金のためなら人も殺す
ロバート・キャッスルは利き手の指を失った。
ミトラ・キャッスルは左足を失った。
ジェームズ・トゥーフェイスは顔半分を失った。
ミンツェ・バルトは右腕が無い。
カカ・グレイは首がひとつ無い。
ルークは、スクラッパーのボスは知らない。
しかし、負傷者や異形のメンバーを見ても特に偏見は持たなかった。戦場では欠損など当たり前だし、結合双生児だって見せ物小屋に行けばたくさんいる。
だがジェームズの火傷にロベリアの顔が重なり、胸を痛めた。ロベリアには卓越した治癒魔法がある。だから大丈夫だ。自分が兄妹の片割れであることを思い知る。ロベリアがいなければ、ルークは生きる意味がない。妹のためにも、金が必要だった。だから、ミトラの無邪気な拷問にも目をつむったし鼻もつまんだ。
「新米にしてはよく吐かなかったな」ロバートがタローラン(それが司祭の名前だった)の死体を燃やしながらいった。「姉貴がやり過ぎたってのにさ」
「拷問は、アバスカルとヴァンサンの戦争でも貴重な情報を得る手段でした。僕の妹も経験豊富ですよ」
骨がひび割れる音が聞こえる。暖炉の中で薪として爆ぜていた。
ルークは尋く。「我々の目的について教えてもらえませんか? 依頼書には、タローラン司祭の身柄の確保としか書かれていませんでした。生死問わずとはありましたが」
「要するに誘拐だな」ロバートは裏事情を話した。
《イングリッドの涙》の依頼書には、物によって「裏紙」がある。つまり、公には募ることができない内容を、マスターを通して皆に伝えるのさ。かつてはジーラがその役目だった。スクラッパーは俺達のボスから聞かされるんだがな。闇の仕事だ。お前は新入りだからまだ信用がなかったんだろう。それに俺たちが《第七星教》について調査していたときは例の任務に就いていたんだろう? ギルドをめちゃくちゃにしたドモンジョ狩り。
あの団体の信者が集団自殺した当時は、この都市にすらいなかったんだって? 俺にはよくわからない、奴らの信仰する神とやらの、復活のための贄だとか。
政府も手を焼いていた。表向きは都市憲兵の隊長が依頼主だが、俺達に接触してきたのは偉いお役人さ。汚職に首までどっぷり使っている奴だ。そのお金持ちのクロスター・ディケンズという男が、個人的な欲のために依頼した。教団の資産の強奪を。どういうわけか信者たちからの貢ぎ物の中に希少なアーティファクトがあるのを嗅ぎ付けたらしい。
それがアダムソンの指輪だ。その能力は、所有者がはめた指で差した人物を洗脳できる。教団としては貴重なものだよな。それがあれば信者を量産できるし、信仰も深くできる。
皮肉なことに、指輪で意中の女を洗脳して妻にしたアダムソン自身も、秘密宗教に心を支配されちまったのさ。




