英雄の病
傭兵部隊、《ハリエット》は敗北した。野営地まで逃げ延びた戦士はロベリアとルークを含めてたった五人だ。馬で退却の最中、拾ってロベリアがおぶったルークを、追っ手が襲った。仲間のひとり、二十歳のリディア・ムーアが兄を庇い、敵の男と格闘して殺された。ロベリアはそれを己の中でずっと悩むようになる。
陣営に待機していた非戦闘員の顔が絶望に染まった。帰ってきたのは五人で、直にヴァンサン軍がここまで進撃してくるというのだ。アバスカルの傭兵部隊は皆散り散りになって逃げ出し、壊滅した。
ロベリアも一人で馬を駆り、戦線を抜け出して帝国の田舎の村に辿り着き、そこでしばらく面倒を見てもらった。兄をベッドに寝かせて目覚めるのを待った。彼に外傷はほとんどなく、半分焼け焦げた腕はロベリアの治癒魔法で完璧に治療した。肉体的には全快させたといっていい。しばらくして、
「ロ、ロベリア……」ルークがやっと目を覚ました。
「お兄様! 大丈夫ですの?」
「……ああ、もう平気だ」ルークは無理に微笑んで見せる。
ロベリアはルークに食事を与え、付きっきりで看病した。精神的な消耗も少しずつ癒えて、笑顔で会話ができるようになる。しかし、ルークはどんどん痩せていく。筋肉は衰え、一人で立つこともできなくなった。その身に宿していた魔力も、萎んで枯渇してしまう。
村の年老いた人間は皆、「魔女の呪いだ」と口にした。この村には廃兵がよく来るらしい。多くの戦果を上げた英雄が、急激に衰弱することがあるという。少しだけ占術を使える村長がいった。「この方は、ヴァンサンの女魔術師に呪われたのじゃ」
そんなことをいわれても、ロベリアには理解できなかった。なぜ、お兄様が呪われなくてはならないの?




