アダムソンの指輪
ルークは傭兵の頃、何度か拷問を担当したことがある。吐かせる情報はほとんどが敵の配置と作戦内容であり、相手が同じ傭兵の場合はすぐに喋ったので解放して送り出してやった。戦場から黄泉へと。厄介なのは愛国心の高い敵国の兵士だ。
彼らは水責めされ、爪を剥がされ、ルークは指をハンマーで潰し、意志が固いうちは治癒魔法で治してそれを繰り返す。
自決した死体を含めて、すべての「搾りカス」は戦闘用に調教された魔獣の餌箱に投げ棄てられた。彼らが満腹になるほど捕虜を調達することは難しいので、自軍の隠れ処は比較的クリーンに保たれた。魔獣は馬と違って血も啜る。耐えられなかったのは、糞尿の臭いだ。
今もその臭いに顔をしかめた。特別室でのおぞましい拷問――ジーラがサラサという少女にしたそれとは比較にもならない。なにせ生きたまま腸を引きずり出しているのだ。その光景は、心を痛めるものではなかったが、激臭に目眩がしそうだ。
「お前の所為だぞ」ロバートが文句をいった。哀れな男――秘密宗教団体《第七星教》の司祭は失禁して、それが血液と混じり、排水口に流れている。それよりも問題なのは床に撒き散らされた人糞だ。
「わーい」ミトラと呼ばれている女性が中身を絞り出しているのがいけないのでは、とルークは思う。砂まみれで遊ぶ子どものように嬉々として腹の中を弄くりまわしている。
「殺してくれ……」
それでも司祭は生きていた。気を失うこともなく。ミトラのかけた麻痺と延命魔法で、死ぬことができないのだ。
今はまだ。
「肉体的な痛みなどたかが知れている」ロバートがいった。「確実に死ぬという絶望が、人間を饒舌にさせるんだ。矛盾しているようだが、死という救済を求めて。つまり殺るならはやく殺れってことだな」
特別室にはもう一人いた。顔面の半分に火傷を負った、ジェームズという初老の男だ。彼はルークとロバートが司祭を運び込んでから何度も問いかけた言葉をもう一度口にした。「アダムソンの遺品はどこにある?」
「し、知らないんだ……!」司祭は同じ言葉を繰り返した。
「そんなわけがないだろう」ジェームズが突っぱねた。「他の信者からの貢ぎ物と一緒に、管理していたはずだ。貴様らが洗脳して自殺に追い込んだ、彼の婚約指輪を」




