光の矢
どうすれば奴を撃ち落とせる? シジクの森に到着してロバートとジェームズは半刻が過ぎるまで光矢を放ち、魔力を消耗した。雲ひとつない快晴の青空に翼を広げて飛び回るワイバーンは、ギルドのメンバーの遥か頭上から巨大な炎の弾を吐き出してくる。そのたびにロベリアが防火魔法を展開して、ルークと他の仲間を息吹から守った。
「埒が明かないぞ」ロバートはもう一度、光矢を発射し、ワイバーンに空中で回避された。片脚を切られたことは、ワイバーンを学習させたようだ。翼竜は上空から攻撃し、ルークやロベリアが狙う剣撃を避けていた。刃の届かないところから火焔を吐くも完全に防がれているが、周囲の樹々は燃え盛り、その熱が皆の体力を奪っている。そしてロベリアが周囲の被害をなくすために放水魔法で消火しているから、彼女の魔力は時間が経つ程に削られていく。
「くそ」ルークはセドリック・アルベルト・モワナを構えてごちた。「僕は役立たずだ」
「いいえ」ロベリアは防火魔法と放水魔法をもう一度発動して、彼女の背後に待機するルークに振り返った。「お兄様は止めを。彼らがワイバーンを撃ち落としたあとに」
「無茶いうなって」魔法を外したロバートはいった。「あそこまで空高くいる標的に命中させるなんて難しすぎるよ。魔力も消耗してきたし、日を改めて作戦を練り直したほうがいいんじゃないか」
彼方上空から咆哮が聞こえ、ジェームズが狙いを定めていると一際大きな火球が降ってきた。防御に徹するロベリアよりも、自分とロバートの魔力量は少ないだろう。彼はもう少しで限界がくることを感じていた。「その決断をする前に、俺たちの渾身の一撃を奴にぶちこむべきだ」
ロバートはきいた。「いったいどうやって攻撃を当てるんだ、師匠?」
彼のいう通り、今日のワイバーンの戦法は優れている。一行はシジクの森を進むこともできなかった。業火に阻まれて。奴は深部の洞窟に人間を近づけたくないのだろう。だが巣にはきっと、雌のワイバーンが守っている卵がある。ジェームズはそれを是非とも手に入れたかった。竜の卵は高く売れる。もしも孵化していたら、幼体は調教して軍と取引ができるだろう。戦場で騎士を乗せて戦える。
「策はあるのか?」
ジェームズは背中から弓を取った。「俺の矢に魔法を込めて撃ち放つ。この一矢が回避されたら、逃げるんだ」
「あんた、当てる気なのか?」
「お前だ。ロバート。昔は弓の名手だった。今のお前はもう一度矢を掴めるじゃないか」
「ジェームズ……」ロバートは、欠損していた利き手の感覚を取り戻した。仲間の治癒魔法によって。彼は突然大きな役目を託されて自信無さげだったが、ジェームズは愛用の武器を長年面倒を見てきた若者の胸に押し付けた。
「お前の腕は本物だ」愛弟子を見ていった。
「ああ、そのとおり」ロバートはいった。「付与の魔法はなんだ?」
「ワイバーンに、俺の全魔力を凝縮した雷撃を届けてやるんだ」
ロバートは己の腕に絶縁魔法を纏わせた。「いいぜ」
「雷撃!」ジェームズは矢を握りしめた。バチバチと帯電したそれはロバートに渡された。「狙いを澄ませ」
「了解」ロバートは矢筈を弓の弦にかけて、力を込めて引いた。「久しぶりの感覚だな」彼は片目を閉じた。「ワイバーン。俺の矢を受けてみろ」
ワイバーンが一行を俯瞰して、大きく口を開いた。息吹を吐き出そうとしたそのときだ。ロバートの一撃が稲妻のようにその胴体を貫いた。モンスターが空中で力を失い、顎から煙を燻らせ地に堕ちていった。




