君を守るといってほしかった
ルークは旅籠のベッドにロベリアと腰掛けていた。ミンツェは今夜別部屋をヘランハルメと一緒に過ごすが、今は兄妹の部屋に来て椅子に座っている。
「ロバートから聞いたよ。君たちは以前キンスキーで、《第七星教》の信者に襲われたんだってね」ミンツェは依頼主が用事で出かけて、いなくなってからいった。「少し前まで、この都市は犯人探しで大騒ぎだったらしい。死んだ彼らに居場所を知られた覚えはあるかい?」
「心当たりがないな」ルークが首をひねる。「おそらく、教団本部を襲撃後撤退したときに、信者の誰かに跡をつけられたんじゃないか? 僕らが《イングリッドの涙》だと気づかれた。それで生き残りが、パンクラトフから追いかけてきたと思う。念話での連絡や、千里眼で宿を探し当てたんだ」
「でも、私たちとジェームズ、ロバート以外のメンバーはパンクラトフにいたのに、襲われていないですわ」 ロベリアが指摘した。「近くにいる標的を放置して、別の都市にいる仇を先に討つかしら?」
「ミンツェは、おそらく見つけられなかった」ルークは予想した。片腕が目立とうと、ギルドの地下室に籠っていれば姿を確認できない。彼女は当時、任務でガルシアの元軍人を拷問していたと、夜の酒場で聞いたことがある。「彼らは僕のことを覚えていた。次期教組だった、導師ラジャブ・キリレンコが死んだとき、僕はミンツェと壇上にいたんだ」
「ワイバーンを……、バベット村に行くときに、発見されたのですね」ロベリアが言い直した。あるいはもっと前から、機会を窺っていたのかもしれない。自分が寝込んでいるときに、襲われる可能性があったのだ。そうなっていたら私は足手まといで、お兄様に迷惑をかけていたに違いないわ。命の危険に晒していた。「残党は、お兄様を狙っていた」
「パンクラトフでギルド相手に戦争を起こすわけにはいかない。《イングリッドの涙》は、都市一等の勢力で、粒ぞろい。それこそ数人で教団本部を壊滅させられるくらいに。少人数の標的を、命を賭して道連れにするくらいじゃないと、実行できなかったんだろう」
それを聞いてミンツェは、ルークがロベリアを連れてギルドを脱退するのではないかと思った。彼は仲間と私を守ろうとして、信者たちを別の都市に引きつけるために出ていくのだと。
「この都市でまた襲われたらどうするんだい?」と訊く。「そしてパンクラトフに帰還しても、再び命を狙われたら?」
「自衛するしかないけれど、死ぬつもりはないよ」彼はいった。「僕らは強い。君も含めてね」
「といっても私は隻腕だ。不意を突かれたらわからないぞ」ミンツェがはっきりという。できればルークに守ってほしかった。だが、
「ロベリア」ルークは妹にいった。
「わかりましたわ……」とロベリアがミンツェの肩に手を伸ばし、
「やめてくれ!」ミンツェは慌てて治癒魔法の力から逃れた。「私はそんなつもりでいったんじゃない。前にも話しただろう、ルーク。あなたが好きだから……」
「お邪魔してしまったかな?」そのときヘランハルメが扉を開けて入ってきた。「ミンツェ、彼女の治癒魔法を受けないのか? 他人の腕を生やすなんて、僕にもできない芸当だぞ」と、大魔術師は弟子にいった。「お前は、ヴァンサンの騎士に腕を落とされた。もしかして、今はもう戦場に戻りたいとは思っていないのか?」
「そのとおりです、御師匠様……」
「それなら、早く僕の部屋に戻って寝る準備をするんだ」
「わかりました」ミンツェは頷いて、ヘランハルメと一緒に出て行った。




