灰になっている
「火が消えました」
「ああ。だがもう少し火葬の必要があるな。火炎魔法」ロバートは親指で火をつけ、処分を続ける。
焼却されたタローランの死骸は、髑髏がなかった。死亡した彼の躰を解体したときに、ミトラが麻袋に入れて持ち去った。
「お見送りをしてあげなきゃね」彼女はそういうと、片方の腕に杖を持って特別室を出ていった。片足には義足をしていた。貴族議員クロスター・ディケンズの密使と会い、報酬と交換するらしい。
「表向きのな」ロバートはいった。「裏金は例の代物と交換だ。アダムソンの指輪を発見しない限り、大金を得ることはできない」
「なぜ足の不自由な彼女を取引に行かせたのですか?」
「姉貴の持っていった杖、あれは得物だ」ロバートは答えた。「仕込み杖だな。あいつは義足を生身のごとく巧みに扱う。裏路地に入ったら走り出しているさ」
「なるほど」
「話を戻そう。タローランが死ぬまで指輪の在りかを吐かなかったのは、知らなかったからだろう」
「依頼書の情報が間違っていたのですか?」
「いいや。俺達はちゃんと下調べをした。たしかに、タローランが協会で説法をしているときにアダムソンの指輪をはめているのを確認した」
「協会に直接侵入したのですか?」
「いや」ロバートは少しにやついた。「覗き屋がいるのさ」
「覗き屋? 千里眼の使い手ですか?」ルークはすぐ魔法の見当がついた。「誰です?」
「《イングリッドの涙》の幹部に習得できた人間は何人もいる」
ルークは古参のメンバーが誰なのか詳しく知らない。「オリヴァー?」予想をいった。
ロバートは答えずにやりとして、ルークに火かき棒を求め手渡されると、タローランを粉々に砕いた。丁寧に痕跡を失くしていく。
あの女の子も灰になっていたのだろうか?
「さて、憐れな司祭は消失した」ロバートは放水魔法で暖炉の火を消した。「タローランはおそらく、教団本部に指輪を献上したのだろう。奴を拉致してから建物を隈無く荒らしても見つからなかったからな」
「それならタローランは本部の場所を吐いたのではありませんか? そして指輪を渡した人物か、今現在所持しているであろう者も」
ロバートが火かき棒を放り投げていった。「アダムソンの指輪で記憶を消されたのさ」
「渡された人物が洗脳したのですね。すでに虜になっているのに、さらに上書きをした」
「そうだろうな」彼はルークを見ていった。「ラッセル兄妹、お前たちは《第七星教》についてはほとんど知らないんだろう? この都市で一番の勢力を持っていた宗教団体だ。集団自殺で信者が激減するまで。教団本部は都市の皆に知られている。荘厳で巨大な建物だからな。最近死んだ、教祖のフロッケンも有名だよ。息子である現在の指導者の名も」
「そのとおりです」ルークは素直に認めた。ロベリアを連れてガルシア王国に亡命して、この都市パンクラトフまでやってきたのは、改宗するためじゃない。「それでは依頼品の場所は何処か予想がついているのですね?」
彼は頷き、それまで同じ部屋で黙っていたカカ・グレイを見た。「お前も少し喋れよ」
「ああ」寡黙な男は首筋をさすり、いった。「《第七星教》のラジャブ・キリレンコが、現在の所有者だと考えている。後継者の彼は教団本部に住んでいる。次はそこを襲撃だ」




