エテルの猛獣
「失礼な態度を取った俺を許してくれ」ルパートが、命の恩人であるルークたちに礼をいった。「俺と商品を護ってくれてありがとう」
「依頼主を助けるのは当然ですわ」ロベリアが少し誇らしげにいった。「《イングリッドの涙》は、全員精鋭の戦士ですのよ」
「ルーク、死体を埋めてくれないか」ミンツェが願った。片腕の彼女ではそれを行うのは難しいだろう。
シャベルがない代わりに、ミンツェが「穿孔」の魔法を行使して、地面に大穴を掘った。
ルークが男の死体をそこへ投げ入れようとしたとき、懐から何かが落ちた。
「ちょっと待ってくれ、ルーク」ミンツェが小さな塊を拾った。それは銀の徽章だった。「これは、まずいぞ」
「その装飾に見覚えがあるのか、ミンツェ?」
「ああ」ミンツェは頷いた。「これは《エテルの猛獣》の証だ。パンクラトフにあるギルドのひとつだよ」
ルークが他の死体も検めると、襲撃者の全員がその徽章を所持していた。
「ギルドのメンバーが盗賊をしたのですか?」とロベリア。
「そのとおりだろう。だがそれは、誰かの依頼であるはずだ。彼らはルパートの馬車を、最初から狙って襲撃したんだよ」
「心当たりはありますか、ルパート?」ルークが訊いた。
「いや、さっぱりわからんな」
「ルパート、君はやけに筋肉質だな」ミンツェがそう指摘した。「まるで戦士みたいな体つきだ。実は君自身、相当強いのではないか?」
「…………」
それはルークもロベリアも気がついていた。逞しい肉体もそうだが、何より身のこなしが、訓練された人間のものだったからだ。
「君は、本当にただの商人か?」
「ちくしょう!」ルパートは腰の剣を抜くとミンツェに斬りかかる。
「おっと」ミンツェもすでに抜剣していた。
ふたりが剣戟を交わす。だが、圧倒的な技量の差があった。ミンツェの剣が、ルパートの剣の腹にあたり、真っ二つに折る。
「生憎私は傭兵崩れでね」彼女がルパートの喉元に剣を突きつける。「そのへんの盗賊なら赤子の手を捻るように殺せるんだ」




