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竜の姫君と巫女  作者: 剣持真尋


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独りぼっちの女の子


 ロバートは村長の言葉を聞き返した。「誰もこの娘の身元を知らないのか?」


 バベット村の老人は頷いた。「ええ。翼竜を射止めた方よ。この村には嫁入り前の娘が二人しかいないのです。前金を受け取ったときに、会われたでしょう。儂の孫と……」


「もうひとりがこの私です」引き返した一行が落ち着いた、この地唯一の宿屋の女中が、茶器の乗った盆を持って客室に入ってくる。「お茶をどうぞ」


 ルークは部屋でロベリアが使うはずのベッドに寝かされた少女を見た。彼女は自分たちにとって大事な人ではないが、保護は必要だ。自分がワイバーンの雌を首斬らなければ、女の子は死んでいた。素性のわからない、妹と歳が近い彼女を生かした責任がある。竜に喰われるのを止めたのはルーク自身なのだから。


「この近くに他の集落はありますか?」と訊いた。


「いいえ、都市よりも離れていますわ。多分パンクラトフの市民だと思います。衣服がほとんど汚れていないのを見ると旅人だとは考えられませんから。それにひとりで次の村から数里歩いてくるのは無謀です」


「今、村人たちが探している竜の死体。奴に捕まって連れ去られたとしたら?」ロバートがいった。「ワイバーンってのは空を飛べるんだぜ」


「かすり傷さえ付いていなかったんだ」ジェームズが指摘した。「ワイバーンは牙も爪も鋭い」


 身体を支える杖から片手だけ離して、バベット村の責任者は袋を差し出した。ジェームズが受け取ると、まだ狩りの証である竜の一部すら得られていない雄も含めた、報酬の金貨が詰められていた。大金だ。彼は老人が前払いをした理由を察した。名も知らぬ身元不明の少女を、こちらが引き受けろというわけか。


 諦めて老人と握手し、今夜だけ世話になるといって村人を部屋から出させた。それからジェームズは金をきちんと等分してメンバーに振り分けた。ロベリアはベッドの横で椅子に座り、旅籠で装備を外してからずっと、綺麗な青髪の少女を看ていた。少女はどこにも怪我はない。だからロベリアも治癒魔法ヒールを使わず、ルークやロバートとおしゃべりする余裕はあった。少女が目覚めたら、いろいろと質問しなければな。なぜ竜の洞窟にいたのか。どうしてパンクラトフから身一つで出てきたのか。ひとりで。


「ああ、この子、目を覚ましましたわ」安堵の響きを馴染ませながらロベリアが伝えた。

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