大魔術師の依頼
ルークとロベリアは、《イングリッドの涙》でミンツェと合流した。彼女とまた、護衛任務で旅をすることになったのだ。しかも依頼者は、ただ者ではなかった。ドモンジョ狩りでファーギンの預言に従って会いに行った不死者、ヘランハルメ本人だ。依頼内容は、港湾都市ヤスミンへの同行、とあったが、大魔術師である彼には、護衛など不要なはずだ。自身の魔法で敵をやすやすと蹴散らしてしまうだろう。
そしてルークが最も驚いたのが、ミンツェが、
「御師匠様」
と彼を呼んだことだった。訊いてみると、彼女はヘランハルメの弟子だったのだ。確かに、以前《エテルの猛獣》と戦ったときに、ミンツェの魔法は洗練されていた。手を加えたのが五百年も生きている魔術師ならば、説明もつく。
今回の任務は、ギルドのメンバーをヘランハルメ自ら指名していた。ミンツェと、ルークとロベリア。おそらくミンツェは付き人で、僕らにも仕事を斡旋したのだろう。
「やあ、よろしくラッセル兄妹。君たちはドモンジョとウィロードの魔女に遭って、生き延びたそうだね。働きに期待しているよ」ヘランハルメがいった。
ロベリアは、自分よりも小さな男の子にしか見えない相手に、格上であるかのような態度で接せられて、まだ納得しかねるようだ。依頼主の手前口には出さないが、
「恐悦ですわ」と応じる表情は少し固い。
そしてルークは、ミンツェが初対面の人間に対して、年上相手でも上からものをいうような態度を取る理由がなんとなく理解できた。おそらく、ヘランハルメの影響が色濃いのだ。そして今のミンツェは、依頼主の彼の後ろで従者然としている。
ヤスミンは以前フィオナと訪れたことのあるメジンバーの隣に位置していて、パンクラトフから距離があった。だがルークたちは、今回は馬を借りなかった。依頼主がまったく別の移動方法を用意していたからだ。
「それじゃあ、行こうか。浮遊魔法」ヘランハルメが唱え、全員が荷物もまとめて空中に静かに浮かび上がると、急上昇して晴れた天空を飛んでいった。
雲ひとつない大空を、ルークたちは凄まじい速さで飛行した。そういえば、彼は天候を操作できるんだ、とルークは思い出した。この分なら馬を駆るよりもかなり早くヤスミンへ到着できそうだ。
そしてこの高さでは、襲撃者が来る心配もない。本当に何のために僕らは呼ばれたのか。きっとミンツェには身の回りの世話を任せるつもりなのだろう。そして隻腕の彼女の補佐が自分たちなのだ、とルークは踏んだ。
日が暮れると一行は地に降り立ち、野営した。予想通り、ヘランハルメはなにもしなかった。ミンツェとロベリアが食事を用意し、ルークが火を起こす。ヘランハルメは腹を満たすと、毛皮に包まってすぐに寝てしまった。




