケーかどうか……?


(やってることとか考えてることがオッケーかどうかを確かめるために誰かの承認が欲しくなることはあるけど)


 そう言うこととは違うみたいだな。良くわからないが、そんな気がする。


「ピンとくる人とそうでない人がいると思います。自身がオッケーかどうかというのは、生きてて良い存在かどうかとかという話です」


 生きてて良いかって……


(……考えたことないな)


 ちょっと途方もない話だ。それ、駄目だったらどうなるのだろう? 生きてちゃ駄目なら死ななきゃいけないのか。


「この話に悩んでいる方には申し訳ありませんが、私個人としてはナンセンスな問いだとは思います。私達は既に存在していて、生きてしまっているのですから、その良し悪しは問うても仕方がないでしょう。考えるべきはその生き方だと思います」


 確かにそれが正論だな。


「しかし、そんな話は自分が生きていて良いかに悩んでいる人の役には立ちません。さて、ならどうしようかという話なのですが……」


 黒羽は一瞬考え込み、再び話し始めた。


「……一般的には、自分が生きていて良いかを自分基準で考えるべきだとされています。要は自分がオッケーかどうかを他者基準で考え過ぎてるのが問題なんですから、自分基準で考えるようにすればバランスが取れそうですよね」


 なるほど。


「大した理由は必要ありません。好きなアニメがあるからとか、マンガの続きが気になるとかそんなもので良いんです。だって、自分基準なんですから」


 大した理由は必要ない……か。普通なら逆に考えそうだけど。


(でも、誰かが納得するくらいの理由を……と考えるとそれはもう他者基準だしな)


 そう言う意味では、大したことない方が凄いのかもな。仕事終わりの缶ビール一杯のためとかだと尊敬だ。大体、生きていることを誰かに認めてもらう必要なんてないんだから


「Aさんは自分基準でものを考えるということが分からないと言っていましたね。それくらい他者基準に振り回されているということです。ですから、自分基準とのバランスが取れるようになればラクになるはず……というのが良くある答えです」


 さっきから微妙に引っかかる言い方だけど……


「でも、Aさんにこれを話してもあまり良い結果にはならないでしょうね」


 あ、そう言うことか。一般的な答えだけど、A向きではないってことか。


「自分基準でものを考えにくくなるのは、大抵の場合人に嫌われたくないからという人が多いようです。周囲から嫌われたくない、浮きたくない、無難に生きたい、だから他者基準で考えるのが癖になる」


 そして自分基準で考えるべきことまで他者基準で考えるためにしんどくなる、か。まさしく今のAだな。


「こういう罠にはまってしまうのはAさんだけではないでしょう」


「抜け方はないんですか?」  


 僕がそう聞くと、黒羽はうーんと言って天井を見上げた。


「なくはないんですが……どうですかね? まあ、次回の面談で話してみましょうか」


 他者基準に埋もれて自分基準で考えられなくなるという罠。そこから抜けるための方法とは……

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