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竜の姫君と巫女  作者: 剣持真尋


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32/89

五十年前の悲劇


 アバスカル帝国の多種属傭兵部隊、《ステファーヌ》の古株ニコラ・ド・ドモンジョは、五十年前のヴァンサン王国大規模戦線のなかを生き延びて、数人の仲間と撤退する途中だった。前も後ろもおぞましいほど多くの死体が転がる戦場に、恋人の姿はない。血眼になって、ドモンジョはジャクリーヌの姿を探した。


「彼女はお前を残して、先に逃げたんじゃないか」トロールのボイはいったが、決して死んだとは口にしなかった。


「なにいっている。念話テレパシーで呼びかけられたんだ。この辺りにいるはずだ」


 彼女は本気で戦えば魔獣だって倒せる。戦争が終わるまでに、一生遊んで暮らせる額を稼ごう。かつての約束が思い出され、ドモンジョは馬をさらに走らせた。こんなところで死ぬわけにはいかない。もちろん彼女も。必ず救い出して離脱するのだ。《ジャクリーヌ! どこだ!》


「まあ、あなたたち、どこへいくというの?」


 ドモンジョは声のほうを振り向いて、戦慄した。「敵が追いついてきたぞ!」


 ヴァンサンの女兵士は一人だった。だが、


「気をつけて! こいつはヴァンパイアよ!」エルフのピーボディが警告した。


 吸血鬼ヴァンパイアは戦場の切り札だ。血液を取り込めばそれだけ力が増す奴らは、魔法に長けているだけでなく、身体能力も高い。目の前の敵は、ヴァンサンの兵士の死体を持っていた。致命傷となったであろう首の裂傷から血を飲んでいる。ヴァンパイアに兵糧の概念はない。戦場には食物が溢れており、消耗しても体力を回復できる。対してこちらは皆疲れきっている。


「ちくしょう! 一斉にかかれ!」同じ人間のエドワードが叫び、刀を振り上げて飛びかかった。ドモンジョもあとに続く。


 それが、最後の光景だった。


 ボイの頭が吹き飛ばされる音。ピーボディが火だるまになった異臭。斬り刻まれたエドワードの肉片を浴びて、そしてドモンジョは、背後から噛みつかれた。

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