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竜の姫君と巫女  作者: 剣持真尋


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息をひそめて

「ミンツェは夫人と顔見知りなのか?」豪華な夕食を終えた後、客室のベッドに腰掛けたルークが訊いた。「親しそうに接していたから」


「バレット夫人はカカ・グレイの妹だ」ミンツェが答えた。「実は三つ子で、先に生まれたのが兄二人だった。ココは解体されたが、ミミを愛していた。弟と同じように」


「誰ですの?」ルークの肩に頭を預けたロベリアが尋ねた。彼女が会っていない片割れ(スクラップ)


「特別室の住人さ」隣のベッドで二人と向かい合うミンツェ。「元結合双生児の拷問官」


 人間の捌き方を教えてくれたのはココだった。右の優男。共有する身体で彼の意識が動かせるのは腕一本だけだった。片手で拷問する術をミンツェは覚えた。脳の奇病で助からない彼を分離もした。遺骨をカカの代理で届けたとき、夫人は感謝してくれた。もう一人を救うために命を切り取った私を。


 久しぶりにこみ上げる吐き気に彼女は話を切り替えた。「明日の昼にはヤスミンへ着くかもしれないぞ。ここから御師匠様には、私だけ同行するそうだ」


 ルークは抱いていた疑念をぶつけたくなった。パンクラトフを出発してからずっと、自分とロベリアがなんの役にも立っていないことを二人とも感じていた。前金はすでに金貨を一枚ずつ貰っているが、それ以上の報酬を受け取る気にはなれなかった。「僕らの代わりがいるのかい?」腕を組んで訊いた。


 ミンツェは何もいわない依頼主の事情を説明した。「そうなのだと思う。この屋敷から御師匠様は、ヘイムダル・バレット氏の息子を連れて行くようだ。理由はわからない。私もヤスミンでの目的は教えられていないんだ」


「それじゃあ、私たちはパンクラトフへ帰るべきかしら?」ロベリアは不服そうだ。「本当に役目がわかりませんわ。金持ちの道楽で、侍らせて満足していたといわれても納得できないですわ」


 道楽だったのだろう、とミンツェは答えられなかった。おそらくロベリアの役目は御師匠様の夜の相手だ。そして、ルークの役割もきっと一緒だと思う。久しぶりに会った私を飼い慣らすための褒美として。


「御用が終わるまで、二人はこの屋敷で控えていてくれ。私たちが戻ってきたら、御師匠様の館まで一緒に行こう」彼女は立ち上がった。「それじゃあ、おやすみ」


 三人は個々に寝室を用意されていた。ミンツェは自分の部屋に戻ったが鍵は締めないでおいた。今夜ルークは私を抱いてくれるかしら?




「おやすみ、ロベリア」

 ルークは妹を彼女の与えられた客室に送り出し、蝋燭の灯を消してベッドに寝転んだが、二時間ほどで眠りから覚めた。部屋の外に気配を感じたので、暗闇の中で目を開けて、剣を取ろうとする前に一瞬で期待に頭が支配された。そしてそれは確信に。安堵に。喜びに変化していった。


 ロベリアが出ていった後、そのままにしておいたドアが開いた。闇の中でも、誰が立っているのかわかる。妹ではない。妹以外の女性が寝床に潜り込んできて、彼の胸板が手で触れられた。息づかいを感じた。自分の呼吸も乱れ、鼓動が脈打つ。静かに抱きしめられて、密着した彼女の鼓動を感じ、柔らかさに胸が高鳴る。


 彼女は何もいわなかった。それでも、何を求めているのか伝わってくる。同じ欲望が掻き立てられて、ルークは欲求に支配された。相手を抱きしめていった。

「君が欲しい。僕のものになってくれるかい、ミンツェ?」


 答えはなかった。愛しいひとは唇で応えてくれた。ルークも彼女を貪った。求められるのと同じくらいに。二人で呼吸を整えながら、息を合わせて、お互いに愛を吹き込んだ。


「ルーク、あなたが欲しいわ……」


 ミンツェが、やっといった。


「可愛いよ、ミンツェ」


 ルークは、彼女を愛した。


 二人で絡み合い、彼女からも愛が伝わってきた。


 暗闇の中で、二人は満たされた。一緒に穏やかに眠った。朝が来るまで、彼は彼女を片時も離さなかった。

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