ファーギンの弟子
ヘランハルメが浮遊魔法を運用すると、メジンバーには二日で辿り着いた。一行が降り立ったのは、街の屋敷の中庭だった。事前に念話で連絡していたのだろう。邸宅の主人が、大魔術師を歓待して、「今夜は、ヘランハルメ様の寝所として我々の家をお使いください」息子の前で、子どもの容姿をした旅行者に恭しく頭を下げた。
「二十年ぶりに会ったが、成長したな」ヘランハルメが青年を見上げた。相手のお辞儀を受けると、彼は家主に微笑んで話しかけた。「ヘイムダル、僕は昔お前が彼を儲けたときの赤子を憶えているし、ファーギンに師事していた若者に禁術を授けたときの約束を忘れていない。僕の役に立て。今がそのときだ」
「もちろんでございます」ヘイムダルは即答した。
「懐かしい顔を見せろ」ヘランハルメが命じた。
ヘイムダルが変身魔法を解除して若き身体に戻ると、ルークとロベリアは彼が不死者であると察した。ミンツェは知っていたようで、年嵩の夫人と抱き合い、彼女の息子にも話しかけた。「はじめまして、カイル君」
仕着せ姿の娘たちは、主人を凝視して驚きの声を上げた。一方で年長の女中は動揺している彼女らをたしなめている。
ヘランハルメは青年期のヘイムダルを眺めた。「ファーギンに破門されたあとのお前が、メジンバーで最も裕福な商会の会頭になったのも、預言どおりだった」
「はい。あの方にこの都市から出ていけといわれてパンクラトフを旅立ち、結果幸せと家族に恵まれました」
「二十年の幸せは、お前の宝を渡すのに値するか?」
「もちろんです。娘も二人いますから」ヘイムダルは肯定する。
「僕は婦長室に泊まる」ヘランハルメはいった。「ジョアンナ。今夜は久しぶりに僕と一緒に寝るんだ」年長の女中に振り返る。
「老いた私でも大丈夫ですか?」彼女は少し不安そうにヘランハルメへ訊いた。
「君はまだ二十八だろう。若すぎるよ」
「喜んでお相手させていただきます……」ジョアンナは頬を染めた。




