ビルワリーの酒場
長時間馬に乗った経験がないらしく、フィオナは太ももが摩擦によって裂けて血が出た。後ろに乗ったロベリアが毎回治癒魔法で治療してくれて、三日後にはビルワリーに到着することができた。その道中に、ジェームズは念話でギルドで待つ覗き屋に連絡してしばらく帰らないこと、借りた馬の代金を上乗せして代わりに支払ってほしいと頼みを伝えた。報酬の分け前については、パンクラトフに帰ったら必ず割り増しで手渡す約束も。
「疲れたわ、ロベリア」フィオナはもう彼女に懐いていて、馬から降りると肩に頭を乗せて甘えた。
「これからが大変ですわ、フィオナ」とロベリアが彼女の手を繋いで歩き出す。
「カーンという義足の男を探している」ジェームズが酒場の主人に銀貨を渡す。
「なんだそいつは、新参者か?」やっと見つけた情報屋は、ワインを四人の杯に注ぎながら初耳だといった。フィオナはオレンジの果汁だった。
「最近この街にやってきた、魔術師だ」
店主はジェームズに向けて手のひらを上にして肩をすくめてみせた。「お手上げだよ。毎日このビルワリーにどれだけの人間がやってくると思っている。そしてどれだけの人が街から出ていくのかを。渡りをつけるのは地元の奴らだけだよ」
「では最近この店に義足で頬に傷がある男が来たことがあるか?」質問を変えてジェームズが粘った。「牛肉を大量に注文するような?」
「確かに思い当たる客がいる。金払いがよかったんだ」
「支払いは宝石か? 太っ腹なはずだ」
「いや、ちょうど店にいた両替商の男に金貨と交換してもらえといった」店主はわざと気の毒そうな顔をした。「逞しい男は二重の損をしたな。換え金屋だってかなりむさぼったはずだ」
「おや、酒代を金貨で払っていったか。可哀想に。奴はとあるご令嬢の家族だ。俺たちに居場所を突き止めろと依頼してきたのさ。もしかして繋がりのある宿を教えてやったりしていないか?」
「あの旦那には俺のいとこの店を教えてやった」店主が手のひらを差し出して、もう一枚の銀貨を受け取る。「一泊が銀貨一枚で二食付き。高いが、比較的清潔。マーニ通りの《ベルガマスキ》。宿泊する必要はないが、訪ねるなら土産を持って行かないと追っ払われるぞ」
ジェームズは男に礼をいった。そして「牛のステーキを五皿くれ。ロバートやルーク、それにロベリアはワインの瓶を空にしておけ。もう一本頼もう。それと彼女にはまたオレンジを搾ってほしい」銀貨をさらに一枚、上乗せした。




