蠱惑的な少女
ミンツェ・バルトは酒場でルークの唇に接吻した。「あなたが無事でよかった、ルーク」頬は紅潮し、表情には十六歳の少女とは思えない色気が漂っている。
「ありがとう、ミンツェ」ルークは彼女の杯にワインを注ぎ直した。キスなんて久し振りだ。この人は、とても可愛い。
「ロバートが欠損を取り戻したんだってね。彼はとても喜んでいた。ミトラとは少し気まずくなってしまったようだけど」
「なぜ気まずいんだ?」ナッツを噛んだ。
「嫉妬。そして同属意識が失われたんだろうね」
「ミトラはロバートの姉だ。肉親の回復を喜ばないの?」
「彼女はもう……人間ではないからね。身体の一部以外に、大切なものも欠落してしまったんだ」今度はミンツェが、ワインを飲み干したルークに酒を足した。「私もロベリア君に会ってみたいな」
「もちろんいいよ」ルークは彼女に手を握られて、少しどきりとしている。「君も彼女に、腕を治してほしい? ロバートのように」
「私は大丈夫だ」ミンツェは即答した。「それが目的で君に近づいたんじゃない、ルーク。あなたが素敵な人だから」彼女がもう一度キスをせがんだ。今度はルークから。「……好きな人の妹に会いたいの」
「もちろんだ、ミンツェ」ルークは少し酔いが回ってきた。いつもよりもはやいのは、蜜のような雰囲気のせいだろう。
「私とも、一緒に任務を受けてくれる? 報酬が高い依頼があるんだ」
「どんな依頼なんだ?」
「とある商人の護衛。パンクラトフからメジンバーまで。あなたなら、盗賊が襲って来てもすぐに片付けてしまうでしょう」
「君の力になるよ、ミンツェ」ルークは彼女の手を握り返した。「ロベリアにも会わせたい。三人で旅をしよう」
「ありがとう、ルーク」
そのあとふたりは酒場を出て別れた。ルークは、懐かしいキスの味を思い出して少しの幸せを噛みしめた。夜道を歩いているとき、かつての恋人の顔が脳裏に蘇った。
「シーラ……僕は君以外を愛せるのかな」
亡くなった戦友。彼女が敵国の魔女に殺されてから、ルークは初めて気になる人ができた。




