殺戮の対価
ルークが《イングリッドの涙》に帰還し、勘定台に座っていたオリヴァーが安堵した。
「ああ、今日は誰も死ななかったようだね」
ルークは少し引っかかった。誰も。それはギルドのメンバーのことだ。教団の関係者は死人が多く出て、《第七星教》は壊滅した。「スクラッパーの皆さんは強者ばかりです」それは素直な評価だった。親衛隊との戦闘において、魔法を行使した頻度は少なかった。全員が武器を使った体術で教団を制圧した。
「そうよ」隣にいたミトラが嬉しそうに胸を張った。「でも協会で私兵に囲まれて、一番上手く立ち回ったのはあなただわ。ルーク」
教団の親衛隊には、強者もいた。ルークは積極的に交戦した。「ありがとう、ミトラ」
「オリヴァー、ボスに戦利品を届けてくる」ロバートは指輪の入った鞄を掲げて見せた。「ボスが依頼人に会ったら、すぐに分け前をくれるかい? ルークは早く必要みたいだ」
「了解したよ」オリヴァーは特別室に向かう彼を見送って、皆に家に帰ることを勧めた。
「失礼します」ルークは踵を返していった。
教団本部は何十人も死者が出たのだから、都市は大騒ぎになっているだろうと思った。果たして大通りでは、新聞屋が大声で号外を配り、人々がそれに群がっている。襲撃者はさっさと商店通りを歩いていき、帰宅した。
ロベリアは玄関までやって来て、ルークを迎えた。「お兄様が外出なさっている間に、ギルドマスターが私を見舞いに来ましたわ」
ルークは立っている彼女を見てよろこび、すぐ心配になった。「それより平気なのか、ロベリア? まだ火傷が痛むだろう。体力が回復したとしても、魔力が練れるようになるまではベッドの上で安静にしているべきだ」
「でも今の私の姿を見れば、もうその必要がないとわかりますわ。お兄様」とロベリア。
ルークはロベリアの笑顔を見て、驚いた。頬の火傷が消えている。誇らしい美人な妹。
もしもルーク以外の男ならば、ロベリアが服を脱いで全裸になったのを凝視してから、襲っていただろう。「おお……ロベリア」彼は綺麗で瑞々しい肉体に、ため息を洩らした。
ロベリアは全身にあった爛れた皮膚を全て完治させていた。「毎日少しずつ、治癒魔法をかけて今日回復しましたのよ」
ルークは信じられないという顔でいった。「頑張ったな、ロベリア」妹を抱きしめる。
「あん、お兄様……」ロベリアは、いつになく甘えてきて躰を押し付けて二人は抱き合う。
そのときにはルークは自分がなんのために危険な任務に就いていたのか忘れていたが、
「私のために金貨を稼ぐ必要ありませんわ」彼女の言葉にルークは金を得るために選んだ
手段を思い出した。「もう大丈夫なのか?」
「アバスカルがバスティアン市の全域を奪還したとき、オーロルと私は重症で、廃病院にいた軍医は安楽魔法をかけようとしましたわ。私は彼からオーロルを守って、自分と同時に治癒して復活した。彼女はまだ帝国にいるでしょう? 私たちは脱出しましたけれど、あのときに比べたら、このくらいで参ったりしませんわ、お兄様」
「よかった」ルークはソファに座り込んで、隣に寄り添うロベリアの頭を撫でてあげた。
明日には、オリヴァーから依頼品の報酬を受け取ることになっている。ルークは思う。ロベリアが元気になったのはとても嬉しい。だが、秘薬が不要になったのなら、僕は何故教団の人間を虐殺したのだろうか?




