湖の炎
今夜、ルークたちが湖のほとりで夜を越すのは予定通りのことだった。ここはパンクラトフではなく、キンスキーでもない。都市の憲兵が殺人を捜査したり、一行を追いかけて、奴らの仲間が復讐にやってくることもなかった。ロベリアがフィオナに失望したとき、彼女が王都に行きたいといったのは本心だとルークは気づいていた。
ロバートが立ち上がると、横になっていたが眠っていないルークに声かけた。「そろそろ焚き火の番を代わってくれ」彼の隣で岩に腰掛けていた少女にいう。「明日も朝早く出発だ。フィオナ、君も眠るんだ」
用を足しに起きたあと、火にあたって暖を取っていたフィオナが首を振った。「もう少しルークとお話をしていたい」
「そうか、ほどほどにしろよ」ルークに火かき棒を渡すと、ロバートは土の上に敷いた毛皮に寝転んで、自分に催眠魔法をかけて眠ってしまった。
「ロベリアは私を嫌いになったのかな」少し沈黙を置いて、フィオナがいった。
「僕は、意外だと思ったくらいだけど」ルークは本心を話し、火に薪をくべた。「妹はショックを受けている。彼女は、まだ若い少女なんだ。世界が広いことを知らない。たくさんの種族やモンスター以外に、多様な人間が存在することを」
「みんなも魔法を使えるのね。お父様のように」
ルークは少し恥ずかしい。ロベリアの魔法と僕の力量は比べものにならない。ジェームズやロバートのそれと比べても下級だ。「そうだ」と頷く。「ロベリアは僕たちの中でも、凄腕の魔法使いだよ」
「それなら彼女は、これを見せても幻滅しないかな?」フィオナは口を開けた。そして口から火を吹いて、強風で勢いの弱まる焚き火を火炎魔法で再び燃え上がらせた。「私が使えるのは、これだけ。お父様に教えてもらったの」
「フィオナの魔法は、とても上手だね」火力の調整が絶妙だ。弱すぎず、強くて薪を吹き飛ばしてしまうほどでもない。火勢を大きくするくらいの加減だった。「手伝ってくれてありがとう」ルークは彼女の頭をやさしく撫でた。
「えへへ」フィオナは素直に嬉しがる。彼女は立ち上がってルークに手を振ると寝床に入り、隣で眠っているロベリアを少し見つめたあと、目を瞑った。やがて小さく寝息を立てて、眠ってしまった。




