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竜の姫君と巫女  作者: 剣持真尋


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誘惑の魔石


 貴族議員クロスター・ディケンズはかなり肥満体型で、クラバットで窒息するのではと男は思った。「はじめまして侯爵閣下」先日ミトラがタローランの首と前金を引き換えた密使を連れていて、パンクラトフの路地裏に吸い終えた葉巻を捨てて、足で踏み潰した。


 男の率いるスクラッパーたちが教団本部に指輪が献上されたことを突き止め、ギルドの新人と一緒に沢山の人間を殺して、強奪したというのに、依頼主は「仕事が遅かったな」と文句をいった。不満そうに。「指輪は?」


「先に金をくれ」男はズボンのポケットからアダムソンの指輪を取り出して見せつけた。


「おい、リアム」クロスターが部下を見る。


 彼は懐から膨らんだ革袋を出して渡した。男は中身を確認する。大量の金貨があった。「確かに受け取った。では、これはあんたのものだ」密使に手渡そうとすると彼は指輪を引ったくった。それから侯爵へうやうやしく差し出した。クロスターはそれを受け取り、指輪を装飾する魔石を見つめ、指に嵌めた。


 だが侯爵は男にいった。「これが、本物のアーティファクトだという証拠は?」声色は穏やかだが、目には疑念があらわれていた。《イングリッドの涙》は、都市公認のギルドとはいえ、その中でも外れ者の言うことなど信用してよいかわからないといった表情だ。


「不安なら適当な奴で確かめてみればいい」


「そうだな」クロスターが部下を指差すと、彼はぽかんとなった。「リアム、自害しろ」


「はい」従者は即答した。腰の剣を抜いて、自分の胸に躊躇なく突き刺す。鮮血が溢れ、彼はごぼごぼといいながら地にくずおれた。


「ふむ」クロスターは頷いた。「どうやら、本物のようだ。これがアダムソンの指輪か」


「そういうことだ」


 男が踵を返し路地裏から出ようとすると、侯爵が呼び止めた。「指輪の所在について、他に知る人間がいると私は非常に困るんだ」


 男は肩をすくめて振り返った。仲間たちにはやく金を届けたいのだが。「どうする?」


「死ね」


 やはりそうきたか。「おい、それは嫌だ」


 クロスターは動揺した。「なぜ指輪に洗脳されないんだ。やはり紛い物だったのか?」


「ふうむ。あんたは部下を自殺させたことを忘れたのかな、それとも彼は精神衰弱者?」


「私の部下は指輪を見せると命令に従った。だが貴様には通じない。どういうことだ?」


 男はかすかに笑って、両手で自分の眼球をくり抜いた。侯爵に驚愕されたが、構わずに取り出した二つを手のひらで転がした。血は出ず、男は空洞となった眼窩で話しかけた。「俺は指輪を見ていない。あんたの顔もな」


「義眼、か? どうやってここまで来た?」


 男は両眼を元の場所に戻した。「千里眼スコープ越しでは、指輪の効力は無い」


 アダムソンの指輪の受取人は、怯えた顔で命乞いをした。「見逃してくれ、金は払う」


「さっきの額で充分だよ、侯爵」男は腰から手斧を抜いた。アダムソンの指輪を使えば、金貨などいくらでも手に入れられるだろう。クロスター・ディケンズの裏切りは予想通りだったが許せる訳がない。報復によって没収するべきだ。アダムソンの指輪とその命も。


 侯爵は背を向けて彼から逃げ出そうとし、男は千里眼スコープで侯爵の背を視て、正面からも顔面の位置を確認しながら狙いを定めた。投げた手斧で後頭部を叩き割って、死体に近寄ると指輪を取り上げてポケットに入れた。「ギルドに帰ったら、久々に美女を抱こう」これがあれば、これからは、微妙な娼婦を抱きに行く必要はないだろう。「苦悩解消に役に立つ」男は白い顳顬こめかみを掻きながらごちると、路地裏を後にした。

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