悪夢の始まり
ドモンジョは肌が焼けるような痛みでその場に倒れた。脳裏に炎に包まれたピーボディの死体が出てきて、自分も同じように死ぬと思った。
「彼になにをしたの!」ジャクリーヌはドモンジョに抱き起こし、ウィロードを問い詰めた。
「ドモンジョはヴァンパイアになった所為で、太陽が弱点になったのよ」ウィロードはこともなげにいい、カーテンを閉めた。
ドモンジョはなんとか立ち上がった。躰を蝕む感覚がなくなり、楽になった。「大丈夫だ……ジャクリーヌ」
ウィロードは笑った。「太陽を克服するには、私の調合した秘薬を飲む必要があるの。それをあげる。そのかわり、主従契約をしてもらうわ。私の命令に逆らえないように」
ドモンジョはウィロードの従僕になった。彼は太陽を克服し、昼間も出歩けるようになったが、活動するのは真夜中ばかりだった。
ヴァンパイアのもうひとつの副作用、吸血衝動の所為だ。彼は定期的に民家を襲い、住民を皆殺しにした。噛みつき、血を吸い上げて飲むと、躰に力が漲るのを感じた。美味いと思った。もっと、もっと多く、血を! 金品を奪うのは、ついでだった。もちろんウィロードに命令されてやったことだが、彼自身も裕福になり、ジャクリーヌに豊かな暮らしをさせてやることができた。
そして。
五十年が経った。ヴァンパイアには寿命がない。太陽で死ぬか、餓死するか、殺されるかしないと死なない。ジャクリーヌは人間だから歳をとる。そこでふたりはヴァンサンを離れ、ガルシアの大魔術師ファーギンのもとを訪れる。そして若さの泉を大金でもらい受けた。秘薬を飲んだジャクリーヌは少女へと若返り、サラサとして、ドモンジョと新しい生活を始めた。
しかしウィロードは追ってきた。結局、ドモンジョは魔女の呪縛から逃れることはできなかった。




