大食らいの魔術師
「あんた何者なんだ?」ロバートはワインの瓶を片手に持ち、大金と同等の代金を払った男に近づいた。
男は脂のたっぷり乗った肉に夢中に食らいついていたが、ロバートが渡した酒瓶を喉に流し込むと、一息ついた。「ただのしがない魔術師さ」
「魔法なら俺たちも使える。あんたは凄腕の使い手なんだろうな。村にはどうやって?」
「空を飛んできた」
「浮遊魔法か。難しい魔法だ。ギルドマスターだって、習得できなかった」
「あんたらは、ギルドの連中か?」
「《イングリッドの涙》さ」ロバートは彼に肩を貸してルークたちのテーブルまで連れてきて、座らせた。「紹介するぜ。俺の師匠のジェームズと、兄妹のルーク、ロベリアだ」
「君たちは、パンクラトフから来たのか?」
「シジクの森に突然飛来したワイバーンを、討伐しに来たのさ。村の牧童が家畜と一緒に犠牲になった。さっきまで戦っていたんだ。それで俺は死にかけたけど、仲間の治癒魔法で救われた。作戦を立ててから、明日もう一度襲撃する」ロバートはいった。「そういえば、あんたの名は?」
「カーンだ」魔術師は答えた。「ワイバーン殺しの具体的なやり方は考えているのか?」
「ワイバーンの翼を破壊するのですわ。欠損すれば、空に逃げられなくなって、大きな的ですわ」ロベリアはルークの肩にもたれた。「お兄様は凄腕の剣士ですの。ワイバーンの片足を切り落としてくれましたわ。今度は、首を狙えば殺せる。明日には狩って、任務は終わりですわ」
「だが明日には遠くの街に飛び立っているかもしれないじゃないか」カーンはステーキを再び注文すると、ルークから分けてもらった腸詰めをかじった。
ジェームズはワインを注いだ杯を傾けた。「いや、あのワイバーンは番いだ」覗き屋の報告ではそうだった。村に来て森の洞窟にはまだ到達できてきないが。カーンの指摘したとおり、明日シジクの森に到着したとしてもワイバーンが空にいる可能性がある。しかし巣には孵化を待つ卵を雌が守っているはず。「奴は必ず洞窟に戻ってくる。家族のため」
店主は脂の滴る火の通った牛の骨付き肉をカーンの前に置いた。
「四人だけでワイバーンを二匹狩るなんて、無謀だ」カーンが肉汁をすすりながらいう。
「私たちにはそれだけの実力がありますわ」ロベリアは魔術師カーンの忠告に胸を張って答えたが、そろそろ酔っ払ってきたようだ。ルークに身体を預けて眠たそうにしている。
「君たちの幸運を祈るよ」カーンは出された料理を平らげるといった。それから杯の中を空にして、席を立って店の出入口に足を引きずっていく。
「あんたはどこへ?」ロバートは彼の背中に問いかけた。
ルークがドアを見ると、カーンの姿が夜の闇に溶けていくところだった。今宵月は顔を出さなかった。男は仲間の質問に答えずに、店から去っていった。彼の義足はまるで新品みたいに綺麗で、よく手入れされているな、とルークは思った。




